会社におけるログの重要性を考える―捜査技術の第5条「情報収集がターゲットを絞り込ませる」―ビジネス刑事の捜査技術(10)(1/3 ページ)

警察活動において、最重要とされる「警ら活動」が民間ではあまり重視されていない。これはなぜだろうか。今回は、捜査の技術第5条「足元を固める情報収集活動がターゲット像を絞り込ませる」について、警ら活動とログの話を中心に考える。

» 2006年10月24日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

 筆者が警察組織を辞めてコンサルタント会社に勤め始めたとき、自社内の仕事を警察の仕事に置き換えて理解しようとしていた。例えば、営業は捜査に、製造はサービスを企画・設計するという意味で企画、購買は調達、総務は総務、人事労務は警務・教養、経理は会計といった感じで置き換えてみた。

 特に「顧客を捜し出す営業」のような仕事には捜査の技術が役に立つ、ということに筆者は早くから気が付いていた。そんな中で、不思議だったのが警察活動の基礎ともいうべき警らの仕事に当たる機能を持つ会社が、まるで見当たらなかったことに驚いたものだ。

 警ら活動とは、警察官が管轄する街中を犯罪や事故の未然防止のためにパトロール(見回る)ことを指す。この活動は、警察官がいつも見回っているという心理的な抑止力と、安心感が治安維持につながっている。そのうち、建設業や製造業の中には安全パトロールや品質監査のように、警ら的な仕事をするところも見掛けるようになってきた。そういった意味では、民間企業も警ら活動の意義について理解してきたのかもしれない。

 しかし、警ら活動はただパトロールすればいいというわけではない。交番のお巡りさんは実に忙しい。意外に思われるかもしれないが、事務的な仕事も大変多いのだ。最近では企業と同じで事務作業もコンピュータ化が進んでいるので、ITリテラシーも高くないといけない。

 筆者は警察組織を辞めてから、こうした警ら活動の意義の大きさを一層強く思うようになっていた。それは民間企業で、警ら活動が必要な組織機能として、まったく認識されていなかったせいかもしれない。警らに当たる言葉すら見当たらなかったのだ。しかし、最近、警らそのものともいえる企業活動が注目されるようになってきた。それは情報セキュリティという、警察の防犯という仕事に非常に近い仕事が重視されるようになってきたからだ。

業務の記録化(ロギング)という仕事の大切さ

 情報セキュリティの仕事は、警察活動にとても近い。いま、情報セキュリティの中で、フォレンジクスという概念に注目が集まっている。

 フォレンジクスとは、不正アクセスの痕跡をつかんで、情報セキュリティ上の問題点はどこにあるかを探るものだ。そして、フォレンジクスでは不正アクセスの前後、つまり平和なときと異常な状況の両方において、「何が起きて、何が起きていなかったか」という情報を確実に収集・記録することが重要だ。

 ウイルスに感染したり、PCが動かなくなったときに、PCを修理・復旧するだけでは問題解決にならない。その原因を解明しなければ、また同じ問題が再発する可能性が高いからだ。特に不正アクセスやウイルス感染では、犯人とその手口を特定して、狙われているセキュリティホールを解決する根本的な対策をしなければ、同じ犯人にまた同じで手口でやられ続けることとなる。そこで、フォレンジクスではログをとても重視する。ログは記録であり、ログを作成する人、あるいはソフトウェアをロガーと呼ぶ。

 どんなに腕利きの探偵や解析ソフトウェアでもログがない、あるいは消えてしまった現場ではお手上げだ。ごく少ない手掛かりから犯人像を描き出すプロファイリングや、リーディング手法については次回触れるが、その場合でも、犯人の性格や心理を推理するだけのパターン化された膨大なデータが蓄積されているのだ。

 引き出しに膨大な知識が蓄積されているからこそ、少ない情報でも犯人を追い詰めることができる。その華やかな活動の裏には、目立たず注目もされない地道な情報収集や記録という仕事をこなす人々がいる。地道に足元を固める情報収集活動が、ターゲット像を絞り込ませる。腕利きの刑事や探偵は直感だけで捜査をしていないし、やみくもに探しているわけでは決してない。平時に人の倍以上の努力で知識や情報を蓄積しているからこそ、いざというときに力を発揮するのだ。

 競合企業よりも売れる商品を探し出し、買ってくれる顧客を見付けだすためには、何をしなければならないのか。それは、高価な分析ツールでもないし、有名な経営コンサルタントの言霊(ことだま)でもない。従業員や既存客からできるだけたくさん「現場で起きていること」を聞き出すことや、セミナーや書籍などからできるだけたくさんの成功談や失敗談を勉強することだ。

 目先の仕事と不良品の修正だけに追われているだけでは、成功はやって来てくれないし、その先に来るかもしれないもっと大きなリスクも回避することはできない。社員にその日起きた良いことも悪いこともしっかりと記録させ、それを見直して新たな知恵を獲得すること、それが管理者の役割といえる。

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