人生を揺るがす人事異動目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(27)(1/4 ページ)

» 2009年10月27日 12時00分 公開
[山中吉明(シスアド達人倶楽部),@IT]

第26回までのあらすじ

 いくつかの問題が発生したものの、ついに本番稼働を実現した坂口。伊東もトラブルを抱えながらそれを処理し、成長を見せる。そして、何とか初日を無事終えた坂口は豊若と2人で打ち上げへ。そこで豊若は意味深な行動にでるのだった……。



坂口の人生を揺るがす人事異動

佐藤 「どうも君は正しく状況を認識できていないようだな、名間瀬くん」

名間瀬 「専務、お言葉ですが……。今回のプロジェクトの成功は、坂口室長をはじめとしたIT企画推進室のリーダーシップがあったからこそ、実現できたものだと考えています。IT企画推進室をユーザーと開発者の橋渡し役を担うタスクフォースとして、さらに要員を拡充して存続させることが、今後のIT戦略を成功に導くことに必ずつながります。IT企画推進室が組織として存在していることの意義は極めて大きいと私は考えています。つまり……」

 名間瀬の声が熱を帯びてきたところに、佐藤は人差し指を突き出して言葉を遮った。

佐藤 「何度もいうが、ユーザーとの橋渡しは君に担ってもらおうと思っている。なぁ、名間瀬くん。これまでのことは水に流して、君には新しい情報システム部のPMOとして活躍してほしいといっているんだよ。普通、チャンスは2度も巡っては来ないものだ。俺は君に期待しているんだよ」

 佐藤の猫なで声に名間瀬は身震いした。

名間瀬 「し、しかし! 私は……」

 新システムが稼働を始めて1週間、大規模なシステム障害は発生せず、新しい情報システムは極めて順調な滑り出しを見せていた。

 一方で、新しい業務プロセスが動き出す初期段階では、抜かりのない現場サポートが必要であり、坂口や伊東らプロジェクトメンバーは連日の照会応答業務に追われた。しかしながら、彼らの努力によってそういった新システム導入初期の混乱も、ようやく落ち着きを見せ、本日、初期特別保守体制が解除となった。通常体制へとシフトして坂口や名間瀬らプロジェクトメンバーが胸をなでおろしたタイミングで、名間瀬は佐藤専務から役員室へ呼び出されたのである。

 佐藤専務の執務室では、佐藤と名間瀬、そして比留間人事部長がソファーを囲んでいた。佐藤は来月に控えているサンドラフトの定期機構改革に合わせて、IT部門の大幅な組織変更を計画していた。その計画の骨子は次の3つ。

  1. 今回の新システムプロジェクトの先導役として貢献したIT企画推進室を解散し、そのプロジェクト推進機能を現情報システム部に吸収
  2. 現IT企画部はシステムの開発・保守にかかわる業務を情報システム部へ移管して要員を削減し、その役割をIT戦略策定と予算管理に特化
  3. 情報システム部は大幅な要員の拡充を行ってシステム開発キャパシティの大幅増を実現

 そこには、「システム開発力を強化し、社内でのIT部門の地位を強化する」という佐藤の狙いがあった。

 また、マスコミリークの騒動の1件以来、豊若や坂口らの動きを煙たく感じている佐藤は、営業部門や製造部門との連携を深めて社内での影響力を増しており、佐藤のコントロールが効かなくなる可能性のあるIT企画推進室の存在を快く思っていなかった。そこで、プロジェクト終結後速やかにIT企画推進室を解散して坂口をIT部門から締め出し、使いやすい名間瀬を取り込んで自らの社内における影響力を維持しようと企んでいるのである。

 押し黙っている名間瀬に鋭い視線を送りながら、佐藤は傍らの比留間人事部長に声を掛けた。

佐藤 「名間瀬くんは納得したようだから、比留間くん、早速人事異動の手続きに入ってくれたまえ」

比留間 「かしこまりました。先日も確認しましたが、ボードメンバーへのご説明は……」

佐藤 「ああ、そんなことは君は心配しなくていい、社長も副社長も私の考えに賛成している。IT企画推進室は解散させる」

比留間 「坂口の件は、いかがいたしましょうか。まだ内示できる状況にはありませんが」

佐藤 「うむ……。今週中には方向性が決まるから、私からまた連絡するよ」

名間瀬 「さ、坂口をどうなさるおつもりですか!? 彼は今回のプロジェクトの功労者ですよ!」

佐藤 「心配するな、悪いようにはしない」

 ニヤリと笑う佐藤に、名間瀬は背筋に冷たいものを感じた

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