競合他社への転職は情報漏えいですか?読めば分かるコンプライアンス(3)(3/4 ページ)

» 2008年04月08日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

考えるほど募る上司への不満

 磯崎とちゃんこ鍋を食べてから1カ月。岡田は磯崎の申し出を繰り返し検討してみた。

岡田 「(確かに、鬼河原さんのような上司の下では、コンサルタントとしての成長は望めない。真のコンサルタントとして活躍できるフィールドが用意されている環境に移ることこそ、自分の成長につながるのではないか。しかも、そのフィールドは自分の持っているスキルを必要としてくれている。これほど恵まれた条件はめったにないんじゃないだろうか)」

 また、海外留学から帰ってきてからわずか3カ月後に競合他社へ転職するという点に関する磯崎の助言についても、岡田は自分で法律関係の書籍に当たって調べてみた。

 磯崎の助言は、法的観点から見ても正しいと思われた。

 検討すればするほど、磯崎の誘いは輝きを増してきた。

 それに反比例して、鬼河原の指示のままに働くしかない現状が苦痛以外の何物でもなく思えてきた。

 気が付くと岡田は、磯崎に電話して転職の意思表示をしていた。

 磯崎は早速2回目の会合を設定し、転職後の処遇や仕事の内容などについての細かな条件について説明した。

 そして、最後に念押しをした。

磯崎 「いいこと、鬼河原さんや会社の上の人と転職の話をするときは、わたしが教えた作戦を忘れないようにね」

会社に文句をいわせない4つの作戦

鬼河原 「どうした、岡田ちゃん、折り入って相談があるなんて、会議室にまで呼び出して。おれもそんなに暇じゃないからさ、くだらない相談には付き合ってらんないよ」

 転職の決心をしてみると、いつもは気に障る鬼河原のいやみたっぷりの言い方も気にならず、岡田はズバッと直球を投げ込んだ。

岡田 「鬼河原さん、ぼくは1カ月後に辞めたいと思います」

鬼河原 「! 辞めるって、会社を……か?」

岡田 「はい」

鬼河原 「はいって、おまえ……。理由は何だ! 理由は!?」

岡田 「理由ですか? 理由は、ここでこのまま勤めていても、コンサルタントとして成長する経験が望めないと判断したからです」

鬼河原 「ぬわぁにぃ、コンサルタントとして成長する経験だぁ? そんな口を利くのは10年早いってんだよ! じゃあ、どこだったらそんな経験ができるってんだ? ええ? ここを辞めてどこで働くつもりなんだよ」

岡田 「(そらきた、作戦その1)転職先を答える義務はないんですけど、それを言わないことで話がこじれる方がいやだから言いますけど、ハイパーシステムに行きます」

鬼河原 「ライバル会社じゃないか!! 岡田、おまえさぁ、常識ってもんがないのかよ。ライバル会社に転職するなんざ、認められるわけがないだろうが」

岡田 「(そらきた、作戦その2)何言ってんですか。ぼくは会社と労働契約を結んでいるわけであって、契約当事者としていつでも解約できるんですよ。解約すなわち退職です。退職したら、会社とは全く無関係ですから、その後ぼくがどこに行こうと、会社がぼくに何かをいう権限は何もないんですよ。つまり、この会社にも鬼河原さんにも、ぼくがハイパーシステム社と労働契約を結ぶのを止める権限はないんです」

鬼河原 「何言ってやがる! ハイパーシステムはウチと同じ業界の会社だ。となりゃ、ウチで身に付けたコンサルティングのノウハウがそのまま使えるってもんだ。それは逆にいうと、ウチの会社に損害を与えるってことだ。この会社で身に付けた企業秘密をよその会社で使って給料をもらおうなんて、そんな虫のいい話が通ると思ってんのか!?」

岡田 「(そらきた、作戦その3)もし、この会社がスタッフに教えていることを企業秘密として守りたいんなら、規程を作るなどして、スタッフに対してこれは企業秘密だから漏えいしてはならないと周知したり、物理的にも手続き的にもきちんと管理していなければならないんですよ。そういう対処をしていれば、それを他社に漏らした従業員の責任を追及することはできますよ。でも、この会社では、そんな対処は全然していませんよね。それなのに、ぼくの転職を営業秘密の漏えいだというのは、それこそ虫のいい話ですよ」

鬼河原 「しかし、その、なんだ……、おまえは去年、交換留学制度でシカゴに行かせてもらってるじゃないか。おまえの留学に会社がどれだけの金を使ったか、おれも具体的な数字は知らないけど、安くない金額だってのは明らかだ。会社の金で留学して、しかも帰ってきてまだ3カ月、さてこれから仕事で恩返しってときに、経験が積めないとかなんとか聞いたふうなことをぬかしやがって、後ろ足で砂をかけるようなまねをするなんざ、どう考えたって認められるわけがねえじゃねえか!」

岡田 「(そらきた、作戦その4)さっきも言ったように、ぼくは会社と労働契約を結んでるし、いつでもそれを解約できるんです。会社の金で留学したら労働契約を解約できなくなるなんて、それこそ、どう考えたって認められる解釈じゃありませんよ。もしですよ、交換留学制度の規程があって、そこに留学後何年間は退職してはならない、といった定めがあったりしたら、話は変わってきますよ。さらに、留学生に選ばれたスタッフと会社との間で、留学に行く前に、留学後何年間は退職しないという個別の約束をしてたりしたら、これまた話は変わってきますよ。つまり、留学後何年間は退職しないという契約が新たに作られたことになるわけだから、留学生になったスタッフはそれに拘束されて、留学後決められた間は退職できないし、それを無視して退職すれば、債務不履行で損害賠償責任が追及されますよ。でも、この会社にはそんな規程もないし、ぼくは留学前に個別の約束もしていません」

鬼河原 「おまえは……、四の五の四の五のと……、小ざかしい法律論なんか言いやがって!! 法律はどうなってるか知らんがとにかくだ、そんなふらちな転職は認められん! 顔を洗って出直してこい!」

岡田 「鬼河原さん、その頭ごなしの物言いがどれほどスタッフのモチベーションを下げているか、どれほどスタッフの信頼を失っているか、いい加減気付いてくださいよ。鬼河原さんのスタッフへの接し方は、パワハラだといわれても仕方ないし、コンプライアンスに反していると言われても仕方ないですよ」

鬼河原 「な、な、なん、ぬわんだとぉ!」

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