建設もITシステムも、成果は上流工程で決まるIT担当者のための業務知識講座(7)(1/2 ページ)

IT業界と類似点が多い建設業。その歴史はIT業界とは比べようもないほど長く、深いだけに、学ぶべき数多くのことを示唆してくれる。

» 2011年10月13日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]

IT業界が学ぶべきことの多い建設業

 客先から要望を聞き出して、要求物の構造や機能を設計し、工事を完成させて引き渡す――こうした建設の仕事はシステム開発プロジェクトと類似しており、設計技法や進ちょく管理、品質管理、原価管理といった面で学ぶべきことが数多くあります。

 建設の歴史は古く、巨大な天皇御陵や神社仏閣など、古代から大規模な建設工事が行われてきました。秦氏という中国や朝鮮からの帰化人が優れた建設技術を持ち込んだことも有名な話です。

 これに対して、システム開発の歴史はあまりにも短いものです。コンピュータ利用が本格的に始まったのはCOBOLやFORTRANといったプログラミング言語が登場した1960年ごろになってからであり、CやJavaなどの構造化言語、オブジェクト指向言語が発明されたものもさほど昔の話ではありません。

 その後、より大規模で複雑なシステム開発が可能となりましたが、金融システムなどのシステム障害が社会的にも問題視されるようになり、アーキテクチャやプロジェクトマネジメントの重要性が叫ばれ始めました。しかし建設の歴史に比べれば、これもまだほんのつい最近の話なのです。

 今回は、こうした建設業について解説します。

「土木」と「建設」に大別される建設業

 建設業の業務について語る上で、まず頭に入れておくべき前提知識があります。それは建設業の仕事は大きく「土木」と「建築」に分けられるということです。異論があることを覚悟して言えば、道路や橋、ダム、宅地造成といった社会資本を整備するのが「土木」で、土木によって整備された宅地造成地に建築物を建てるのが「建築」です。社会資本と建築物という性質上、土木は公共事業が多くなり、建築は民間事業が多くなります。

 一般的に、建設業には土木部門と建築部門の2つがあります。建設業の経営者はこの2つの部門に対して、「業務の標準化や共同購買といった効率化が図れないか」「共通する業績指標がないか」いつも頭を悩ませています。

 ところが実際には、土木と建築は似て非なるものであり、共通化することは容易ではありません。働く人の志向性や学歴、職歴から土木系と建築系で分かれており、工事技術も必要資材も、外注先も違っており、まるで相互乗り入れができるような状況ではないのです。おまけに建築基準法などの法規制が、土木と建築とを決定的に分離させています。

建設業における顧客は誰か?

 「建設業における顧客」を定義するにも、土木と建築の違いを考慮する必要があります。しかし、建設業の本質的な役割を考えていくためには、「土木と建築に共通する顧客像」についても考える必要があります。公共事業と民間事業という違いはあっても、結局、町作りや住まい作りという、どちらも私たちの生活の礎(いしずえ)を築くものであることは同じだからです。

 製造業が日本経済をけん引したとすれば、建設業は日本そのものの復興や発展をけん引してきたと言えるでしょう。今回の東日本大震災においても、建設業が果たすべき役割は大きなものとなるはずです。

 太古の時代から、土木は国の基盤を固めて将来を切り拓き、建築は雨風をしのぐ住まいをわれわれに提供してきました。その点に着目すると、建設業はその土地に暮らす人々を顧客とし、衣食住をはじめ、仕事や趣味、教育、医療、宗教など、その安全・快適な生活を支えている、と言えるのではないでしょうか。

建設業における組織の使命は何か

 巨大な橋やビルなど、お披露目の時には大きな注目を浴びる建築物も、そのうち当たり前の存在となって人々の意識から消えていきます。しかし、その建築においては、さまざまな職種の人々が危険と背中合わせの中で大変な仕事をこなしています。

 ただ、そうした仕事の成果は多くの場合、完成した建築物からはうかがい知るよしもないほど地味なものです。例えば、作業用の足場を組み立てる仕事など、目立たない仕事が数多くあります。しかし足場職人がいなければ、建築作業は進みません。“地味であっても不可欠な仕事”を正確にこなす、建設業に携わるあらゆる人々がいなければ、私たちの生活も社会も成り立ち得ないのです。

 すなわち、建設業における組織の使命は、ずばり“社会を支える”ことです。しかし、その偉大さとは裏腹に、あまりに分業化が進んでいるために仕事の内容が単調になってしまい、日常の中で本来の社会的使命が忘れられがちな現状があるのです。

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