「顧客の視点」をビルトインするプロダクトエキスパートCMSビジネス活用術(4)(1/2 ページ)

今回はWebサイトに「顧客の視点」をビルトインするための方法として、保険会社の事例から組織体制、人員、変革の浸透プロセスなどを考察していく。

» 2006年11月16日 12時00分 公開
[デジタルアセット研究会,@IT]

ウェブマスターは「顧客の視点」を担えるか?

 Webサイトを設置・運営している企業の多くは、ウェブマスター(あるいはそれに相当する役割の担当者)を置いていることだろう。

 あらためてウェブマスターの役割を考えてみると、どのようなものだろうか? ウェブマスターという名称から一般的にイメージするのは「Webにかかわる業務を統括する人」「Webサイトの管理責任者」「Webサイトの制作外注管理者」「IRやNewsの発信者」など、主にB to Cの企業サイトを統括し、管理している人といったところだろう。

 一般にウェブマスターは、広報部や総務部、コーポレート・コミュニケーション部などに属し、社内各部署からコンテンツを集めて、これをまとめて1つのサイトに表現するという役割を担う。製品群が10あれば、10の事業部からコンテンツ(あるいはサブ・サイト)を集めて、決められたデザインの製品情報サイトに掲載するわけだ。あくまでも全体を統括する人であるから、個々のコンテンツの内容に立ち入るわけではなく、各製品の詳細情報には明るくないのが一般的である。

 一方、製品やサービスを受けるユーザー(サイト閲覧者)はサイトの全体ではなく、個々の商品・サービス自体に興味を持っている。このとき、ウェブマスターの任務は連載第2回「企業にとって資産となるWebサイトの作り方」のカメラメーカーのサイト例のように、A商品に興味を持つユーザーはAページに、B商品のことを知りたいユーザーはBページにナビゲートすることだ。

 こうして目的のページにたどり着いた顧客(潜在顧客)に満足してもらうには、当然ながら顧客のことをよく知らなければならない。顧客が何を望み、どのような情報を提供すれば十分だといえるかのかを判断できなければ、「顧客の視点」でサイトを構築することはできない。

 自社が扱っているすべての製品とその顧客に関して、ウェブマスターが詳しく理解して、コンテンツ提供されていれば問題ない。しかし、CMS導入が必要なほどの企業であれば、1人〜数人のWeb担当者が自社製品をすべて詳細に把握することは極めて困難だといえるだろう。

「顧客の視点」の専門家

 米国の生命保険会社の日本法人であるハートフォード生命保険では、コールセンターの業務にCMSを導入している。

【参考リンク】
ハートフォード生命保険株式会社のCMS事例[PDF](FatWireサイト)

 この事例には、Webサイトに顧客に視点をビルトインするためのノウハウが詰まっている。コールセンターは顧客の声をダイレクトに受電するために、商品の情報が即座に提供できることは極めて重要である。

 同社の場合、CMSに金融商品情報を入力するに当たり、それがどのように整理してあれば、参照しやすく顧客のためになるかを考える専門家が存在する。これを米国では「プロダクトエキスパート」と呼んでいる。プロダクトエキスパートはウェブマスターとは違い、担当する商品と市場(顧客)を深く理解している。また、その商品がワールドワイドに展開するような場合、市場ごとの違いなどを調整したり、集約したりする役割も持っている。

 すなわち、プロダクトエキスパートは「商品」という軸で横断的にあらゆる部門と接触することが任務であり、ウェブマスターのように複数の商品・部門を束ねるというのとは異なる。商品基軸での縦糸がプロダクトエキスパート、各商品群を束ねる横糸がウェブマスターの役割となるわけだ。

図1 商品基軸で商品情報を整理する役割とWebサイト上で商品情報を束ねる役割は異なる 図1 商品基軸で商品情報を整理する役割とWebサイト上で商品情報を束ねる役割は異なる

 これはチーフエンジニアとか、プロダクトマネージャとか呼ばれる職種が、社内外のあらゆる部門を巻き込んで商品の開発や販売計画の立案を行うのと同じように、ある商品に関するコンテンツを整備する際に、顧客の視点をビルトインするために重要な役割を担うものである。

 また、ハートフォードの事例ではコールセンターにいるSME(Subject Matter Expert)という専門知識の豊富な人々から、ノウハウを吸い上げている。これは顧客接点の最前線にいる人から現場の状況や要望を取り入れ、これに基づいてプロダクトエキスパートが、現場(そして顧客)に必要な入力項目を用意し、情報提供できるようにするのである。例えば、ハートフォードでは死亡保険金の受け取りに関する説明ページには、税金関係の情報も参照できるような構成になっている。

 またコールセンターに問い合わせのある情報、集まってくる情報は、重要なコンテンツであることも多い。これらを外部に公開するWebサイトに反映するような情報の流れを設計できれば、なお好ましいといえる。

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