ロジカルシンキングで成果が出ない訳情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(103)

ビジネスで成果を挙げるためには、ロジカルシンキングだけでは足りない。クリエイティブ型思考とバランスよく使い分けることが大切だ。

» 2012年08月28日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

論理的なのに、できない人の法則

論理的なのに、できない人の法則

著=高橋誠 岩田徹
発行=日本経済新聞出版社
2012年7月
ISBN-10:4532261635
ISBN-13:978-4532261634
850円+税
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 「アップルのiPhoneにしても、iPadにしても、技術的にはそれほど新奇なものはありません。その一方で、市場のニーズを徹底的に取り込み、スティーブ・ジョブズという類い稀なるカリスマ経営者の徹底したこだわりが独創商品を生み出しました。サムスンも同じです。1990年から世界各国に毎年数百人を派遣し、地域専門家を育て、徹底的に世界市場を研究しています」。「アップルもサムスンも市場の研究、デザインのこだわり、カリスマ経営者の決断という3つの共通点を備えています」。「3つのポイントで強みを発揮するには、もちろんロジカルな分析能力などは必要不可欠ではありますが、何よりクリエイティビティ豊かなリーダーの発想が重要になります。その発想が『違い』を生み出し、競争に勝つ原動力となるのです」――。

 本書「論理的なのに、できない人の法則」は、市場競争が激しく、既存のやり方だけでは戦えなくなっている現在、「ロジカル思考に加え、発想するというクリエイティビティも備えた『クリロジ思考』が欠かせなくなっている」として、両者を使いこなす方法を説いた作品である。「思いつきのキャッチフレーズの説得的な理由が考えられずに、全てボツになってしまった」クリエイティブ思考型のコピーライター、「理詰めばかりでお客さんに商品特性を説明することに熱中するあまり、相手の感情を害してしまい、結局セールスに失敗する」ロジカル思考型の営業担当者などの例を挙げながら、いかに両者をバランスよく使いこなすことが大切かを具体的に説いている。

 中でも興味深いのは、ロジカル思考とクリエイティブ思考の鉄則を説く上で使っている事例が、実にありがちなものばかりである点だ。例えば、ロジカル思考では「事実(Fact)と意見(Opinion)、予測(Guess)を区別」して考える「FOG分析」が重要であり、「人から聞いた話は、FOGの混乱がないか」に注意しなければならないという鉄則を紹介。本書はこの点について、「お客さまは、今は購入されないようです」という非常にありがちな報告例を挙げ、この場合「お客さまが『今は購入しない』といったなら『事実』、営業パーソンが『お客さまは、今は購入されないだろう』と判断したのなら『意見』、営業パーソンが『お客さまは今は購入しないだろうなぁと思った』なら『予測』」といったように、FOGを切り分けて考えることが大切だと説いている。

 「やってはいけないロジカル思考」のパターンも興味深い。中でもありがちなのは「できない理由を並べあげること」だ。例えば、「社内で業務改善案を募集して、良いアイデアがあったにもかかわらず、『これまでやったことがない』という理由で棄却される」ようなパターンである。著者は、ビジネスの場においては、「基本的に『どうやるのか』『なぜやるのか』に頭を使うようにするべき」であり、「たとえできないにしても、『こうやればできる』『ここまではこうすればできる』というように頭を使うことが大切」と強く訴えている。

 一方、“プロジェクト開始時のアイデア出し”などに求められるクリエイティブ思考は、「強制的、自動的、機械的にアイデアを多く出すこと」が重要だという。この点について、著者はブレインストーミングのような自由連想法、「新しい時計を考えるのに、岩石をヒントにして、たたきつけても壊れない時計を考える」ような「強制連想法」、「水の抵抗が少ない水着を考えるのに、イルカの皮膚をヒントに」するような「類似発想法」など数々の思考法を紹介。

 さらに、「会議の前半はクリエイティブ思考で議論を盛り上げ、メンバーが盛んにアイデアを出している間は『それでどうするのか』などとロジカル思考で突っ込みを入れない」、「ロジカル思考でまとめるべき会議の終盤になって、『いいことを思いついた』『そもそも前提が間違っている』などとクリエイティブ思考を持ち出さない」といった使い分けの鉄則も紹介している。

 さて、いかがだろう。 昨今、ロジカルシンキング関連の書籍が数多く発刊されていることも象徴するように、論理的な話し方、考え方を身につけたいというニーズは非常に高まっているようだ。だが、現在はグローバルで競争が激化している上、製造技術などもコモディティ化が進み、まさにアイデアが企業の勝敗を分かつ大きな要素となっている。

 とはいえ、「アイデアや思いつき」も、人に伝わり、説得できる明確な形に加工できなければビジネスにはならない。本書に収められた数々の事例を読んでいると、思い当たるものも少なくないだけに、両者をバランスよく使い分けることの重要性を実感として感じ取ることができるのではないだろうか。特にSEにとっては、ヒアリングや要件定義を行う際のノウハウとしても参考になるはずだ。ぜひ一読してみてはいかがだろう。

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