Eclipseテクノロジ最前線EclipseCON 2006 参加レポート

3月20日からの4日間、米国サンタクララにて「EclipseCON 2006」が開催された。EclipseCONは、オープンソースコミュニティ団体であるEclipse Foundationが主催する、年に1度のEclipse最大のイベントである。

» 2006年05月10日 12時00分 公開
[照井康真(テクノロジック・アート),@IT]

 今回は世界各国から1407人の参加者が集まった。前回は約1000人の参加者だったので、およそ1.4倍に増えた計算になる。日本におけるEclipseメンバーの集まりであるEclipse Japan Working Groupからの参加も、事務局であるNTTコムウェアの高木浩則氏をはじめとして10人以上が参加した。参加者の数だけではなく、例えばテクニカルセッションは140以上に上るなど、イベントの内容も盛りだくさんになり、コミュニティとしてのEclipse Foundation本体の成長がうかがえる。

Eclipseでも組み込みが重視

 EclipseはすでにJava開発環境としての地位を確立し、次のステップに移っているといえる。Ruby on RailsやPHPなどの開発環境もその1つだが、今回特に重要視されたのは、組み込みソフトウェアの開発環境と、Eclipse Platformを基盤としたデスクトップアプリケーションを作成するためのRCP(Rich Client Platform)である。

 ハードウェアの進化により、組み込みソフトウェアが大規模化、複雑化し、モデル駆動型開発などのオブジェクト指向技術の必要性が高まっている。Eclipseは、オープンソースコミュニティによるプロダクトというアプローチをJavaの統合開発環境以外の分野に提供する段階にある。中でもC/C++ による組み込みソフトウェア開発は前述のニーズにマッチしているし、RCPは、Eclipseがすでに持っているフレームワークを応用しやすい。また、Eclipseに加盟している企業の戦略として、以前は対サン・マイクロシステムズのNetBeans(Java統合開発環境)を想定していたが、現在は、マイクロソフトのVisual Studio(C/C++開発環境)や、.NET(リッチクライアント)に対象が移っているといえる。テクニカルセッションのタイトルも「Eclipse vs. Visual Studio」や「Creating your own Domain Specific Modeler using GMF」など、それを感じさせるものがあった。

 テクニカルセッションは主にプロジェクトにかかわる企業が行う。QNXやIBM、インテルなどがC/C++を開発するための環境であるCDTの開発者を出し、ノキアなどが、携帯電話などの環境で動作可能なRCPであるeRCPの開発者を提供しており、いくつかの事例紹介やチュートリアルを行った。

 組み込み分野における開発事例紹介の中で特に印象に残ったのは、Boschによるもので、車載システムを、モデル駆動型の開発環境で開発する事例だった。Eclipseのモデリングに関するフレームワークを、組み込み分野に応用する試みである。「2MBのC言語のソースコードからコンパイルされたバイナリに対し、(コンポーネント仕様である)モデルが120MBになった」のは意外だった。最近の組み込みソフトウェア開発では、人間が記述したソースコードよりも、開発ツールが自動生成したソースコードの方が信頼される場合があるという話を聞くことがある。今後こういった事例は増えてくるのではないだろうか。

 組み込みは、日本企業が世界に最も期待されている分野だといえる。富士通の森出茂樹氏がDSDP(Device Software Development Platform)のサブプロジェクトであるNAB(Native Application Builder)プロジェクトについてのショートトークを行っていた。

 DSDPは、トッププロジェクトになった組み込みソフトウェアに関するプロジェクトである。森出氏はNABプロジェクトのプロジェクトリーダーだ。Wide Studioと呼ばれるオープンソースプロダクトをベースにしており、「さまざまなデバイス向けのネイティブなアプリケーションを作成するための開発環境やランタイムフレームワークを提供する」と話していた。富士通はEclipse Foundationに対して日本企業における先進的な役割を担ってきており(COBOLプロジェクトなどを牽引している実績がある)、今後の組み込み分野での貢献も期待されている。

 Eclipse Foundationのメンバー企業が参加するメンバーミーティングでは、京都マイクロコンピュータの植田省司氏が、EclipseのCDTデバッガを通してハードウェア機器に組み込まれたソフトウェアをテスト・デバッグするデモンストレーションを行った。

 ポスターセッションではNECの撫原恒平氏が、組み込み分野でのCDTを利用したリモートデバッギングや、TPTPを利用したプロファイリングに関するポスターを掲示し、集まってきた人々の対応に追われていた。

