ビジネスモデリングで、何がどう変わるのか?@IT情報マネジメント 勉強会レポート(1)(1/2 ページ)

2007年12月6日(木)、@IT情報マネジメント編集部主催による「第1回 戦略マップ によるビジネスモデリング勉強会」が開催された。当日は、ビジネスモデリングに高い関心を持つ受講者が多数集まり、講師の説明に熱心に耳を傾けていた。その模様をレポートしよう。

» 2008年01月08日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

ビジネスとシステムの断絶

Speaker

システムビューロ代表 内田 功志(うちだ いさし)氏

日立系のシステムハウスで筑波博に出展した空気圧ロボットのメインプログラマを務め、富士ゼロックス情報システムにてオブジェクト指向の風に触れ、C++を駆使して印刷業界向けのシステムを中心に多数のシステムを開発。現在、ITコンサルタントとして、システムの最適化や開発の効率化などの技術面、特にオブジェクト指向開発に関するコンサルティングやセミナーを実施してきた。最近ではビジネスに即したシステム化のコンサルティングを中心に活動している。



 「なぜ、ビジネスの役に立たないシステムが出来上がってしまうのか? それは、ソフトウェア技術者がビジネスを理解できていないからです。一方、ビジネスパーソンもシステムを理解できていません」

 本勉強会の講師を務めたシステムビューロ代表 内田功志氏は、冒頭でこのように問題提起した。

 「ソフトウェア技術者は、一般的にビジネスに関心が薄い。同様に、ビジネスパーソンはシステムに対する関心が薄い。お互いの分野に対する理解が不十分なまま、自分たちのやっている仕事の方が相手の仕事よりも優れていると思う傾向があります」(内田氏)

 ビジネスにとって本当に役立つシステムを実現するには、ビジネスの専門家とシステムの専門家の間の壁を壊し、お互いが歩み寄る必要がある。そのための方法論として、「戦略マップによるビジネスモデリング」が有効なのだと内田氏はいう。

 「コンサルタントとしてお客さまに話を伺っていると、『ビジネスとシステムをシームレスにつなぐなんて、夢のような話ですね。本当にそんなことができたら素晴らしい』とよくいわれます。でも、これは夢物語でも何でもないのです。きちんと一から手順を踏んで行えば、誰でもできることなのです」(内田氏)

ビジネスモデリングの概要

 ではビジネスモデリングとは、一体何をどのように行うものなのだろうか? ひと口にビジネスモデリングといっても、さまざまな方法論が存在する。その中でも、内田氏が提唱する「戦略マップによるビジネスモデリング」は、ほかにはない特長を持っている。

 「ビジネスモデリングの基本的な方法論としては、RUP(ラショナル統一プロセス)の手法を用います。これに、実績のあるビジネス戦略ツールであるBSC(バランスト・スコアカード)、その中でも特に戦略マップを取り入れているところにこの方法論の特長があります。これは、豆蔵の羽生田会長と私が独自に編み出した手法です」(内田氏)

 全体の手順は、以下のようになっている。

1. BSCの戦略マップを作成

2. 戦略マップからビジネスゴールを検討

3. ビジネスステータスの評価

4. ビジネスユースケースモデルの作成

5. ビジネス分析モデルの作成

6. モデルの洗練

7. 有効なシステムの識別

 これらの手順は、従来のシステム開発手法でいうところの要求分析、要求定義を含んでいるが、それらにとどまらずさらに広い範囲を網羅している。すべての手順を完了し、ビジネスに有効なシステムを識別した結果、システムの初期段階のユースケースが導き出される。その後は、そのユースケースを基に通常のシステム開発を行えばよい。

 これら全体の手順の中でも、第1回の勉強会では前半部分、「ビジネスユースケースモデルの作成」までの手順について解説が行われた。後半部分については、1月下旬に開催予定の第2回で説明が行われる予定だ。

戦略マップの作成〜ビジネスゴールの検討

 戦略マップを作成するに当たっては、まずその企業の「コアバリュー」と「ミッション」を導き出す必要がある。

「これは、日本の企業であれば『企業理念』として掲げているものだと思っていただいて間違いありません。企業理念はコロコロ変えるものではありません」(内田氏)

 さらにそこから、環境分析や3C分析を使ってその企業にとっての将来的な大目標である「ビジョン」を定義、続いてSWOT分析クロス分析を用いて具体的な「戦略目標」を定義する手順が、@IT情報マネジメントの連載記事『実践! UMLビジネスモデリング』と同じ洋菓子店のケーススタディを使って紹介された。

参考記事
実践! UMLビジネスモデリング(@IT情報マネジメント)

 ここからが、いよいよ戦略マップの出番だ。ここまでで定義した戦略目標を基に、BSCの戦略マップを作成していく。これは、戦略目標を「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」の4つの異なる視点、4つの異なる階層でとらえて、さらにそれぞれの戦略目標間の因果関係を定義したものだ(図1)。

ALT 図1 洋菓子店の戦略マップ

 さらに、戦略マップの中の戦略目標にビジネスゴールをマッピングする。その際、ビジネスゴールをさらに検討して、新たなビジネスゴールも識別する。その結果、洋菓子店のケーススタディで定義されたビジネスゴールは、以下のようになった。

図2 戦略マップの戦略目標から導き出したビジネスゴール

 このようにして、その企業の戦略目標とビジネスゴールを定義していく。そして、以降で行われるビジネスモデリングの作業は、すべてこれらの戦略やビジネスゴールを達成するために行われることになる。したがって、ここで抽出する戦略やビジネスゴールの精度は、ビジネスモデリングの作業全体にとって非常に大きな比重を占めている。

 さらに、内田氏はこう説明する。

「BSCから取り入れているのは戦略マップだけではなく、スコアカードというツールも利用します。これは、ビジネスの目標値と実績値を記入することにより、ビジネスモデルやシステムの有効性を事後に評価するためのものです。しかし、この部分に関しては、今回の勉強会でも、拙著『戦略マップによるビジネスモデリング』でも取り上げていません。この『評価』の方法に関しては、@IT情報マネジメントの連載記事第7回で紹介していますので、そちらを参照してください」(内田氏)

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