フレームワーク、コンポーネントベース開発の効果を検証(前編)NTTコミュニケーションズの挑戦(1/2 ページ)

» 2002年07月06日 12時00分 公開
[宮下知起,@IT]
ALT 「ShareStage(シェアステージ)」のTOP画面。オンラインディスク、ブックマーク、会員制サイトへのオートログイン機能の3つのサービスを提供している
http://www.sharestage.com/

 NTTコミュニケーションズは、インターネット上での情報共有サービス「ShareStage」を2001年6月11日からスタートした。J2EEをベースに開発されたShareStageは、日立ソフトのJ2EEフレームワーク「Assam

AnyWarp」、デュオシステムズのEJBコンポーネント「CPIC」を用いて開発されている。フレームワークとコンポーネントを採用した先進的な事例である。

 前編の今回は、フレームワーク、コンポーネントベースの開発がShareStageのビジネスモデルにどう貢献したか、短期開発をどう実現したかにポイントを置いて解説する。後編では、ユーザーであるNTTコミュニケーションズにとって、フレームワーク、コンポーネントベースの開発がもたらす意味、課題について解説することにする。

新規事業を外部との連携でインキュベート

 「ShareStage」の企画・開発を行ったのは、NTTコミュニケーションズ 経営企画部 ドット・コム・ビジネス・インキュベーション・タスクフォース“.com.bit”である。同部署は、NTTコミュニケーションズが以前から行ってきたBtoCやOCNなどのISP事業とは異なる、新しい顧客サービスを企画・開発し、ビジネスとして成長させるミッションを持っている。

 同社はこれまで、システム開発のほとんどを自社内、あるいは研究所や子会社を使って行ってきた。しかし、同部署の役割は同社がこれまでノウハウを蓄積してこなかった分野での新規事業のインキュベートだ。「電気通信分野とは違い、サービス要件の定義段階からサービスのカットオーバーまで、システム構築にスピードが要求されます。しかも、われわれが持っていないさまざまなノウハウが必要です。自社内で作ることにこだわるのでなく、外部との連携で開発することを基本方針としています」(NTTコミュニケーションズ 経営企画部 ドット・コム・ビジネス・インキュベーション・タスクフォース“.com.bit” プロデューサ 白石義彦氏)

ALT NTTコミュニケーションズ  経営企画部 ドット・コム・ビジネス・インキュベーション・タスクフォース“.com.bit” プロデューサ 白石義彦氏

 ShareStageのアプリケーション開発に携わった企業は、日立ソフトウェアエンジニアリング(以下日立ソフト)とデュオシステムズをはじめ3社。各社とも、J2EEベースの開発では定評のあるシステム・インテグレータである。また、日立ソフトとデュオシステムズは、コンポーネント流通のマーケット創出に取り組むコンポーネントスクエアの出資企業であり、AnyWarpとCPICをコンポーネントスクエアのマーケットプレイスに提供、コンポーネントベースの開発の普及にも熱心だ。

ブロードバンド時代のニーズを拾う「ShareStage」

 ShareStageでは、ブロードバンド時代のニーズをにらみ、その代表的なサービスとしてオンライン・ストレージを提供することにした。回線が速ければ、オンライン上のストレージをストレスなく利用できる。ブロードバンドを体感でき、かつユーザーにとって便利なサービスというわけだ。しかし、オンライン・ストレージ・サービスは、だれにでも比較的容易に提供できるサービスである。このサービスだけに限ってしまえば、価格競争になるだけだ。そこで、付加価値として個人やグループで使えるオンライン・ブックマークの機能も用意した。これは、いつでも、どこでも、どの端末からもブックマークしたサイトにアクセスできるというサービスだ。

 もう1つの機能として、オートログインを用意することにした。これは、会員登録をしているサイトを利用する際、ShareStageによってIDやパスワードが自動入力されるサービスだ。同社にとって、このサービスには電話顧客以外の顧客情報の収集という重要な役割がある。「お客さまは、ただでは個人情報を入力してくれません。ユーザーが日常的に利用するサイトの多くに、IDやパスワードを要求するものがあり、ユーザーはそれらをよく忘れてしまいます。そこでShareStageをそれらのサイトを利用するためのインターフェイスとして利用していただき、その代わりにお客さまの情報を入力していただくわけです」(白石氏)

ALT 会員制サイトのユーザーIDとパスワードを「レジストレーション」で登録しておく。「オートログイン」のページから、例えば「Yahoo! オークション」をクリックすると、ユーザーIDとパスワードが入力された状態で、「Yahoo!オークション」のログイン画面が開く。会員制サイトの「リンク集」と「ユーザーID・パスワード帖」、「ログイン画面への自動入力機能」の3つが合わさったサービスと言える

他サイト向けパッケージサービスも提供しビジネスモデルを確立

 「BtoCサイトだけでビジネスにするのは大変です。そこに必要なものは、マーケティング的な知恵であったり、しかけであったりしますが、そこは弊社の得意な分野ではありません。そこで、ビジネスモデルに幅を持たせようと考えました。いろいろなお客さまがShareStageをサービスで提供できるよう、個々の機能を自由にパッケージできるようにする必要がありました」(白石氏)

