なぜ、Webサイトで適切な情報提供ができないのか?CMSビジネス活用術(1)

Webサイトは一般の企業にとっても、大きな武器だ。しかし、この武器を使いこなしている企業がどれだけあるだろうか? この連載ではCMS(コンテンツマネジメント・システム)を中心にWebサイト/コンテンツ活用の方法や効果を事例を交えて見ていく。

» 2006年08月08日 12時00分 公開
[デジタルアセット研究会,@IT]

 企業がWebサイトを通じて直接、情報発信を行うことが「当たり前」のことになって数年たった。とはいえ、顧客・パートナー・社員・株主といったさまざまなステークホルダーに対して適切な情報とは何か、それをどのような形態・方法によって提供すればよいのかという点に関しては、またまだ各社とも手探りという状態だといえそうだ。

 欧米では、企業がCMS/コンテンツマネジメントというツールを使い、Webサイトを通じて製品やサービスに関するコンテンツをビジネスに活用することで、売り上げ向上やコストダウンを図っている例が多く見られる。この連載ではWebサイトに表示するコンテンツを管理する道具であるCMSを通じて、CMSをビジネスに活用する方法、その効果などを6回にわたりまとめてみたい。

WCMとECM

 CMS(コンテンツマネジメント/コンテンツ管理システム)と呼ばれる分野の製品は、企業の非構造化データを管理する手段として発展したECM(エンタープライズコンテンツ・マネジメント)と、企業のBtoC、BtoB、BtoEなどのWebサイトへコンテンツを配信するWCM(ウェブコンテンツ・マネジメント)という2つの異なる利用用途にそれぞれ分岐・展開してきた。

 ECMはWeb系への配信モジュールを、WCMはドキュメント管理系のモジュールを搭載しており、ECMとWCMは一見混とん・混在しているように思えるが、導入検討を行うユーザーは前者は広報部門、後者はIT部門と明らかに異なったターゲットを持っている。日本では一般的にCMSという場合にはWCMを指し、ECMはドキュメント管理ということが多いので、以下ではWCMをCMSと呼ぶ。

図1 WCMとECM 図1 WCMとECM

 今回の連載では主にCMS(WCM)を機軸に、CMSをビジネスに活用していくとはどのようなことなのかを、BSC(バランスト・スコアカード)の4つの視点──「財務の視点(過去)」「顧客の視点(外部)」「内部業務プロセスの視点(内部)」「イノベーションと学習の視点(将来)」──を切り口にまとめてみたい。

広報部門のみの活用ではもったいない

 CMSは日本では2004年から2005年にかけて、広報部門の方々が管轄するコーポレートWebサイトに導入されてきた。これは、いわゆるWebマスターと呼ばれる人々の作業の省力化・簡便化というニーズに応えるものである。IR情報やWhat's Newの更新が主な用途になるが、これだけではCMSは宝の持ち腐れである。それに気が付いたユーザーが2006年から出現し、CMSの導入検討チームに広報部門とマーケティング部門の人々も参加するようになる。

 企業の業態によるが、製品やサービスを販売し対価を得るビジネスを行う場合は、ドメイン名を分ける、分けないは別にして、コーポレートサイトと製品・サービス情報サイトでは、これを閲覧しにくるサイト利用者は違う。コーポレートサイトはその会社の経営情報などに興味がある投資家やビジネス関係者であり、製品・サービス情報サイトはその購買や利用を考えている顧客やユーザーである。

 BSCの4つの視点からすると、製品情報サイトは「顧客の視点」で検討できるものであり、企業の売り上げにつながる。ホールディングカンパニーに広報を一本化して「財務の視点」からのコストダウンを実施して、CMSでブランディングの統一を行い、少人数でコンテンツを更新していくというのも重要であるが、それにプラスして顧客へのタッチポイントを強化することも重要である。

