あらゆる商品やサービスに対して、消費者は「上質さ」と「手軽さ」のどちらを選択するか天秤にかけているという。
消費者はあらゆる物事に対して「上質さ」と「手軽さ」を天秤にかけている。上質さとは、断片的なものではなく経験全体を指す。例えばロックコンサートであれば、サウンドそのものの質ではなく、アーティストの演奏する姿や照明効果、周囲の観客など会場で展開されるすべてを包含している。手軽さとは、望むものの手に入りやすさ(入りにくさ)の度合いを表す。価格が安い、使いやすいなどがそれに当たる。
重要なのは、このどちらが優れているという話ではない。例えば、高額のチケットを購入してクラシックコンサートに行く人もいれば、デジタル音楽プレーヤーでクラシック音楽を楽しむだけの人もいる。企業がビジネスで成功するためには、消費者の行動や趣向、市場環境、競合の状況、タイミングなどさまざまな要素を加味して、上質か手軽かのいずれかを選ぶべき――二者択一(トレードオフ)が必要だとしている。
上質さ、手軽さのどちらも秀逸ではない商品やサービスは「不毛地帯」に追いやられる。ブランドのビジョンがぼやけているなどして消費者の心に訴え掛けられず、どっちつかずの経験しか提供できない。
本書では、上質さと手軽さに関して、さまざまな商品やサービス、企業の具体例を紹介している。発売当初は高価格でモバイル端末の最上位の一角を占めていたにもかかわらず、他の追随を許さないデザイン性と機能性を備えたため、爆発的なヒット商品になったiPhone、累計で1億ドル以上のチケット収入があったヘビーメタルコンサート「オズフェスト」を無料化したことによる誤算、高級ハンドバッグとして上質戦略で成功していたCOACHが、マスマーケットに向けて手軽さを打ち出したことによる失敗など、実に興味深い例が押し並べられている。
上質さと手軽さのトレードオフは企業ビジネスのみならず、個人の仕事にも当てはまる。この概念は、特定の職種や業種で自分が1番になれる分野を探し、そこで極上の地位を目指すという道を指し示しているのである。
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