BPMのビジネスケースづくり - BPMベネフィット・チェックリスト(前編)BPTrends(5)(1/2 ページ)

BPMに取り組むに当たって気になるのが、費用対効果だ。BPMには投資するだけの価値があるのだろうか?

» 2007年07月19日 12時00分 公開
[著:ジム・ラデン, 訳:高木克文(日本能率協会コンサルティング),@IT]
本稿は、米国BPTrends.comからアイティメディアが許諾を得て翻訳、転載したものです。

 ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)が、2006年に続き、2007年の企業の最重要課題であることが明らかになった。1400名以上のCIOを対象とした最近の調査結果によれば、ビジネスプロセス改善が、彼らの所属する企業における最重要課題として認識されている。

 ビジネスプロセス改善の方策として多くの選択肢があることはいうまでもない。徹底したプロセス・リエンジニアリングをはじめとして、シックスシグマに代表される新しいプロセスマネジメント手法や、既存システムへの新機能の付加など、多岐にわたる。

 新しいプロジェクト推進アプローチを包含したBPMソフトウェアに投資することにより、継続的ビジネスプロセス改善プログラムを制度化することもできよう。

 この論稿が対象とする読者は、プロセス改善を目的とするBPM投資のビジネスケース※1作成に取り組む方々だ。BPMがもたらす価値の具体例とともに、企業がBPMから得られるベネフィットの全体像について述べる。また、BPMとほかのプロセス改善アプローチとの違いを示す。最後に、BPM実施に伴い発生するコストの基礎知識について解説する。

※訳注1:ビジネスケース=投資に先立ち作成する投資対効果の研究レポートのこと。

BPMの戦略的価値

 プロセスの改善は、コスト低減、収益向上、社員モチベーションの向上、および顧客満足の向上に結び付く。プロセス改善によって経済価値を押し上げた、最も劇的な例が、シックスシグマ(およびリーン・シックスシグマ)手法を導入した企業に見られる。特に有名なのが、GE(ゼネラルエレクトリック)だ。

 マイケル・ハリー(Mikel Harry)は、シックスシグマ手法開発者の1人である。彼は、プロセス改善重視の活動がもたらす経済的インパクトに関する書物を著した。プロセス改善の実施により、GEそのほかの企業が、どのようにベネフィットを享受したのか。ハリー博士は、彼の手法の基本尺度、すなわちシグマを用いて、その例を次のように定量的に示す。

「ほんの1シグマの変化だけで、10〜30%の減資とともに、20%の利幅増、12〜18%のキャパシティ増、12%の人員削減、といった成果を手にすることになるだろう[文献1]」。


 GEが同社のコア市場において数シグマの成果を達成したことを考えれば、同社がいかなる競争市場においてもトップの座を占めている理由は明らかだ。同社のコストは競合他社のそれよりも低く、品質においても優れているのである。

 もちろん、GEは、トップダウン方式でビジネスプロセス・マネジメントを企業カルチャーのコアと位置付けてもいる。たいていの場合、少なくとも初期段階では、BPMのビジネスケースづくりに携わるグループに、このようなコミットメントの意識を持たせることはできない。

 しかし、それは問題ではない。BPMスイート(BPMS)に対する基礎的な投資からだけでも大きなリターンが得られるのだから。コネティカットを本拠地として調査研究を行っているガートナー社のレポートによれば、プロセス再設計にまで踏み込むことがまったくなくても、対象プロセスにおける業務改善効果がかなり期待できる、という。さらに、「ハンドオフ※2、タイミング、および職務の現状を明確にするだけでも、通常は12%以上の生産性向上ができる文献2」と主張する。

※訳注2:ハンドオフ=あるアクティビティに対する責務を他者に移転、あるいは自動化すること。

 多くのプロセスにとって、それは効率改善の端緒でしかない。本稿の後編では、プロセス改善を目的とする対BPMS投資とほかの方策との比較を行う。しかし、すでにわれわれの目には、BPMSに対する基礎的な投資だけでも、かなりの価値を産み出せることが見えている。

 それどころか、BPMSに該当する現実のプロジェクトは、はるかに大きな価値をもたらしている。ガートナーの別のレポートによれば、BPMSプロジェクトの78%において15%以上の内部収益率(IRR)を実現した文献3、という。これらのプロジェクトは実に短期間内に遂行された(67%が6カ月以内、50%が4カ月以内)、とも報じている。BPMによるプロセス改善から短期間内に得られる大きなリターンに、企業が目覚めつつあるのだ。

ロジスティクスにおけるBPMベネフィット事例

 BPMが提示する価値の核心に位置するのは、継続的改善のコンセプトである。むしろ、プロセスの継続的改善により一貫してROIの増加を享受できるという特性こそが、BPMをほかのプロセス改善の手段から隔絶しているのだ。従って、BPMビジネスケースの作成に際しては、プロセスの最初のイテレーションと、そこから得られる価値に関する考察のみにとどめてはならない。長期間に付加される増分価値の検討が欠かせないのである。

 ある大手コンピュータ・メーカーが、自社のロジスティクス業務の中に、1つのプロセス改善機会を発見した。配送できないかもしれない商品(いわゆる「出荷停止」)のために掛かるコストで、四半期当たり数百万ドルの収益が失われていたのだ。プロセス分析により、以下の点が確認された。

  • 多くの面で改善が必要。特に、複数の社内部門と外部パートナーがかかわっているため、プロセスにおける受注処理の進ちょく状態を完全に把握することが困難である。
  • 出荷1件当たりに許された検閲時間が48時間足らずであり、作業の優勢順位付け、各タスクの完了、およびエスカレーション※3が、問題解決に欠かせない状態にある。※3が、問題解決に欠かせない状態にある。
  • 受注に関する情報が乏し過ぎたり遅過ぎたりすることが多い。出荷業務の完遂のためには、リアルタイムの連絡が求められる。

※訳注3:エスカレーション=窓口ではさばき切れない顧客からの問い合わせを上級職者へ引き継ぎ対応すること。

 改善初期に展開されたプロセスでは、受注物件処理が滞留すれば瞬時にモニターされ、顧客サービスチームに知らされるようになった。出荷対策が直ちに講じられるよう、対応期限が自動的に決められ、それに伴うタスクの手順も示された。また、コールセンターにおける最良の顧客対応策を示す標準手続き指示が発信された。

 改善後のプロセスの先行マネジメント方式は、大きな成果をもたらした。何段階かのプロセス・バージョンアップを経て、同社は、主要評価指標である出荷ミス防止率を5%から70%にまで向上させた。四半期当たり、200万ドル以上の節約効果である。グローバル化の進展とともに、この数値は伸び続けている文献4

 しかし、同社の活動は完了していない。現在は、BPMスイート内の分析とシミュレーションの能力を駆使して改善の次のラウンドの在り方を探っている。

 2006年のウエーブレポートにおいて、同レポートを発信するフォレスター・リサーチ社は、「自己診断プロセスを伴う比類なきプロセスの最適化を顧客に提示するのが優れたBPMスイートだ」という認識を示した文献5。BPMスイートは、ビジネスプロセス機能のシミュレーションに加え、プロセス・ボトルネックの代替策の提示やプロセス改善を行うアナリストをステップバイステップでガイドすることさえできる。

 同社のロジスティクス・チームが習得したのは、配送停滞について先行的に顧客に知らせるための新しいステップであり、そのおかげで、顧客サービス担当者は配送進行状態の詳細を事前に把握できるようになった。

 この最新プロセスバージョンのパイロットテストの結果に基づき、同チームは出荷ミス防止率を90%以上に高められる可能性があると推定している。

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