クラウド時代、SIerが生き残るための秘けつとは?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(10)

IT基盤やソフトウェアを手軽に入手できるクラウド時代になると、SIerに求められる役割が大きく変化すると言われている。そんな中、SIerが生き残るために必要なこととは?

» 2010年09月07日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

いい匂いのするITソリューション

ALT ・著=奥田兼三/氏家啓喜/山田義次
・ダイヤモンド社
・2010年8月
・ISBN-10:4478082944
・ISBN-13:978-4478082942
・1500円+税
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 本格的なクラウド時代を前にして、SIerの動向が注目されている。プラットフォームを迅速に手配できるPaaSや、アプリケーションをスピーディに入手できるSaaSの浸透により、SIerにとって大きな収益源であった、システムの運用・保守案件や、ハードウェア費用を含めたサービス提供が激減する。それに代わって、各種クラウドサービスを適切に組み合わせ、システムとして有効に機能させるサービス――すなわち「エンドユーザーの課題を見極め、適切なアイテムを選択し、提案する」という“SIerとしての基礎体力”が一層強く問われるようになると予想されるためだ。

 そうした中、本書「いい匂いのするITソリューション」は、多くのSIerにとって格好の教材になるのではないだろうか。というのも、本書は中堅ITソリューションベンダ、コベルコシステムが、より適切かつ効率的に顧客ニーズをつかみ、実現するために、長年にわたって推進してきた「知的資産のアセット化」の経緯をまとめた作品なのである。1人1人の技術者が蓄積してきた暗黙知を、「仕組みや考え方に体系立てて」整理・共有し、効率的にサービスに反映できるようになるまでに、何がポイントとなり、どんな苦労があったのか――まさしく“SIerとしての基礎体力”を高める取り組みの、良質なケーススタディとなっているのだ。

 ユニークなのは、システム開発にまつわる顧客ニーズを軸に、同社の知恵、経験を整理して作った全27種類のソリューションカタログを「秘伝のタレ」と命名している点であろう。これが「いい匂いのする〜」というタイトルの1つの由来となっているわけだが、 各ソリューションとも、実現できる「業務機能」「効果」や、「特徴」「対象業種・規模」「前提条件」などを明文化することで、顧客がニーズに応じて迅速に選べるよう配慮している。つまり、ユーザー企業はこの「秘伝のタレ」を見て、コベルコシステムが扱っているSAPをはじめとする各種製品をどんな“味付け”で食すのか、業務課題・ニーズという“食欲”に応じて手軽に選べるというわけだ。

 ただ、本書で最も印象的なのは、“SIerとしての基礎体力”向上のうえで大切なのは「知恵と経験のアセット化」だけではないと教えてくれる点であろう。例えば、「秘伝のタレ」は1度作ったらおしまいではない。時々刻々と移り変わる市場状況や顧客ニーズに対応できるよう、新たな業務経験から得られたあらゆるエッセンスを「継ぎ足し継ぎ足し」熟成を加え、「味わいに深みを与え続けている」という。

 また、「秘伝のタレ」を提供する際には、とことんユーザー企業に寄り添う。例えば、ソリューションの1つ「置き場管理システム」を作る際には、資材の移動を行うクレーンにSEが乗り込み、クレーンマンの横に座ってその業務ニーズを理解し、システムに落とし込む。さらに、どのようなニーズにも適切に応えられるよう、日ごろから「秘伝のタレ勉強会」を実施し、社内の全営業担当者が全メニューをきちんと案内できるよう努めているのである。

 そうした姿勢を指して、顧客企業から「御社のソリューションはいい匂いがする」と感覚的に評されることも以前から多かったという。そう言えば、一般の料理屋でも、客に「あの店に入ってみたい」「また食べたい」と思わせるのは、店から放たれる料理の「匂い」であり、その匂いを生み出している店の「こだわり」や店員の「もてなし」であったりする。いまSIerに求められているのも、実は“タレ”以上に、そうした「匂い」や「こだわり」「もてなし」の類なのではないか――本作品は、クラウド時代を生き残るためのあらゆる示唆に満ちている。すべてのSIer、SEに読んでほしい1冊。


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