特別企画:話題のワークシェアリングを考える 業務効率を落とさないワークシェアリングとは(1/2 ページ)

不景気になり、日本でもワークシェアリングに注目が集まっている。業務の効率を落とさないでワークシェアリングする方法について解説する。

» 2009年04月14日 12時00分 公開
[松浦剛志,@IT]

 未曽有の不況到来が危惧(きぐ)される昨今、ワークシェアリングの導入について議論される機会が増えています。ワークシェアリングについては、その定義をはじめ、いろいろな視点からさまざまな意見が出されていますが、本記事は、「業務効率を落とさないでワークシェアリングを導入する方法」について書いていきます。

 最近、議論の中心になっている「雇用確保」のみならず、「多様な就労機会を作る」目的においても、どのように業務効率を落とさずにワークシェアリングを実現するかは重要な論点の1つですが、この部分に対する解説、指南書、セミナーは少ないようです。

 本記事がワークシェアリング導入において、生産性確保の視点で皆さまの役に立てば幸いです。

ワークシェアリングとは?

 まずは「ワークシェアリング」の定義をしておきます。

 「1人の働き手が実施している仕事を、2人以上の働き手が分担し、延べの労働時間(稼働時間)としては、ほぼ同程度で実施すること」と、ここでは定義します。

 このワークシェアリングを単純なモデルにして考えてみましょう。

 下図のケース1では、一連の仕事の流れでAさんが仕事2と仕事3を実施していますが、これをAさんとBさんの2人が分担、つまりワークシェアリングする場合を考えると、ケース2とケース3の2パターンが想定されます。

図1 ワークシェアリングするかどうかを、ここでは、単純化したモデルを考える。もともと1人で行っていた仕事(ケース1)を、異なる仕事を2人で行うか(ケース2)、同じ仕事を分割するか(ケース3)で考える 図1 ワークシェアリングするかどうかを、ここでは、単純化したモデルを考える。もともと1人で行っていた仕事(ケース1)を、異なる仕事を2人で行うか(ケース2)、同じ仕事を分割するか(ケース3)で考える

 このように、ケース1から、ケース2またはケース3に移行することを考える場合、それぞれのメリット・デメリットはどのようになるのでしょうか。これをまとめると次の表1のようになります。

 
引き継ぎ
稼働時間
情報共有
総合
ケース1のまま
ケース1からケース2にした場合
×
×
ケース1からケース3にした場合
×
×
×
表1 ワークシェアリングしない場合、する場合のメリット、デメリットをまとめた表

 まず、一番に思い浮かぶのは、Bさんへの「引き継ぎ」でしょう。ケース1の場合はそもそも引き継ぎが発生しないので引き継ぎの負荷はなく、表1では「○」とします。一方で、ケース1→ケース2の場合は、Bさんに仕事3の引き継ぎをする必要があり「△」、ケース1→ケース3の場合、Bさんに引き継ぐべき仕事は2つあり、最もデメリットが大きくなります。

 次は「稼働時間」です。ワークシェアリングは「延べ時間数としてはほぼ同程度」と定義したので、ケース2の場合は仕事2と仕事3が半日ごとになってしまいます。お客さまからの照会事項への対応が仕事であれば、「週前半のみ回答しております」となってしまい、これではデメリットが大きくなってしまいます。

重要な情報共有

 では、「情報共有」についても考えてみましょう。情報共有とは、ここでは簡単に「申し送り」と考えましょう。これはケース1の場合はAさん1人で完結するため申し送りは不要です。ケース2であれば仕事2と仕事3の間に申し送りが発生し、ケース3では仕事2と仕事3を流れる1つ1つの取引(トランザクション)に申し送りの必要性が生じます。つまり、ケース1、ケース2、ケース3の順に申し送り回数と項目が増えてしまい、デメリットが拡大します。

 ここまでの3項目を見たところ、ワークシェアリングはデメリットが多く、明らかにケース1のまま(つまりワークシェアリングをしない方)がいいように見えます。

段取りの視点でワークシェアリングを見る

 では、次に「段取り」を考えてみましょう。これは分業の利益(19世紀の英国の数学者であったチャールズ・バベッジ氏が発表した)といわれるものの1つの視点です。

 通常、1つの仕事を開始するには段取りが必要です。ケース1からケース2のような分業体制に移行すると段取り時間が短縮されるというものです。例えば、仕事2はネクタイを締めてするが、仕事3は作業着を着てする場合、着替えの時間が段取り時間となります。

 続いて、「欠勤対応」を考えてみましょう。担当者の病気や不慮の事故による欠勤への対応のしやすさという点では、ケース1よりもケース3でメリットが大きいことが分ります。

そして競争環境

 最後に「競争環境」について考えてみましょう。この点は見落とされがちですが、生産性を考えるときは大切な視点です。同じ仕事を複数の人がやると比較することが容易になるため、競争環境が生まれやすくなります。この視点ではケース3でメリットが生じます。

 この「段取り」と「欠勤対応」、「競争環境」を含めて考えると、下表のようにワークシェアリングにもメリット(効率向上)があることが分ってきたと思います。

 単純化した例で考えてきましたが、2人以上の仕事を3人以上で分割するなどさまざまな応用ケースでも、基本的な考え方は違いません。

 
引き継ぎ
稼働時間
情報共有
段取り
欠勤対応
競争環境
ケース1のまま
×
×
ケース1からケース2にした場合
×
×
ケース2からケース3にした場合
×
×
×
表2 ワークシェアリングをしない場合とした場合(2パターンを)、引き継ぎ、稼働時間、情報共有、段取り、欠勤対応、それに競争環境でその優劣を比較した

メリットの大きいワークシェアリングは?

 さて、これから、デメリットを最小化しメリットを最大化するワークシェアリングの導入方法を考えていきますが、その前に、ケース2とケース3のどちらが優れた(業務効率の高い)ワークシェアリング方法なのか考えてみましょう。皆さんはどちらだと思いますか?

 業務改善が十分にされ尽くした業務現場ではケース3をお勧めします。が、そうでない(改善余地が残っている業務現場)ならば、ケース2をまず優先して導入することをお勧めします。前出のチャールズ・バベッジは分業のメリットの中で、業務を分割することで簡単な仕事を単価の安い人に移行し業務コストを下げられることを指摘しているのですが、この改善手法はケース2の分業方法で使えるわけです。

ワークシェアリングの導入方法

 話が少し脱線してしまいました。

 これから、ワークシェアリングが持つデメリットを最小化し、メリットを最大化する導入方法を考えていきます。導入方法は次の5つのステップです。

  1. 現状の業務プロセスを理解する
  2. 無駄な仕事を減らす
  3. ワークシェアリングできる仕事を探す・作る
  4. 業務マニュアルを作る
  5. 指標を設定して遂行状態を測る

 それでは、順番に考えていきましょう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