 ShareStageは、NTTコミュニケーションズが一般向けに提供するサイトだけでなく、ほかのサイトにもパッケージサービスとして提供できることを目的とした。そうなったときにシステムに求められる要件は、すでにオンライン・ブックマークの機能を持っている顧客に対してはその機能を削ったものを提供できたり、顧客のビジネスに合わせて、オンライン・ストレージ利用の料金モデルを自由に設定できたりする、というものだ。「そのほかにも、一般企業の管理者向けの管理機能を提供できることも必要でした。ShareStageというビジネスモデル、そして、そのビジネスモデルを支えるための機能提供の仕方をパッケージにできること、この2つがわれわれの一番の要求条件でした」(白石氏)

 実際、2001年6月11日のカットオーバー以降、NTTコミュニケーションズの一般向けサイトのほかに、中央大学向けサイト、専修大学向けサイトに対してサービスの提供を開始している。

 ShareStageは、他サイト向けのパッケージサービスも提供することで、ビジネスモデルを確立しているというわけだ。

トライアルしながらの短期開発を実現

 ShareStageの開発では、カットオーバー前に中央大学でのトライアルという課題を抱えていた。トライアルを行いながら、サービスのユーザビリティや利便性を検証し、システムに反映していくという作業が発生した。このように、仕様変更が頻発する開発作業は、開発する側にとっては非常に進め方が難しい。しかも、プロトタイプの完成が2月、カットオーバーが6月という非常に短期間での開発である。そこで、日立ソフトのフレームワーク「Assam AnyWarp」が活躍することになる。同製品は、当時の段階ではまだ社内ツールだったが、早期からサーバサイドJavaに取り組んできた同社にとって、同ツールを使った開発手法やドキュメンテーションが確立されていた。「Assam AnyWarpを使うことによって、プレゼンテーションとビジネスロジックを簡単に切り分けることができました。特に、ビジネスロジックはEJBで切り出され、明確なレイヤができました。これがモノシリックに作られていたとしたら、今回のような短期間で、かつトライアルをしながらの開発には対応できなかったでしょう」(日立ソフトウェアエンジニアリング ネットワーク本部 ネットワーク第2設計部 部長 堀田匡哉氏)

ALT 日立ソフトウェアエンジニアリング ネットワーク本部 ネットワーク第2設計部 部長 堀田匡哉氏

 NTTコミュニケーションズの白石氏も、ShareStageを短期に開発できたことについて「当社の通常のやり方ですと、詳細仕様書までこちらで書いて、がちがちにプロジェクト管理をします。しかし、今回は要件定義以降はすべて日立ソフトさんにお任せしました。われわれの側での開発の負担が減ると、自由なことがいえます。中央大学でトライアルをやっていただいたり、そのほかにも比較的自由なことをいわせていただきました。われわれのオーダーに柔軟にこたえていただけたのも、フレームワークベース、コンポーネントベースの開発だったからだと感じると同時に、われわれが想定しているビジネスを支える開発手法なのだと思っています」と語る。

 もう1つ、トライアルをしながらの短期開発を成功させる手法として日立ソフトが選んだのは、プロトタイプと本稼働のシステムを並行で開発していく手法だった。「作業期間がもう少し長く取れれば、プロトタイプを作成し、それをインクリメンタルに膨らませて完成させる手法が取れました。しかし、今回のような短期間でそれを行うのは難しかったのです。プロトタイプは、クラス設計を非常にラフにし、かつEJBを使わないでビーンだけで作りました。操作性と基本的なコンセプトをプロトタイプで検証し、それを本稼働のシステムに反映していくというやり方です。この方法のおかげで、作業の手戻りの発生や大幅な仕様変更の作業が発生することなく、細かな修正だけで済みました」(堀田氏)

 日立ソフトでは、顧客から指定されない限り、基本的にはすべての案件でAssam AnyWarpを使うことにしているという。同製品は、ソフトウェアフレームワークだけでなく、開発手法やドキュメンテーション方法までがパッケージングされている。そのため、開発手法やドキュメント標準の策定に時間を割くことなく、大規模開発や複数のベンダがコラボレートする開発をうまくまとめることができる。

 Assam AnyWarpは、ShareStage開発時では、個別サーブレット方式のみに対応していた。製品では個別サーブレット方式と集中サーブレット方式の2種類に対応している。Jakarta ProjectのStrutsなど、現在では集中サーブレット方式を採用したものがブームのようだ。どちらが良いかは宗教論争的な側面もあるが、堀田氏は「個別サーブレット方式のように画面とサーブレットが1対1に対応していると、大規模開発では、部分に分けて開発を振り分けることができます」と語る。集中サーブレット方式では、画面を増やすたびに、同じサーブレットに手を入れなくてはならないが、個別サーブレット方式ではそれがないというわけだ。実際、日立ソフトでも、これまでの開発は個別サーブレット方式で行ってきているという。

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