前回は「サービス内容を詳細化する手順」まで解説した。ある程度事業の形が見えてきたが、これらの事業の投資対効果はいかなるものなのか? 今回はその計算方法などを解説する。
月曜の午前は、部内での定例があり、北尾も自分の作業状況を簡単に説明した。部長からは、今週の金曜日に中間報告するように再度念を押された。ここまで、いろいろな人の助けを借りながらではあるが、なんとか進めてきた北尾ではあったが、中間報告へ向けて早く作業に取り掛かりたくて仕方なかったため、会議中もほかの人の報告はほとんど耳に入らなかった。
会議が終わって、その足で例のファストフードでクラブハウスサンドとコーヒーを買ってきて、早速作業に取り掛かった。
『さて、昨日は結局、松畑からのコスト試算を受け取ったところで力尽きてしまった。これに利益を乗せて料金を出せばよいのか。でもこういうものの利益率ってどう考えればいいんだろう……』
作業に取り掛かったはいいが、すぐに手が止まってしまった。クラブハウスサンドを食べながらしばらく悩んでいると、平松からメールが入った。
平松 北尾さん、日曜は連絡なかったけど、大丈夫? 確か今週末、報告があるんだったよね。そろそろ投資対効果の算出をするころかなと思って、連絡してみました。状況を簡単にでも教えてもらえますか?
『なんて良いタイミングなのだろう。まるで見られているみたいだ』
北尾は早速、返事を返した。
北尾 平松さん、ご心配いただきありがとうございます。実はサービス詳細のフィースキームのところで止まってしまっています……。
北尾が状況を説明すると、平松はすぐに返事を返してきた。
平松 北尾さん、積み上げで、料金を求めてみるのもよいと思いますが、いまある情報で、収益を計算してみるというのもよいかもしれませんね。収益の計算の仕方について簡単に説明してしまいますが、ざっと以下のような方法があります。
将来のキャッシュ・インフロー(現金流入)の現在価値から、投資であるキャッシュ・アウトフロー(現金流出)の現在価値を差し引いた正味の金額。投資(金融投資および事業投資)の採算性を示す指標で、投資判断の最も一般的な基準となっている。
ある投資期間におけるNPV=0となる割引率を求める方法。IRRが資金調達コスト(資本コスト)を上回っている場合、その投資は魅力的だと判断できる。
投下した資本に対する獲得できた利益の割合により、投資効果を評価する方法。異なる投資対象同士の比較において、ROIが大きい方が有利な投資であると判断する。
いずれにしろ、これらの計算のためには、売り上げとコストの見積もりが必要です。売り上げについても材料は出そろっているし、コストの見積もりもほぼ見えているようですね。これらから上の方法で収益を計算してみてはどうですか。
今回は、もう済まされているので問題なさそうですが、売り上げの算出で重要なのは、前提条件と算出ロジックを明確にすることです。あと、あまり複雑な式や変数を使わないことですね。あくまでも概算なので、ザクッとやるのがよいと思いますよ。今回の場合だと算出ロジックは、
ですよね。これらの数値のうちどれがそれなりに根拠があるもので、どれが根拠が乏しいあるいは変更可能なものなのかを明確にしておくとよいと思います。例えば、案件数は、御社の計画値であり、少なくとも2、3年分は正しい数値ですよね。ただし、管理組合支援サイト利用料率の5% はまったく根拠のないといってはなんですが、北尾さんが算出した数値ですよね。これは収益を計算した後で計算結果を見て調整することも可能ですよね。
次は、コストですが、これは私がどうのこうのいう感じでもないですね。すでに知見のある方にご意見をうかがっているようなので、あまりいいませんが、システムの開発やランニングコストだけでなく、営業経費等も見込んでおいてくださいね。
そうそう、あと収益計算は、あくまでも予想の領域なので、前提条件を変えて、何本かシナリオを考えてみるとよいでしょう……。
以上のように、平松は丁寧に説明をしてくれた。北尾はそれに基づいて売り上げ・コストを計算して、NPVを計算してみることにした。今後5年分の損益を計算することとして、シナリオとしては、
の3つを考えた(下図)。
さて、この週は、結局ここまでの結果を報告資料にまとめるのが精いっぱいで、週末の中間報告まではそれらの作業に集中することにした。中間報告は、部長への報告ではあったが、サービス内容について若干の修正を求められたくらいで、特に問題はなかった。一番議論になったのは、単価の設定とシナリオの妥当性だった。単価の1戸当たり750円は高過ぎないのか、シナリオで一番妥当性があるのはどれかなど、さまざまな意見をいただいた。ともあれ、大筋は認められ、2週後の経営層への報告もこの路線でいくことが決まった。
大川 敏彦(おおかわ としひこ)
ウルシステムズ株式会社 ディレクタ
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