その新商品、本当に「差別化」できていますか?情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(20)

「差別化したつもり」になっているのは企業だけで、ユーザーから見ると「ほかと何が違うのか」よく分からない。そんなことにならないよう、有効な差別化方法を考え直してみよう。

» 2010年11月16日 12時53分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

ビジネスで一番、大切なこと――消費者のこころを学ぶ授業

ALT ・著=ヤンミ・ムン/訳=北川知子
・ダイヤモンド社
・2010年8月
・ISBN-10:4478012849
・ISBN-13:978-4478012840
・1500円+税
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 製品、サービスがコモディティ化するスピードが早い近年、企業はいかに自社製品・サービスを差別化するかに日々、頭を絞っている。しかし、同じような商品・サービスがあふれ返っているいま、差別化を図るのは至難の業だ。加えて、企業がいくら差別化を図ったところで、「ある段階に達すると、もはや愛好家でさえ区別がつかなく」なってしまう。「青をいくつもの言葉で表現できたところで、そこに意味を見いだせる人は少ない」のである。

 本書「ビジネスで一番、大切なこと」において、著者は企業が必死に“差別化”を図る姿を「差別化どころか模倣である」と指摘する。しかも悪いことに、「この模倣は『差別化』という専門用語の仮面を被り、マネジャーの頭の中で生き続けている。実際には、王様は裸で、消費者はそのことに気づいているのだが」。つまり、差別化を図った気になっているのは企業ばかりで、消費者は模倣の域から脱していない製品群を冷めた目で見ている、というのである。

 では“裸の王様”にならないためにはどうすれば良いのか? その回答にたどり着くための「思考の枠組み」として、著者は3つの“アイデア・ブランド”を提示する。これを参考にして、既存のものの一部を変更するのではなく、自社に最適な手段をイチから考えるべきだとアドバイスするのである。

 1つは「世の流れの逆を行き」、「膨らんだ価値提案からいらないものを大胆にそぎ落として」違いを作り出す『リバースブランド』。2つ目は、本来「ロボット」であるものを「ペット」としたり、「コーヒー味のミルクシェイク」を「フラペチーノ」とするなど、消費者が無意識に持っている商品カテゴリを“変換”し、新たな意味付けを行う『ブレークアウェー・ブランド』、そして3つ目は「製品の欠点を率直に語る、容易に顧客の手に入らないようにする」など、「消費に対する障壁を築き、そのブランドにかかわる意志の強さを示す」『ホスタイル・ブランド』だ。

 『リバース・ブランド』の一例として、著者はグーグルを挙げる。ヤフーをはじめとする主要ポータルが軒並みトップページに多くの情報を盛り込んでいる中、グーグルには「余分なものがまったく」なかった。これについて著者は、「驚かされたのは、グーグルがやったことではなく、やらなかったこと」だと指摘。彼らは「顧客が期待している拡張への流れを意図的に断ち切」ったと解説している。特に「余分なものをそぎ落としたブランドは、市場のクズになりがち」な中で、どんな考え方によって「贅沢なものに変えた」のか、そこにグーグルを評価し、学ぶべきポイントがあるという。

 一方、『ブレークアウェー・ブランド』としてはソニーのAIBOを紹介する。著者は、もしAIBOが「ロボット」として発売されていたら、「よろめきながら数歩進」んだり、命令に対して何もしなかったりする姿は、“高性能で命令に忠実”といった「ロボット」に対する人々のイメージを裏切り、酷評されていただろうと説く。だが「ペットという枠組みが、魔術のような変化を呼び起こし」好意的に受け止められた、というのである。最後の『ホスタイル・ブランド』としては、BMWのミニクーパーを紹介。車の「小ささ」に不安を感じる消費者も多い中、逆に小ささをアピールして“ブランドへの思い”を打ち出すことで、一部の顧客層の強い支持を獲得したと説明している。

 厳しい市場環境にあるいま、企業にとって差別化は本当に頭の痛い問題だ。だが、このように解説されると、“既存品プラスα”の方向性でしか考えられなかった“差別化の呪縛”が解かれ、確かに考えの幅が大きく広がるような気がする。特にIT業界では、クラウド時代になるとベンダやSIerは一層厳しく選別されるようになると言われている。そうした中、自社はどの“路線”で行くべきなのか。省くのか、製品・サービスの立ち位置を変えるのか、導入の敷居を高くして自社ならではの独自性を打ち出すのか――そう考えてみるだけでも、さまざまな施策や可能性が見えてくるのではないだろうか。

 「既存のものの一部を変える」アプローチではいずれ煮詰まってしまうし、マーケティングデータだけを当てにしても、いま支持されている製品・サービスの特徴しか浮かび上がってこない。ぜひ本書を基に、自社が採るべきアプローチと、それを実現できるストーリーをイチから考え直してみてはいかがだろう。本書の豊富な事例は、マーケティングデータだけでは得られなかった何らかのインスパイアを多くの関係者に与えてくれるはずである。


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