“Excelツールの引き継ぎ”を効率化する方法社内を幸せにするEUC(2)(1/3 ページ)

Excelで作ったツールの運用に一定の“ルール”を定めておくと、業務の引き継きがスムーズになるだけではなく、情報システム部門と利用者部門の関係性や業務効率にも好ましい変化が訪れる。

» 2009年11月26日 12時00分 公開
[村中直樹,クレッシェンド]

 第1回『情シス部門とユーザー部門、恩讐を超えて』では、ExcelによるEUCの推進は、情報システム部門にも利用者部門にもメリットが大きいことを事例とともに紹介した。今回のテーマは、「Excelで作ったツールの引き継ぎ」である。

 業務の引き継ぎは日常的に行われるが、業務の一部にExcelツールを使ったプロセスが含まれていることが多い。このためツールの引き継ぎも必要になるわけだが、インフラ整備や戦略的なシステム実現など、本来の仕事に集中するために、そのほかの雑務をできるだけ減らしたい情報システム部門にとって、Excelツールの引き継ぎは「できるだけ触れたくない」というのが本音であろう。今回は、そんなExcelツールの引き継ぎにおいて、情報システム部門の負荷を軽くする方法を紹介する。

Excelツールの引き継ぎ、問題とその原因

 利用者部門で作られたExcelツールは、引き継ぎをきっかけに問題が発生することが多い。代表的なものは次の3つである。

  • 引き継ぎできない
  • 引き継ぐツールに問題がある
  • 引き継いだあとに問題が発生する

 一方、情報システム部門でもExcelツールを利用している場合があるが、こうした問題が発生することはまずない。情報システム部門と利用者部門で大きく異なるのは、「ツールの運用と引き継ぎのプロセスが、標準化されているかどうか」である。

 一般に情報システム部門では、運用と引き継ぎのプロセスはドキュメント化などの方法で標準化されているが、利用者部門では、運用・引き継ぎとも手順が標準化されていないことが多い。このために、不完全な運用が引き継ぎの失敗を招き、不完全な引き継ぎが運用の失敗を招く、という悪循環に陥る。このような状態で情報システム部門にExcelツールを渡されても、解読に手間がかかってしまう。

 以下、利用者部門でのExcelツールの引き継ぎをきっかけに起こり得る問題について、事例を基に具体的な原因を探る。

事例1――引き継ぎできない

 B社では、営業部に所属する社員が1年掛けて予実管理ツールを作り、運用していた。あるとき突然、この社員の異動が決まった。この予実管理ツールは営業政策を決めるうえで欠かせない情報を提供していたため、営業部内で引き継ぐ必要があった。しかし、残された時間があまりに少なかったので、ツールを作った社員はこのツールの引き継ぎよりもほかの作業を優先してしまった。

 このため、異動と同時期に行われた組織変更にツールを対応させることができず、営業政策決定業務に甚大な影響を与えてしまった。その後、残されたメンバーが1カ月ほど掛けて対応を図ったが、計算ミスや修正漏れが多発しており、翌年度の人事異動の際にも同様のトラブルが起こることが予想されている。

ドキュメント化を怠ったため

 このケースでは、「そもそも引き継ぎ時間が足りないから」と、最初から引き継ぎをあきらめてしまっていたが、これは「引き継ぎは時間が掛かる」という思い込みによるものといえる。多くのシステム部門と同様に、ツールの使い方や修正方法がドキュメントなどの形で標準化されていれば、短時間でも引き継ぎができていたはずである。実際、この後に最低限のドキュメントを残した結果、翌年度は大きな問題もなく乗り切ることができた。

事例2――引き継ぐツールに問題がある

 C社では、3人の社員が連携せずにツールを作成したため、似通った複数のツールが存在していた。ある時点でこのことに気付いた3人は、これらのツールを1本化しようと考えてどれを残すか検討した。

 「同じ部署の人間が作ったツールだから簡単に統合できるだろう」と考えていたが、具体的な検討を進めるにつれ、実装されている機能と処理方法、使用するファイルや名前の付け方、データ形式、保存場所など、処理の前提となる部分があまりに異なっていることが分かった。結局、それぞれが作ったツールは互いに連携できる状態ではないことを思い知らされたのだった。

「ファイルの命名」規則を標準化しなかったため

 情報システム部門では当たり前である「ファイルの命名規則」などの標準化は、利用者部門にとってはそうした発想すらないことが多い。このため、「売り上げデータを基に月報を作成する」といった簡単な処理であっても、人によって使用するファイルが異なったり、中間で作られるファイル形式やファイル名に統一性がなかったりすることが多い。マスタデータの名前は必ず「MST_×××」にするなど、最小限の標準化は必要だ。

事例3――引き継いだあとに問題が発生する

 D社では、受発注管理ツールを作成、運用していた社員が定年退職したため、このツールを複数の担当者に引き継いだ。ツールを使用した業務手順は順調に引き継がれたが、1年後に大きな問題が明らかになった。ツールを引き継いだ複数の担当者が、カスタマイズやバックアップのためにツールのコピーを何度も行い、そのほとんどを廃棄せずに業務を進めたため、似た機能のファイルが5000あまりに増えてしまったのだ。

 取引先から送られてくるデータ形式が変更になるなどの理由でツール修正を迫られることも多かったが、データとツールのプログラムが一体化していたこともあってすぐには対応できず、然るべきデータ処理が完結しない状態のまま修正対応を待つ“仕掛かり中”のファイルが数多く生じてしまった。これにより、5000のファイルのうち修正すべきものが分かりにくくなるという二次被害も生じたほか、そもそも最新版のツール本体(マスタ)がどれなのか、誰にも分からなくなってしまった。

ツール本体の管理方法を明確化しなかったため

 これは運用方法についての取り決めがなされていない状態で日常業務だけを引き継いだことから、ツール本体の管理方法があいまいになってしまったケースだ。この事例のように複数人でツールを利用する場合には、機能の追加を各自が行うのではなく、特定の担当者がバージョンアップする方が合理的である。また、全員が使用するツールが常に最新バージョンで統一されていれば、この種のトラブルはなくすことができる。


 3つの事例で紹介したExcelツールは、それぞれ機能や目的が異なるが、運用や引き継ぎの手順が標準化されていなかったために問題が発生していた。事例1では引き継ぎ方法、事例2では運用方法、事例3では、引き継ぎと運用、両方のプロセスの標準化が必要だった。次のページからは、それぞれの標準化方法を解説しよう。

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