ヤクザと関係を持つことのどこがコンプラ違反なのか読めば分かるコンプライアンス(8)(1/2 ページ)

今回は、前回掲載した小説部分で取り上げたヤクザが会社にやって来た場合のコンプライアンス問題について、筆者が分かりやすく解説する。

» 2008年08月06日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

(編集部から):今回は、前回掲載した小説パートに登場したコンプライアンス問題を解説する回となります。

 前回の小説パートを読んでいない方は、ぜひお読みになってから参照されると、より理解が深まると思いますのでご一読ください。

第7回の小説部分へ


企業は体面を重んじるがゆえに……

 一般論として、企業は個人と比べてより強く社会的体面を気にする。そしてまた、企業は個人よりも多くの現金を持っている。

 従って、企業の社会的体面を脅かす「事実」または「その可能性」を示すと、企業は現金でその脅威を解消しようとする傾向がある。ここに、「総会屋」と呼ばれる反社会的勢力の暗躍する余地が生じていた。

 1960年代以降、いわゆる高度経済成長の波に乗って企業活動の規模が膨張したのに伴い、それらの反社会的勢力が正常な企業活動にもたらす悪影響も、その度合いを増してきた。それは取りも直さず、健全なる国民経済の成長を妨げるものである。

 それを阻止するために制定されたのが、会社法第970条である。

(株主の権利の行使に関する利益供与の罪)

第970条

 第960条第1項第3号から第6号までに掲げる者(取締役、監査役、支配人等)又はその他の株式会社の使用人が、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

2. 情を知って、前項の利益の供与を受け、又は第三者にこれを供与させた者も、同項と同様とする。

3. 株主の権利の行使に関し、株式会社又はその子会社の計算において第一項の利益を自己又は第三者に供与することを同項に規定する者に要求した者も、同項と同様とする。

4. 前二項の罪を犯した者が、その実行について第一項に規定する者に対し威迫の行為をしたときは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。

5. 前三項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。

6. 第一項の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。


 要するに、反社会的勢力に利益を供与した役員や従業員と、役員や従業員にそのような利益の供与を要求し、自ら利益供与を受け、または第三者に受け取らせようとした反社会的勢力の双方が処罰されるのである。

 そして、反社会的勢力については、利益供与を受けようとして役員や従業員を威迫すれば刑罰を重くし、役員や従業員が利益供与の事実を自白すれば刑罰を軽減してやることにより、そのような利益供与の風潮ないしは再発を予防している。

進化したヤクザは……

 法規制の強化により、昔ながらの総会屋は見受けられなくなった、

 しかしそれは、法規制の強化が功を奏して総会屋を廃業に追い込んだのではない。逆に、自然環境の変化が生物に進化をもたらしたように、法規制という刺激を与えたことによって、総会屋の進化を招いたといえるかもしれない。

 進化形の1つが、前回出てきた「企業舎弟」である。

 彼らは、社会的体面を保とうとする企業の思惑に揺さぶりをかける。

ALT 清水 政男

 その揺さぶりは、以前は、株主総会における傍若無人な振る舞いによって企業の体面に影響を与えようとする方法が主流だった。しかし、いまは日常業務に潜む法的リスクを意識させることにより、そのリスクを回避するための金を支出させようとする方法に変わってきた。

 8年ほど前、インターネットプロバイダの顧客情報データベースに不正にアクセスし、膨大な人数の顧客名簿をダウンロードした上で、その一部のアウトプットを提示して、「おたくの顧客情報が漏れている。どうやら海外ルートで漏れているようだ。われわれにはそのルートを解明して防衛策を講じる技術力がある。おたくがその防衛策を望むならば、そのための会社を設立する必要があるから5億円を出資せよ」と持ち掛けたグループがあった。

 首謀者は元総会屋であり、クッラカーや詐欺師などを使って、インターネットプロバイダに対して個人情報保護法違反のリスクを突き付け、揺さぶりをかけたものである。

 企業活動の一挙手一投足のすべてが、法令の定めに何らかの関係を持っている以上、反社会的勢力にとって、社会的体面を気にする企業に揺さぶりをかけるためのネタはいくらでもあろう。

 社会的体面を気にする企業は、その社会的体面が崩壊するかもしれないという不安に駆られ、金の力でその不安が解消されると期待したとき、いくらでも金を払おうとする。企業舎弟のような反社会的勢力にとって、社会的体面を気にする企業は、まさに「金のなる木」なのである。

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