“新・お作法”の土台となる情報基盤と組織への展開情報活用の新・お作法(4)(1/3 ページ)

“新・お作法”を実践するには、考え方・スキル・ルール&テンプレートに加えて、それを支援するITインフラが必要だ。新・お作法に即した情報基盤とはどのようなものだろうか?

» 2007年01月20日 12時00分 公開
[村田聡一郎,リアルコム]

本稿は、リアルコムが発行するホワイトペーパー「VISION」の『情報活用の「新・お作法」がワークスタイルを革新する』に加筆・修正を加えたものを、許可を得て転載したものです。



D. ITインフラ

 前回まで、A.情報に対する考え方、B.スキル、C.ガイドライン&テンプレート、を考えてきたが、D.情報基盤(ITインフラ)はそれらのコンポーネントをつなぎ合わせる「土台」となるものだ(図表1)。従って次世代の情報基盤が果たすべき役割は非常に重要である。

ALT 図表1 D.情報基盤(ITインフラ)はすべての土台となる

 これまでの情報基盤は、いってみれば情報を流す「パイプ」の役割を果たしているにすぎなかった。パイプをひたすら太く、流速をひたすら速くすること、つまりアクセルの役割を果たすことだけがその存在意義であり、その中を流れる情報の量や質をコントロールすることは考慮されていなかった。

 しかし次世代の情報基盤は、アクセルと同時にブレーキも利かせることが求められる。といっても、パイプを細くしろというのではない。ユーザーがアクセルとブレーキを自然に使い分けることを可能にする仕組み、いわば「良いお作法が自然に身に付く仕組み」をビルトインしたものであるべきだ。

 そして、そのキーワードとなるのが「見える化」である。お作法とは要するに「自分たちの振る舞いを自覚して自ら律する規範」であるが、そのためには「自分たちがどのように振る舞っているのか」が見えなくてはならないからだ。

人の「見える化」(Know-Who)による対人コミュニケーションの向上

 これまでにも「Know-Who」(ノウフー)と呼ばれるソリューションはあった。Web上の電子電話帳を拡張した機能で、社員の部署と電話番号のほかに、プロフィール(自己紹介や現在に至るまでの担当職掌など)や顔写真などを掲載して、社員同士のコミュニケーションを図ろうというものだ。しかし実際には、プロフィールが人事記録から抜粋した画一的で無機質な情報であったり、最初に設定したきり何年たっても更新されていなかったりで、いま一つ定着していない例が多かった。

 次世代情報基盤におけるKnow-Whoは、こうした従来の「静的」ノウフーとは根本的に異なる「動的」なものだ。各社員が業務上で発信している情報の履歴を個人別に蓄積して公開することで、この人はどんな情報をやりとりしているか、を見える化するのである(図表2)。

 業務で発信する情報というのは、当然その社員の職務内容および専門性に直結している。従って、社員Aさんが発信した情報を一通り並べてみれば、Aさんが何をしている人なのか、どの分野に強いのか、が高い確度で推定できる。さらに次節で述べる「フィードバック」をどの分野で受けているのか、も参考になるはずだ。次世代情報基盤では、こうした「社員の情報活動履歴の見える化」による「人の見える化」を実現し、個人間コラボレーションを触発することができる。

ALT 図表2 人の見える化(Know-Who)

有用度・利用度の見える化による情報品質の向上

 情報共有/ナレッジマネジメント活動が盛り上がりに欠ける理由の1つに、「情報を公開しても、どのくらい活用されているかが分からないため、やる気にならない」というものがある。人間心理としてはごく自然なことだ。自分の出した情報が同僚の誰かの役に立っているならまだしも、ブラックホールに吸い込まれて消えていくだけでは? と思ったら、忙しい業務時間を割いてまで情報を発信しようという気にはならないだろう。結果、上から「とにかく情報を出せ」「1人5つ出せ」といわれ、数合わせで適当に投稿しておく、といった本末転倒なことになりかねない。

 こうした課題に対し、次世代情報基盤では「利用度と有用度の見える化」を提供する。まず、アップされている個々の情報の閲覧者数や閲覧数(アクセス数)をカウントしてリアルタイムで表示する。これだけでも、「この情報はどれくらいの人が利用しているのか」の見える化が可能だ。

 次に意見をフィードバックする機能があると良い。これはAmazon.comなどで見掛ける機能で、「この情報はあなたの役に立ちましたか?」あるいは「この本への評価は5点満点の4.3点です」といった、その情報を利用したユーザーが自主的に付けるポイントやコメントのことだ。これにより、個々の情報に対するユーザーからの評価、つまりその情報の「有用度」を見える化できる(図表3)。

 ヒト・モノ・カネなどのほかの資産と違い、情報資産の価値は相対的なものだ。情報の価値とは、「情報の受け手がそれをどれだけ活用できるか」で決まる。活用できなければ―もしくは活用されなければ―どんなに完ぺきに作られた資料でも価値はない。例えば、『この下に1トンの金塊が埋まっています』という立て札がスワヒリ語で書かれていたら? スワヒリ語の読めない日本人にとっては、それは価値のない情報になってしまう。

 つまり、質の高い情報が流通する状態を作り上げるためには、情報の受け手からの評価を見える化しておく必要がある。そのための手段が閲覧者数とフィードバックなのだ。

ALT 図表3 有用度・利用度の見える化(閲覧者数とフィードバック)

 この閲覧者数とフィードバックの見える化は、情報の利用者、提供者、そして管理者の3者それぞれに役立つ。

 情報の利用者にとっては「ほかの大勢の社員が評価している、価値の高い情報はどれか」を一目で判別することができ、情報提供者にとっては、閲覧者数とフィードバックが「励み」になる。たとえ数十人でも、自分の提供した情報にアクセスしてくれているのはうれしいものだ。フィードバックやコメントが入ればなおさらである。「人の役に立ちたい」という欲求は誰にでもあるが、社員の連帯意識が相対的に強い日本企業では特にその傾向が強い。金銭的な報酬でなくても、同僚からの感謝の言葉は十分に強いインセンティブになり得るのだ。

 逆に、閲覧者数やフィードバックが伸びなかった場合、情報提供者は自省せざるをえない。自分では練りに練って作った自身作だったとしても、その情報は評価されなかったのだ。提供者は受け手のニーズとのミスマッチがどこにあるのか?を考えざるを得ず、それは「使えない情報」の淘汰と全体的な情報品質の向上へとつながっていく。

 また情報の管理者にとってのメリットは「情報の価値」という最もファジーな尺度に対して、「究極の審判」が下ることだ。これが次節で解説する「情報の棚卸し」を容易にする。

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