法律がないいまは、パワハラし放題なのか読めば分かるコンプライアンス(16)(2/2 ページ)

» 2009年01月28日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]
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さて、本題のパワーハラスメントは……

 今回はパワーハラスメントに関する解説なのにもかかわらず、セクシャルハラスメントについて長々と述べてきたのには訳がある。

 現在の「パワーハラスメント」という言葉を取り巻く状況は、セクシャルハラスメントという言葉の黎明期とそっくりなのである。

 パワーハラスメントという言葉を認識し始めたのはいつごろだったかを思い出していただきたい。恐らく、ここ4?5年くらいではなかろうか。

 しかし、「上位者の立場に基づいて下位者をいじめる」という事態は、パワーハラスメントという言葉がブレークする前から存在していたのである。ただ、それをいい表す言葉が存在していなかっただけである。いじめられていた下位者は、いい表すことができずに耐えていたのである。

 そこへパワーハラスメントという言葉が輸入された。しかも、上位者を攻撃できる武器として使うことができる言葉である。「これは使える!」というわけで、下位者は盛んに使い始めている。

 ところが、パワーハラスメントという言葉は、まだ法律に取り込まれていない。

 つまり、パワーハラスメントという言葉の公式な意味・定義はまだ存在していないのである。なので、パワーハラスメントという言葉を使いたい者は、使いたいように解釈して使っている。まさに、セクシャルハラスメントという言葉の黎明期とそっくりである。

 さらに加えて、セクハラという言葉の黎明期には存在しなかった状況がある、それは、セクハラという言葉の歴史を体験してきている世代は、「ハラスメント」といわれると、つい腰が引けてしまう傾向が染み付いている、という状況である。

 これが、パワーハラスメントという言葉を取り巻く現状だ。

パワハラという言葉との付き合い方

 私は今回の作品の中で、井川を「パワーハラスメントという言葉を使いたいように解釈して使っている人間の典型」として描いている。

 “自分の言動はパワハラに該当しないだろうか”という自省はこれっぽっちもなく、上司の言動で自分が不愉快な思いをすると、ただそのときの感情だけで「パワハラだ!」と非難する人間である。

 セクハラという言葉の黎明期にも、「あの部長って、生きてるだけでセクハラよねぇ!」といってはばからない女性もいたが、彼はそれと同じ過ちを犯している。「パワハラだ!」といって上司を非難するからには、自分の感情だけではなく、“上司の言動に誰が見ても非難されるべき客観的な理由がなくてはならない”という点を理解すべきであろう。

 作中の大塚マネージャについては、「ハラスメント」といわれるとつい腰が引けてしまう管理職として描いてみた。

 セクハラという言葉/概念で攻撃された体験を持つ人間としては、「ハラスメント」といわれると、条件反射的に「何かまずいことをしでかしたからいわれるのだろう、いわれた方が悪いのだろう」と思ってしまうふしがある。その条件反射が高じると、「部下には必要な指示しかいわない」という偏った考えに陥る。

 これでは、部下の指導・育成という上司としての務めを放棄するのと同じである。部下を尊重し、部下を育成するためであれば、自分の考えは明確に堂々と伝えるべきだ。

 つまり、作中の赤城がいっているように、「いまはパワハラという言葉の黎明期であり、その意味・定義が確立されていないこと」をきちんと認識しなければならない。“ハラスメント”という言葉に対して、必要以上に引きずられないことが重要なのだ。

【次回予告】
 次回は、「メンタルヘルス」について解説します。メンタルバランスを崩した人物を主人公として、メンタルバランスを崩す過程や崩してしまった人への対処方法などを分かりやすく解説します。ご期待ください。

著者紹介

▼著者名 鈴木 瑞穂(すずき みずほ)

中央大学法学部法律学科卒業後、外資系コンサルティング会社などで法務・管理業務を務める。

主な業務:企業法務(取引契約、労務問題)、コンプライアンス(法令遵守対策)、リスクマネジメント(危機管理、クレーム対応)など。

著書:「やさしくわかるコンプライアンス」(日本実業出版社、あずさビジネススクール著)


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