仕事人間がもらったすてきなクリスマスプレゼント目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(15)(1/4 ページ)

» 2007年12月21日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

第14回までのあらすじ

前回、仕事に生きた男の悲しい物語を園田に聞き、仕事とプライベートのバランスの重要性と谷田への本当の気持ちに気付いた坂口。その谷田と松嶋家のクリスマスパーティーで会う予定だが……。



仕事が性格を明るくさせた

坂口 「おっ! 伊東からだ」

 出社するなりメールチェックを始めた坂口は、伊東からのメールを見付けた。発信日付は昨日の深夜だ。サイズの大きいファイルが添付してある。「あまり無理していないといいんだけどな……」と考えながらメールを開いたが、坂口の心配は杞憂(きゆう)に終わった。

 伊東は、配送センターの業務を細かく書き込んだフローを送ってきたのだ。メールには、生き生きとした言葉が並んでいた。

「最初に配送センターの皆さんからもらったフローには、分からないことがたくさんありました。机上で見ても分からなかった個所は、どうやらいろいろ複雑な条件があって、ベテランの皆さんがその都度判断しているようなんです。このベテランの皆さんの判断過程を整理するのはすごく大変そうですが、これがうまく整理できたら、きっと皆がベテランの方々みたいに仕事できるようになりますよね。そこにうまくITが使えて、楽になるともっといいんですけど……。坂口さん、僕頑張ります!」

「ぼ、ぼきゅ、頑張りま〜っしゅっ!」という伊東の声が聞こえてくるようだ。そう、熟練者のノウハウを整理して、皆が同じように振る舞えるようになれば、作業の平準化も可能になる。

 現実には課題もたくさんあるだろうが、そうすれば園村から聞いた話のように優秀な社員に負荷が集中し、無理しなければならない状況も減ってくるだろう。

 坂口は自戒の意味も込めて、伊東へメールの返事を書いた。

「細かいところまで、よく見ているのが分かるよ。よく頑張ったな! 1つ確認だけど、この資料は何のために作っているんだ? 実際に行われている作業に混ざって、伊東自身の解釈や疑問点も書いてあるみたいだ。いまの作業を「見える化」するために作ったのなら、質問や確認事項は分けて書いた方がいいと思う。実際の業務は『事実』だし、質問や確認事項は伊東の『考え』だから、両者は別物だ。あと、質問や確認事項を少し目立つように書いておくと、打ち合わせのときに漏れなく確認するのにも使えるからな。頑張れよ! それから、メリークリスマス!」

 そう、今日はもうクリスマスイブなのだ。退社後は、松嶋家のパーティーに呼ばれている。この日は急いで資料のまとめを行い、何とか定時に仕事を終わらせた。

坂口 「うわっ。これは、すごいな〜!」

 美しいイルミネーションが施された家々が並ぶ通りは、まるで日本ではないような光景だ。小さなトナカイや雪だるまのオブジェが並ぶ明るい庭々を横目に見ながら、坂口は木の実のクリスマスリースが飾られた玄関の前に立ち、チャイムを押した。

松嶋 「あら、坂口くん! 待ってたのよ。天海さんもどうぞ!」

天海 「ごめんなさいね、急に押しかけてしまって」

坂口 「いえいえ、大歓迎ですよ! 坂口くんから電話をもらって、楽しみに待っていたんです。遠慮なくお過ごしくださいね」

 ゆったりとした白いセーターに雪の結晶をモチーフにしたブローチを付けた松嶋七海は、にこやかに2人を迎えてくれた。中からは、楽しげな笑い声が聞こえている。松嶋家のクリスマスパーティーは毎年、昼間は娘まりんの友達を迎えて、夜は松嶋夫妻の友人を呼んで、1日掛かりでにぎやかに行うのだそうだ。今日は、松嶋も午後から休みを取って、パーティーを切り盛りしているらしい。

坂口 「(谷田さんは……まだ来ていないみたいだな)」

 少々がっかりしながら、勧められるままに腰を下ろす。目も回るような忙しさのなか、折りに触れては谷田のことを思い出していた。今日会えたら、何よりも先日のことをわびなければと思う。そのうえで、「ずっと会いたい」と思っていた気持ちを伝えたいのだが、この気持ちを自分でもうまく表現できないのだ。

坂口 「(とにかく、当たって砕けろ、だ。その場で、思っていることを素直に伝えられればいい)」

 とはいうものの、1人でいるといろいろ余計なことを考えて不安になりそうで、午後から打ち合わせをしていた天海が「クリスマス? 関係ないわね。今日も残業に決まってるでしょ」と言うところを、無理やり誘って一緒に来てもらったのだ。天海と連れ立って来るところを谷田に見られたら誤解されるのでは、という発想がないところが、相変わらずなのだが……。

 忙しいとはいっても、仕事はおおむね順調だ。システムが持つ機能の外部仕様を詳細化するにあたり、製造部の藤木とは何度も打ち合わせをした。その結果、昨今の原材料費の高騰に対し、原価削減への寄与をシステム化の目玉の1つとしてアピールできるよう、少々軌道修正することにした。

 原価削減は、製造部員たちにとっていま非常にホットな問題だ。それを新システムで実現しようという考え方は受け入れやすいだろうし、利用者向けの出席率や教育効果、導入後の利用率にも貢献するのではないかと思っている。坂口は、いままでの反省も踏まえて、「いまの問題が解決しないと先へ進めない」というやり方を改め、先を見越して幾つかのシナリオを用意し、臨機応変に対応しようとし始めていたのだ。

 情報システム部門の八島とも信頼関係ができてきた。システムを内製することが決まって、八島は張り切っている。彼は変更方針さえしっかりしていれば、軌道修正の話し合いにも嫌な顔をせず参加してくれるのがありがたい。

 彼にいわせると、「設計段階でしっかり仕様を検討してくれた方が、製造段階でいきなり変更要求が入るよりもず?っと楽」なのだそうだ。もっとも、八島はすぐに回答を出したがる傾向があり、「それなら、こっちの機能やめちゃえば?」とか、「面倒だから、そこは次のフェイズに回せばいいじゃ?ん」などと平気でいうので、ドキリとさせられることも多いのだが……。

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