ALT TPTPを利用したプロファイリングに関するポスター

「RCPはロケットのようだ」

 「Eclipse Trader」や「GumTree」など、いくつかのRCPアプリケーション例が知られているが、NASAの火星探索情報の分析に利用されているMaestroの事例紹介には参加者の興味が注がれていた。「Eclipse RCPはロケットのようだ。部品構造や拡張可能なGUI、共通のアプリケーション能力を提供する」とし、利用されているEclipseが提供するいくつかのフレームワークなどについて語られた。特に画像処理については、実装上のノウハウなどの詳しい部分にまで触れられた。聴衆者の誰かが作るRCPでのPaint Shopのような画像描画アプリケーションに応用されるかもしれない。

 日本からはNECソフトの大形和美氏が、JALCEDOと呼ばれるオープンソースの開発環境についてショートトークを行った。JALCEDOは、「RCPベースのリッチクライアントアプリケーションをより簡単に作成できる」と話していた。今後のEclipse Foundationへの貢献に対する大きな可能性を感じた。

Java言語の開発環境も進化している

 現在、Eclipse が最もよく知られているのは「Java言語の開発環境」としての顔だ。Eclipse Foundationのディレクターの1人として活動するWard Cunningham氏、Bjorn Freeman-Benson氏らがパネラーとして参加したパネルディスカッションでは、Eclipse開発環境におけるスクリプト処理について議論が行われた。彼らは共同で、プログラミング作業を自動化するためのスクリプト環境(Eclipse Monkeyと呼ばれている)を提供している。オーディエンスからは「マクロを記録して再生したい」「何人もの開発者の開発環境を自動的に設定したい」など、たくさんの意見が出されたが、議論はBOF(Bird of Feather)に持ち越された。

 また、ほかのテクニカルセッションでは、次期バージョンで強化されるAPT(Java Annotation Processing)や、最近話題のAJAXやSOA関連のプロジェクトについても詳しい解説が行われた。

オープンソースとビジネスの2つのマインドを合わせ持つ新たなコミュニティ

 EclipseCON 2006では、Eclipse Foundationがオープンソースコミュニティであることを常に感じた。例えば、昼食のテーブルにも、話題として取り上げるべきテーマである“RCP”や“EMF”などと書かれたプレートが立てられ、参加者間のコミュニケーションを促す雰囲気を盛り上げていた。

 Erich Gamma(IBM)氏はデザインパターンの著者であるGoF(Gang of Four)の1人として日本でも有名である。今回は、プレナリーミーティングのプレゼンターとしてEclipseCON 2006に参加した。「2005年のテーマは “透過性”“予測可能性”“フィードバック”だったが、今年は“健全性”だ」とし、ソースコードの品質だけではなく、長期にわたってプロジェクトやコンポーネントが共存するうえでのチームとしての責務の重要性について語った。

ALT Erich Gamma氏のプレゼン

 Apache Software Foundationの議長を務めるGreg Stein氏によるキーノートスピーチは、オープンソースコミュニティとしてのEclipseとApacheを比較し、両者の今後の提携の可能性などに言及したものだった。同氏はGoogleのオープンソース部門エンジニアリングマネジャーも務め、その後の記者会見で、GoogleがEclipseに加入する考えを持っていることを明らかにしたそうだ。

 また、Ward Cunningham氏は、これまでかかわってきた、CRCカード、JUnit、Wikiでの経験をなぞり、信頼関係に基づく複数人での開発のアドバンテージについて語り、ボーランドのCEOであるTod Nielsen氏は、オープンソースとプロプライエタリの比較をしながら、オープンソースがビジネスにつながっていくと話した。


 最終日の最後のセッションは、Mike Milinkovich会長がモデレーターを務めた。同セッションには、トッププロジェクトのリーダーたちが集まり、2006年6月にリリース予定である「Callisto」について言及した。

 CallistoはEclipseの次期リリース版のコードネームで、Eclipse 3.2とともに10のメジャープロジェクトの最新版がリリースされる。それぞれのプロジェクトの新機能や取り組みについてコメントがなされ、「プロジェクト立ち上げに必要なものは、ある特定の場所ではなく、心の中に存在する」「Callistoのリリースにはみんなからのバグレポートが必要だ」として、Eclipse Foundationがメンバー企業のものではなく、世界中の多くの開発者やユーザーを含めたコミュニティであることを強調した。

ALT 「Callisto」についても情報が提供された

 EclipseCON 2006に参加することで、あらためてEclipseがオープンソースとビジネスの両方の良いところを併せ持つ新しい形のコミュニティであることを認識した。技術者はインターネットやEclipseConのような場を利用して、積極的に意見交換や技術の吸収を行い、一方で、企業はそれぞれの企業戦略に基づきながらEclipseとの関係を模索している。コミュニティ内の相乗効果で、年々良いものがリリースされるEclipseに、今後も注目度が高まることは間違いない。

ALT 来年も開催が予定されている

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