パターン言語事例 − 慶應SFCの『学習パターン』オブジェクト指向の世界(28)(1/2 ページ)

学生向けに「学び方」を伝えるためにパターン言語を使った例が登場した。今回は慶応義塾大学SFCの『学習パターン』を紹介する。

» 2009年08月25日 12時00分 公開
[河合昭男,オブジェクトデザイン研究所]

 前回は「クラウドの潮流を考える − らせん的進化・その2」と題して、対話型のアプリケーション・アーキテクチャの変遷をマクロな視点で展望してみました。1970〜80年代のメインフレーム+ダム端末の時代から、1990年代になってUNIXサーバ & Windowsの普及がきっかけとなりオープン化が進み、クライアント/サーバ型アプリへのダウンサイジングが大流行しました。その後、インターネットの普及に伴って主流になってきたWebアプリケーションは、サーバとブラウザの関係が昔のメインフレームとダム端末の関係に逆戻りした観があります。

 メインフレーム時代からオープンシステム時代、インターネット時代を経て、来るべきクラウドの時代への大きな流れを見ると、「歴史は繰り返す」「世界はらせん的に進化する」の言葉どおり、何度かのイノベーションによる洗礼を受けて進化しながらも振り子の振幅のように一定のパターンが繰り返されていることが分かります。

 さて話は変わって今回は、慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)で作成された『学習パターン』を取り上げます。

外部リンク
▼Learning Patterns(慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパス)

“学び方”をまとめた『学習パターン』

 SFCは研究者のみならず学生に対してもアウトプットを重視する、慶応大学の中でも個性的なキャンパスです。今春、『学習パターン』というガイドブックが全学生に配布されました。これは当連載でも何度か取り上げた、アレグザンダーのパターン言語の展開として興味ある事例です。

ALT 写真1 『学習パターン』

 学習パターンは、新しく入学した学生はどのようにして自分の研究テーマを見付け、アウトプットを作成すればよいかを手助けするための学習ガイドです。ほかのキャンパスとは異なる、アウトプット重視の「SFCらしい学び」を伝えることがテーマとなっていますが、内容的にはかなり一般性のあるものです。

学習パターンとは何か? − 4つの原因

 「……とは何か」という質問には4つの答え方がある、というアリストテレスの4つの原因説に従って、「『学習パターン』とは何か」を考えていきたいと思います(図1)。

ALT 図1 学習パターンとは? − 4つの原因

what − 学習パターンとは何か?

1. 形相因(本質)

 学習パターンはアレグザンダーの提唱するパターン言語の一種で、学習法を対象としたものです。

2. 質料因(素材・構成要素)

 39のパターンで構成されています。詳細は学習パターンの構造として後述します。

why − 学習パターンはなぜあるのか?

3. 始動因(誰が作ったのか)

 このパターン言語は、SFCの総合政策部井庭崇先生の発案で井庭研のメンバーを中心とするプロジェクトが作成しました。プロジェクトメンバーはSFCで公募されました。

4. 目的因

 学生が『自分自身で“SFCでの学び”をデザインしながら、実際に学んでいく』ことを支援することが目的です。SFCらしい学びとは何かを学ぶための実践のヒントを学生に与えるためということもできます。

学習パターンの構造

学習パターンの表現形式

 学習パターンは「Learning Patterns」サイトよりPDFファイルをダウンロードできます。各パターンは、A4サイズ1枚に収まるようにシンプルかつきれいにデザインされています(図2)。配布用冊子はコンパクトなA5サイズで、見開きで1パターンが完結するようにデザインされています。

ALT 図2 『学習パターン』 まずはつかる(No.7)より

 左上の隅にパターン番号、中央上部にパターン名とその下には英語のパターン名がレイアウトされ、その下に概要説明があります。中央にはパターンの内容が一目で推測できるイラストがあります。左ページの下にはそのパターンが使える状況(コンテキスト)が示されています。

 右側のページ上部にパターンの大事なキーワードである問題(Problem)が太字で記述されています。その下のフォース(Forces)は、なぜそのような問題がいつも起きやすいのかを表します。その下にマークがあり、解決(Solution)が太字で示されます。その下に具体的アクションの例が示されます。その下にマークがあり、関連するパターンが示されます。学習パターンのサイトではリンクが張られているので、パターン名をクリックするとそのパターンにジャンプできて便利です。

学習パターンの全体構成

 図3は、39パターンの大まかな関係を階層構造で表したものです。中心に学びのデザイン(No.0)があり、そのまわりにSFCマインドをつかむ(No.1)、研究プロジェクト中心(No.2)、SFCをつくる(No.3)と3つの大きなパターンでカテゴリに分類されています。この3つのパターンを便宜上、第1階層のパターンと呼ぶことにします。第1階層のパターンからはそれぞれ4つの第2階層のパターンにリンクします。ここまではきれいなツリー構造となっていますが、第3階層以降はネットワーク構造です。第3階層は複数の第2階層からリンクし、リンク先も共有されています。それらの線は図では省略されています。

ALT 図3 39パターンの全体構成(SFCサイト「学習パターンの全体像」より)

 図4は、筆者がマインドマップで一部パターンのリンク関係を整理したものです。次に詳細を説明する「まずはつかる(No.7)」を中心にして、リンク関係による親子兄弟を書き出してみました。第3階層となる4つの子のリンク先を書き出しましたが、パターン名に★のあるものは兄弟とリンクしていることを示し、☆のあるものは親の兄弟とリンクしていることを示しています。パターン間の関係はかなり密だといえます。

ALT 図4 39パターンのリンク関係
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