ある企業の製品・サポート情報サイト

 ある製造業のコーポレートサイトが2006年にリニューアルされた。リニューアルは「適切な人へ適切な情報を」がキーワードで、「コーポレートサイト」と「製品情報サイト」を別のドメインにしたことがポイントだった。

 その製造業の製品情報サイトに入り、サポート情報にアクセスをしてみると、製品ごとにFAQの情報が掲載されており、確かに「適切な人へ適切な情報」が与えられるようになっているが、FAQサイトのデザインがバラバラなのである。これはおそらく事業部ごとにFAQサイト専用のWebサーバがあり、そのデザインが統一されていないのであろう。

 顧客はその会社のブランドイメージが顧客自身の中で向上すればするほど、ロイヤリティが高くなり、同じ会社の製品を購入する傾向がある。そこで提供側のマーケターは、クロスセルアップセルを行って、購買へと誘導する。

 このような流れを作り出そうという場合、FAQのサイトは共通のデザインで、最新の状況に合わせて頻繁に更新をされていて、関連するリファレンスもリコメンドされ、よくある質問が上位の目に付くところにあることが望ましい。こうしたことは、CMSを利用すれば簡単に実現できる。

コールセンターからWebサイトに情報を流す

 前述はWebサイトにおけるFAQのサイトの例だが、当然ながらFAQサイトだけで顧客の問題が解決するとは限らない。顧客はFAQサイトで問題が解決できなかった場合、操作説明書を読むか、コールセンターにコンタクトするか、あきらめる(提供側にとってはあきらめられては困る)。

 このとき、コールセンターに電話や電子メールをしてくる顧客は、本当にコールセンターと連絡を取りたいのであろうか? Webサイトで解決できるのなら、その方がいいと考えているのではないだろうか?

 そうであるとしたら、コールセンターに集まる質問は重要なコンテンツであり、その答えも重要である。もし、それらのコンテンツがワークフローで承認され、「製品情報サイト」のFAQのコーナーに製品ごとにアップされたら、「適切な人へ適切な情報を」を与えるという目的にさらに近づく。BSCの4つの視点からすると、「内部業務プロセスの視点」にインパクトがあり、なおかつ「顧客の視点」にもインパクトがあり、さらにはコールセンターのインバウンドコールも減り、コストダウンにもつながるなら「財務の視点」でもインパクトがあることになる。

 絵に描いたもちのような話に聞こえるかもしれないが、CMSをビジネスに活用するということは、このようなことを一歩一歩実現することではないだろうか。

CMSと焼き鳥のくし

 ERPとは企業内のさまざまなリソースを一元的に管理するというコンセプトであり、その導入プロジェクトは財務部門、販売部門、生産部門などと各部門にまたがるプロジェクトとなる。CMSも企業内のコンテンツを一元的かつ効果的に管理・利用するものとしてとらえるならば、各部門にまたがるプロジェクトとして導入をする必要がある。

 このような部門横断的なプロジェクトになると、焼き鳥のくしの機能をする人が必ず必要になる。社内にいて各部門から中立的な立場にある人でもよいし、社外のコンサルタントでもよい。こうした人が各部門で日々発生し、管理している情報やコンテンツを「顧客の視点」「財務の視点」などで整理し、流れを作っていくことが、前述のような「適切な人へ適切な情報を」を与えるというシンプルな目的を実現することにつながる。その実践は、広報部門からマーケティング部門、各事業部へとコンサルティングの枠を次第に拡大していくことが近道となるだろう。

 次回は、コンテンツ移行と外注制作コンテンツの取り扱いについて見てこう。

著者紹介

デジタルアセット研究会

事務局 FatWire株式会社2003年から2005年度までの2年間、CMSをビジネスに活用するための各種技術や事例などをユーザー、SIer、デザイナー、印刷会社など20名程度の有志が毎月研究会を行っていた。この連載は、デジタルアセット研究会で話し合われてきた内容を基に構成したものである。


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