
Winny事件は防犯意識のなさが生んだ必然
2007/9/14
Winny事件では、情報漏えいの前に“権限の漏えい”が起きていた
“権限の漏えい”という言葉がある。組織が大きくなっていくと、上位の管理者の目が行き届かなくなり、下位の者による権限逸脱が放置されることを指す。当然、職務権限のあいまいさ、内部監査の未実施など管理不在の要因が重なれば、さらに事態は悪化する。
実は、組織にとって、情報の漏えいよりも権限の漏えいの方が恐ろしい。権限逸脱による事件事故の責任は本人だけでなく管理者にも及び、会社にも及ぶことになる。
先般、世間を騒がしているWinnyによる情報漏えい事件にしても、情報漏えいよりも前に権限の漏えいが起きている。職場の資料を許可なく家に持ち帰ったり、職場のPCに無断でWinnyをインストールして仕事に関係ない音楽や画像データなどをダウンロードするという、権限の漏えいが発生した時点で、もはや何が起こってもおかしくない状況になっていたのである。
アクセス制限という実体を持たない無用心
信用関係を築くだけでは権限の漏えいは防げない。権限の漏えいを防止するためには、ルール化と教育だけではまだ不十分である。
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権限の漏えいがまさに起きようとしているそのときに、それをせき止める防波堤の仕組みが必要なのである。権限の漏えいに対する防波堤とは何か。それはアクセス制限だ。
施設や設備に対する施錠、検問、監視といったオフィスセキュリティを設置することは珍しいことではないだろう。しかし、社内の人間に対するセキュリティはどうだろうか。
社員であれば、社長室や人事部、経理部、倉庫や書庫に立ち寄ったり、他部署のPCやプリンタに近づくことに対して、どのような制限対策が講じられているだろうか。社外の人間に対するセキュリティにしても万全だろうか。社内の食堂や談話室を部外者も利用しているにもかかわらず、そこで重要会議を開いていたり、社内資料が掲示されているケースもある。
アクセス制限のない情報セキュリティに意味はない
形のないコンピュータデータを取り扱う情報セキュリティにおいて、アクセス制限の問題はもっと深刻だ。
ユーザーIDやパスワードが共有されていることも珍しいことではなく、あらゆる情報を見ることができるシステム管理者のユーザーIDやパスワードですら、秘密保護もアクセス制限もされていないということすらある。サーバやルータなどシステム上、重要な役割を果たしているコンピュータ機器のユーザーID、パスワードを忘れてしまったということもよく聞く話だ。
例えば、ファイアウォールやログ監視、暗号通信といった高度な情報セキュリティ対策を講じていようとも、ファイアウォールの設定情報やログファイル、暗号キーに対する有効なアクセス制限されていないのでは意味がない。
システム管理者のユーザーIDやパスワードの管理を任されている(任せているという自覚のない管理者もいるだろう……)、システム部門や委託先のコンピュータ要員による権限の漏えいが、もし起きたとしたらどうなるのかと、一度考えてみて欲しい。
次回予告
今回は、防犯意識を持つことの重要性について、根拠のない信頼と権限の漏えいという2つの切り口から考えてみた。取引先に対して、根拠のある信用関係を構築することが必要ということを裏返してみると、自分の会社もまた顧客企業から根拠のある信用関係を求められるということである。
次回からは、顧客企業から根拠のある信用を勝ち取って、取引先として選定され続けるために、どのようなことに留意しなければならないのかについて、防犯技術の活用場面を交えながらご紹介していきたい。
杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役
京都生まれ。
・立命館大学経済学部・法学部卒業
・関西学院大学大学院商学研究科修了
京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。
日本人は楽天家なのか民族性なのか、リスクにうとい部分がある。悪意のある側からすると、こんなにありがたい環境はない。
信用することと信頼することの違いは、信用とは信じて用いることであり、信頼とは信じて頼ることだ。企業人が心がけなければならないのは、「信用しても信頼するな」ということだ。つまり、従業員に対しても取引先に対しても、根拠のない信頼関係ではなく根拠のある信用関係を構築することが必要だ。
また、権限の漏えいに注意しなくてはならない。権限の漏えいとは、上位の管理者の目が行き届かなくなり、下位の者による権限逸脱が放置されることを指す。実は、組織にとって、情報の漏えいよりも権限の漏えいの方が恐ろしい。権限逸脱による事件事故の責任は本人だけでなく管理者にも及び、会社にも及ぶことになるからだ。信用関係を築くだけでは権限の漏えいは防げない。権限の漏えいを防止するためには、アクセス制限が有効だ。
| Page 1 警報サイレンを訓練と思いこむ日本人 故意と過失の違いは紙一重 信用することと信頼することは意味が違う 根拠のない信頼から根拠のある信用へ |
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| Page2 Winny事件では、情報漏えいの前に“権限の漏えい”が起きていた アクセス制限という実体を持たない無用心 アクセス制限のない情報セキュリティに意味はない |
ビジネスに差がつく防犯技術 バックナンバー 連載インデックスへ»
- 第1回 日本版SOX法の本質は文書化ではなく防犯だ
- 第2回 Winny事件は防犯意識のなさが生んだ必然
- 第3回 営業や経理職への“無条件の信頼”が危ない
- 第4回 内部統制はリスクアプローチを求めている
- 第5回 日本企業の弱点はリスクアセスメントにあり
- 第6回 人の心の弱さを突くソーシャルエンジニアリング
- 第7回 意味も分からず2ちゃんねるを規制していませんか?
- 第8回 なぜ幹部は褒めるべき社員をしかってしまうのか
- 第9回 最強武田軍は組織と人を重んじた
- 第10回 リスクに対応できるモニタリング技術とは
- 第11回 財務諸表は不正探知のレーダーだ
- 第12回 目的意識の低い内部監査では意味がない
- 第13回 “企業に役立つ防犯技術”を振り返る
- 最終回 “企業に役立つリスクマネジメント”を振り返る
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