「モノ」を中心としたビジネスモデリング実践! UMLビジネスモデリング(3)(1/2 ページ)

前回までの内容を踏まえ、いよいよ具体的なビジネスモデリングの作業へ入っていく。今回は、UMLの各種チャートを応用してビジネスモデルを明確にしていく過程を、前回に引き続き具体的なシナリオに沿って解説する。

» 2007年07月04日 12時00分 公開
[内田功志,システムビューロ]

現状のビジネスモデルを「見える化」する

 前回、ビジョンと戦略からビジネスゴールを導きましたが、本格的なビジネスモデリングはこれからです。

 まず、現状(As is)のビジネスモデルがどうなっているかを見える化します。現状が明らかになったら、そのAs isなビジネスモデルのどこをどのようにすればより良い(To beな)ビジネスモデルになるかを検討していきます。このAs isからTo beへ洗練する際にビジネスゴールを適用することにより、ビジョンや戦略に即したビジネスモデルを実現することができるわけです。

 今回は、As isなビジネスモデルを明確にするところまでを説明します。ここで前回に引き続き、小さな洋菓子屋さんを扱います。

ビジネスユースケース

 現状といっても実際にはまだこれから店をオープンするので、いま現在ビジネスモデルがあるわけではありませんが、オーナー夫妻はまずは一般的なビジネスモデルを流用しようと考えています。従って、ビジネスユースケースもごくごく一般的な製造販売業にありがちなモデルになりました。

ALT 図1 ビジネスユースケース図:洋菓子ビジネス

 この図の意味は、「顧客」に対して「洋菓子を販売する」ことをしたり、「顧客」が「洋菓子を注文する」ことをしたり、それを「宅配業者」を使って「洋菓子を届ける」ことをしたりします。さらに、決まった日時(「タイマ」)になったら「洋菓子を作る」ことをします。「洋菓子を作る」のに必要な「材料を仕入れる」ことも行ったりします。製造、販売、仕入れといった主要な業務がすべて含まれています。

 ビジネスユースケース図は、UMLのユースケース図を応用しています。UMLをそのまま使う場合は、ステレオタイプを使用します。

ALT 図2 ユースケース図:洋菓子ビジネス(クリック >> 拡大)

ビジネスワークフロー

 内容を見てみますと、やはり一般的でよく見掛けるようなビジネスワークフローになっています。ビジネスワークフローはUMLのアクティビティ図を使用します。

ALT 図3 ビジネスワークフロー:洋菓子を販売する

 大抵のビジネスモデリングはここまでです。ビジネスの流れが分かったからそれで良いということなのでしょうが、実際にはそれでは不十分です。

ビジネスの中で扱う「モノ」に着目する

 ビジネスの中では物質としてのモノや概念としてのモノを扱います。これらのモノをどのようにとらえてどのように扱うかによって、ビジネスの流れは同じでもビジネスの質やスタイルが変わってしまいます。例えば、自動車を扱う場合に、単に自動車としてひとくくりで扱うことができるのか、普通自動車、小型自動車、軽自動車に分類して扱うのか、大型自動車、普通自動車、特殊自動車などに分類して扱うのかによって、ビジネスのスタイルや組織などが変わってきます。

 つまり、ビジネスで扱っているモノやビジネスに必要なモノを見える化できなければ、ビジネスを見える化したことにはならないのです。しかもそれらがビジネスゴールやビジネスルールにどう影響され、またどう対応すべきかを表現できなければ、ビジネスが正しく機能しているかは判然としません。

 それらはビジネスのドメインモデルとして定義します。ドメインモデルは、ビジネス上のモノ(これをビジネスエンティティと呼ぶ)の構造を定義します。

ビジネスエンティティ

 洋菓子屋さんの場合は、以下のようなビジネスエンティティが考えられます。

ALT 図4 ビジネスエンティティ:洋菓子ビジネス

ドメインモデル

 これらのビジネスエンティティはビジネスの中でまったく無関係に存在しているのではなく、ビジネスを実現するために何らかの関係を持っています。今回のケースでは以下のようになります。

ALT 図5 ドメインモデル:洋菓子ビジネス

 さらに関係だけではなく、関係における多重度を明らかにすることで、なお一層関係の意味や深さを知ることができます。

ALT 図6 ドメインモデル:洋菓子ビジネス−その2

 図6に記されたビジネスエンティティ間の多重度を見ると、洋菓子とレシピは1対1であることが分かります。レシピには複数の材料を使うようになっており、洋菓子も同様の材料で構成されています。さらに、材料は必ずレシピに含まれているわけではなく、もちろん洋菓子にも含まれない場合があることも分かります。試作品に関する材料はこの状態にあると考えられます。

 販売のワークフローでも出てきた品物や支払いも扱えるようになっています。ここで挙がっているモノは「支払い」以外はすべて物質としてのモノですが、「支払い」は概念としてのモノです。支払い全般に関して抽象化しました。ビジネスの中ではこのように抽象化して概念として扱った方が都合が良いことがあります。

 「品物」は概念ではありませんが、ある意味では概念といえるかもしれません。この場合は箱に納められたケーキや袋に詰められたクッキーが「品物」になります。つまり洋菓子そのものではなく、それらをまとめて包装したものということになります。洋菓子でもなく、包装材でもない、それらを組み合わせて「品物」という状態ができると考えた方がいいかもしれません。

 このようなドメインモデルはビジネスユースケースを検討している時点で見つけ出すことができます。ドメインモデルはビジネスの中核をなすモノをまとめたもので、これ以降の作業で頻繁に取り扱うことになります。

 このドメインモデルもUMLのクラス図を応用しています。UMLをそのまま使う場合はステレオタイプを使用します。

ALT 図7 クラス図:洋菓子ビジネス(クリック >> 拡大)
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