手掛かりをしっかりと押さえよう―捜査技術の第3条「手掛かりをしっかりと押さえる」―ビジネス刑事の捜査技術(8)(1/2 ページ)

集客したいのであれば、顧客になってくれそうなターゲットをしっかりと定義し、ニーズを把握することが重要である。そして、ターゲットを定義し、そのニーズを知るためには、手掛かりを探し回ることが必要だ。今回は、捜査技術の第3条である「手掛かりをしっかりと押さえる」を紹介する。

» 2006年07月13日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

 第6回では捜査の技術第1条「ターゲット定義こそ肝心」を、第7回では捜査の技術第2条「捜し出したい人や物の気持ちを知る」についてご説明した。

 集客したいのであれば、どのような人が顧客になってくれそうなのかについてしっかりとターゲット定義し、その人たちが困っていることや望んでいることを知ることが必要だということになる。しかし、ターゲットを探し出すため、またはターゲットの思いや気持ちを知るためにも、じっとしていては何も始まらない。

 ターゲットを定義し、そのニーズを知るためには、手掛かりを探し回ることが必要だ。場合によっては、ターゲット定義やニーズ理解の正しさを確認するための手掛かりを探すこともあるだろう。事件は現場で起きているのだ。会議室では起きていない。さあ、店に出掛けよう!! 営業担当者と一緒に外回りに出掛けよう!!

事件は現場で起きている

 会議室で頭をフル回転させて、一生懸命ターゲットについて考えることも重要だ。しかし、会議室で考えていることはしょせん仮説にすぎない。顧客が何を望み、何を不満と考えているのかを知るためには、顧客自身に聞かなくては始まらない。現実にはすでに顧客がかなりの情報を発信していることすらある。受信アンテナが鈍い人の中には、はっきりしかられているにもかかわらず、改善のための手掛かりを少しも得ていないことも珍しくない。

 利益が上がらない、生産性が下がるといった会社や工場の中の問題点を探す場合でも同じである。経理資料や実績報告をにらんでいるだけでは何も解決しない。在庫は欠品を恐れる担当者の不安や、生産予定に基づく製造分のうち、引き取られなかった端数の積み上げかもしれない。

 生産性の低下は標準品注文への追加仕様の追加や、支給品の補充遅れといった客先の問題だったりする。責められる人は世の常として直接利益や生産性に関係する人だが、本当はその人たちは懸命に対処しているのであり、むしろ褒められるべきだったりする。

 自分の目と耳で現場を確認すること、決して事実としての結果から勝手に推測して、原因まで決め付けないこと。ビジネス刑事を志す者が忘れてはいけない戒めである。

シグナルを見逃さない

 顧客がはっきりとした苦情や喜びを表してくれる場合は幸せである。普通はちょっとした表情や捨てゼリフとして一瞬で消えていく。店員も営業担当者もそれを気付こうとしないし、うるさい客、うっとうしい客として故意に無視することさえある。人はシグナルを発して、わざわざ知ってもらおうとしているのにだ。

 そのシグナルに気付くか、気付かないか、その差は思いやりの気持ちにある。相手の気持ちを思いやることの大切さは、捜査の技術第2条ですでに紹介したとおりだ。シグナルは従業員もまた発信する。負荷が大き過ぎる業務や、予測できない不安な業務に当たる従業員は、弱音や不満を口にする。我慢強い従業員は体を壊すかもしれない。目先の忙しさにかまけて顧客や従業員が発信し続けるシグナルに気付かない管理者は、家庭でもシグナルを無視し続けているのだろう。

 管理者に必要な管理センスは、工場やオフィスの中にまるで矢倉を建てて上からそこにいる人の様子をうかがうように、どんなささいなシグナルも見落とさないという気配りの心である。リアクティブ、プロアクティブという言葉をご存じであろうか。事が起きてからどうしようかと考えるリアクティブな対応ではなく、事前のシグナルからこの先起きるかもしれないことに対して先回りして予防するプロアクティブな対応こそ、管理者が目指す姿なのである。

顧客が見せるさまざまなシグナル

 街中の店舗では、さまざまなドラマが日常茶飯事で起きている。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどに足を運ぶと、いかに店員が顧客のシグナルを見落としているかが見えてくる。

 売る側ではなく、客の側に立って初めて見えてくるシグナルに気付く店員がなんと少ないことか。何かを買いにきて探し回り何も買わずに帰って行く客、中には(親切に)「○○はどこにありますか?」と聞いてくる客もいる。

 裏返せば、顧客が欲しいと思うものが置いてなかったか、どこに置いてあるのか分かりにくかったということになる。親子が子供の衣類や靴を探し回り、最後に「これにしておきなさい」という状況は、本当に欲しいものがなく、仕方なく代替購買で妥協したということかもしれない。開店時に来店したにもかかわらず、その後の来店がない顧客が多い飲食店は、おそらくさほど先ではない時期に閉店に追い込まれることだろう。

 外回りの営業担当者の場合は、もっと明確なシグナルが発信されていることが多い。しかし、どんなにはっきりしたシグナルでもそれを拒絶したいと思っている人には届かない。顧客からの切実なシグナルが届かない営業担当者が書くような営業日報など、見て何が分かるだろうか。それがたとえSFAやCRMとしてIT武装されていようとも、状況は変わらない。センサーとしての営業担当者が鈍感では、顧客の発したシグナルはキャッチされずに消えていくしかないのである。

 管理者自身が客先訪問すれば、すぐに気が付けるシグナルも少なくない。オフィスの奥に座っていても業績は上がらない。管理者こそ現場に出掛けるべきなのである。

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