コンプライアンスの定義が分からない方へ読めば分かるコンプライアンス(2)(1/2 ページ)

今回は、前回掲載した小説部分で取り上げたコンプライアンス問題について、筆者が分かりやすく解説する。

» 2008年03月13日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

 (編集部から):今回は、前回掲載した小説パートに登場したコンプライアンス問題を解説する回となります。

 前回の小説パートを読んでいない方は、ぜひお読みになってから参照されると、より理解が深まると思いますのでご一読ください。

コンプライアンス=法令遵守なのか

 「コンプライアンス」という言葉は、すっかりポピュラーになってしまいました。コンプライアンスに関する書籍も数多く出版されています。それぞれの著者がコンプライアンスという言葉に定義付けをしていますが、最近では、「コンプライアンスの意味は、法令遵守だけではない」という趣旨が一般的です。

 そうすると、例えばこのような声が聞こえてくるのではないでしょうか?

「法令遵守だけではない」という趣旨はなんとなく分かるような気もするが、では、「法令以外のコンプライアンスの具体的な中身とは何か?」、つまり、「法令以外に守るべきこと、違反してはならないこととは何か?」となると、どのように考えればよいのやら、分からなくなってしまう。

 この方のように、「コンプライアンス」という言葉を理解しようと取り組んでいる人の多くは、上記のような悩みを持っていると思います。そして、「法令以外のコンプライアンスとは、コレとコレとコレである」と示してくれている書籍を探し求めているのではないでしょうか。しかし、コンプライアンスの具体的な中身を、料理本のレシピのように示している書籍には出合えないはずです。

 法令遵守が、コンプライアンスの中心的な存在であることには、筆者も異論はありません。問題は法令以外のコンプライアンスの中身ですが、それは論理的に定まっているものではなく、企業の存在目的(企業理念といってもよいです)に応じて、その企業自身によって個別具体的に決められるものなのです。

 それを考える場合、「なぜ法令遵守がコンプライアンスの中心的な中身になるのか?」をまず考えると分かりやすいでしょう。

 なぜ企業は法令を順守しなければならないのでしょうか。それは、法令に違反すると、その企業は法的責任を問われるという事実はもちろん、社会的信頼を失って企業としての存続が危うくなるからです。このように、法令には、企業の社会的信頼を担保する機能があります。

ALT 神崎 亮太

 法令遵守を中核とするコンプライアンスも、これと同様の機能を持っているのです。つまり、コンプライアンスとは、企業の社会的信頼を維持向上させるためのものなのです。そう考えると、自社にとっての法令以外に必要となるコンプライアンスの具体的な中身も、見えてくるのではないでしょうか。

 わが社は社会的信頼を維持向上させるために何をしなければならないか、何をしてはならないか。

 その質問に対して、自社の存在している環境を踏まえて回答を出す。その回答の1つ1つが、自社にとってのコンプライアンスの具体的な中身なのです。

 コンプライアンスの定義およびその内容は、与えられるものではなく、自ら設定するものなのです。

企業の社会的責任とは

 コンプライアンスとは、法令を順守することも含めて、企業の社会的信頼を維持向上させるために必要となる事柄を実践することであるといえます。

 では、「企業の社会的信頼」というものをどのように認識したらよいのでしょうか。

 この点については、いろいろな特徴を持ったアプローチが数多くあります。

 本作品においては、「企業の社会的信頼=ステークホルダーの期待に応え、信頼に背かないこと」という考え方をベースにしています。そして、ステークホルダーとは、主に、株主・顧客・従業員・取引相手を想定しています。

 このように具体的な人々を想定すると、これらの人々が自社に対してどのような期待を持っているか、どのようなことをするとこれらの人々の信頼に背くことになるか、という事柄も具体的に考えることができるようになります。

 コンプライアンスの定義やその内容は、いわゆる「企業理念」や「コンプライアンスマニュアル」などのように、最終的には抽象的な表現にまとめ上げられることになりますが、そこに到達するための道のりは、具体的事象をベースにした考察から始めるのが取り組みやすいでしょう。

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