リリースまでのアクションプランを作成するWebビジネスの立ち上げ、ステップバイステップ(5)

前回「Web事業の投資対効果を算出する」は、新たに立ち上げる事業の投資対効果を算出する具体的な方法を解説した。それらのデータを踏まえ、今回はサービス実現までのアクションプランを作成する。

» 2008年03月11日 12時00分 公開
[大川敏彦,ウルシステムズ]

(5)アクションプランの作成

 さて、北尾は、最終報告へ向けて、いくつかの修正をした後で、最後のサービス実現までのアクションプランを立てることにした。しかし、具体的にどのように考えていったらいいのかまったく分からなかった。やらなくてはいけないことはいろいろ頭に浮かぶがそれらがこんがらがって何から手を付けていけばいいのか皆目見当がつかなかった。あんまり手を煩わせても悪いと思いつつ、平松に相談してみることにした。


北尾 平松さん、いつも、いつも済みません。(5)のアクションプランの立案ですが、どう考えていったらよいか、簡単なご指南いただけますでしょうか。


 相変わらず、平松のレスは速い。かなり忙しいはずなのに。


平松 北尾さん、中間報告は無事終わったようですね。アクションプランですが、あまり難しいことを考えずに、まずは、やらなくてはいけないことを、書き出していったらどうですか。私はいつもテキストのベタ打ちですが、最近は皆さんマインド何とか(*マインドマップ)というフリーのツールを使ったりしているみたいですね。そういうのを使いながらでもなんでもいいのですが、まず何を検討しなくてはいけないのかをざっと書き出していって、それからそれらを詳細に分解していって、誰がいつ、何をやればいいのかが明確にしていく……。そういう感じですね。例えば、今回は、社内の予算調達、承認の段取り、今後の開発スケジュール、セールスプランや必要ならプレスリリース、サポートディスク等を設けるならサポート窓口を考えるなどなどいろいろなことを考える必要がありますよね。……このあたりをまず書き出して、詳細化していったらどうでしょうか。


 北尾は、早速、平松の忠告に従い、やらなくてはならないことを書き出していった。

レビューと承認

  • 承認者が誰で何を承認してもらうかを明確にする:(例)事業計画:当月(8月)の経営会議
  • システム要件/開発可否:9月末の経営会議
  • 営業体制など運営体制:10月末の経営会議
  • 開発の途中経過報告:10月〜3月の各経営会議。この中で、経営層へのシステムのデモも行う

開発計画の詳細化

  • 要件定義1カ月(9月)
  • 基本設計2カ月(10〜11月)
  • 詳細設計・開発2カ月(12〜1月)
  • テスト2カ月(2〜3月)

作業体制の確立

  • 社内体制の確立(8月)
  • 外部ベンダ、コンサルタントの決定(8月)

運用体制の確立

  • システムの運用・保守、コールセンタの体制を考える。アウトソースする場合は、アウトソース先を探す(10〜12月)

プレスリリース、セールス

  • 12月末リリースの新規マンションから運用開始する。また、11月より既存各マンションの管理組合に、情報をリリースし、導入を促す

 システム開発の詳細などは、松畑に問い合わせて手伝ってもらった。そしてここで挙げた項目に、仮決めで必要な人材・部署などを割り当てていった。このように、なんとかアクションプランまでを詳細化した北尾は、中間発表で提出した(1)〜(4)の修正版と、今回の(5)アクションプランを加えて、何度か部長をはじめ部内でレビューしてもらった後、検討を開始して約3週間後の金曜日に経営層へのプレゼンを行った。こういう場で発表することが初めてだった北尾は、プレゼンを行う前、緊張して仕方なかったので、平松に相談してみた。


北尾 平松さん、いよいよプレゼンなんだけど、こんなことやったことないので、なんか緊張して仕方ないんだけど、何か緊張を和らげる方法はないかな……。


 いつもどおり、平松の反応は速い。


平松 そうですね。緊張は誰でもするものですよね。緊張しない方がおかしいぐらいだと思います。信じていただけるかどうか分かりませんが、わたしだって、いつもプレゼン前は緊張して手が震えてしまいます。では、そういう場合どうするかというと、これは、わたしだけに通じる方法かもしれませんが、緊張するというのは、実は自意識が過剰になってしまっているからだと思うので、意識を自分からほかのものに移してあげることで緊張を和らげます。もともとプレゼンをする目的は、プレゼンの中身そのものにあって、プレゼン内容をキチンと相手に届けることが目標ですよね。プレゼンをする自分より、プレゼンする内容の方が重要なんです。その日のプレゼンのキーマンを1人決めて、その人に向けてプレゼン内容をきちんと伝えることに意識を集中するのです。そうすれば、意識が自分からそちらに移るので、緊張が和らいできます。


  『なるほど……』

 北尾は、平松から聞いた話を早速試してみた。

 『今日のキーマンは、社長だ。社長に対して、僕が考えた管理組合支援サービスの事業としての有効性を説明するのが今日の目的……』

 1時間もしないうちに、プレゼン時間がやって来た。やっぱり緊張はしていたが、北尾は頑張って説明してみた。必死に説明したので、時間はあっという間に過ぎた。会議室を退出し、自分の席に戻ってしばらく放心していた北尾に会議を終えた部長が声を掛けてきた。部長によると、経営幹部各者からの評判も上々で、当月中に役員決裁がもらえそうだとのことだった。ひとまずほっとしている北尾に平松からメールが入った。


平松 北尾さん、プレゼンどうでした。少しはお役に立てましたか? われわれコンサルタントは主に企画・立案フェイズをお手伝いすることがほとんどですが、新規事業とかサービスを立ち上げることは、企画・立案よりも、実行フェイズの方が何倍も難しいものです。一説には10倍以上も差があるといわれています。それには立案者である、北尾さんの思いとかがすごく大切になります。今後はあまりお手伝いできることはないかもしれませんが、何かありましたらご遠慮なく。あと、今回何かの縁だと思いますので、貴殿の部長さまできれば社長さまをご紹介ください。貴社の経営戦略立案など、いろいろお手伝いできることがあるかと思っています。ではいずれまた。



 以上、5回にわたってWebを活用した事業の立ち上げノウハウを紹介した。アイデアの膨らませ方から、予算の立て方、社内プレゼンの方法まで細部にこだわった解説に努めた。新事業立ち上げの一助としていただけたら幸いである。(@IT情報マネジメント編集部)


筆者プロフィール

大川 敏彦(おおかわ としひこ)

ウルシステムズ株式会社 ディレクタ


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