あの“とんでも社員”を解雇させたい!読めば分かるコンプライアンス(19)(1/5 ページ)

本連載では、あるコンサルタント企業を舞台にして、企業活動とは切っても切れない“コンプライアンス”に関するトピックを、小説の随所にちりばめて解説していく。

» 2009年06月08日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

クライアントから、突然のクレーム電話

今回の主な登場人物

柏木 三郎

グランドブレーカー シニアSE



神崎 亮太

グランドブレーカー シニアコンサルタント


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 神埼のポケットで会社支給の携帯電話が鳴った。

 神埼のクライアントである東南電機株式会社総務部の中島係長の名前がディスプレイに表示されていた。何となく嫌な予感を感じながら、神崎は受信ボタンを押した。

神崎 「はい、グランドブレーカーの神崎です」

中島 「東南電機の中島ですが……」

神崎 「は、いつもお世話になっています」

中島 「実はですね、神崎さん……。御社のSEチームのことなんですけどね、ちょっと困ったことになっているので相談したいんですよ」

神崎 「困ったこと……。と仰いますと?」

中島 「ご存じの通り、いま、御社に開発をお願いしている在庫管理システムのテスト運用をしているところなんですけど、それに昨日の夕方、ちょっとしたバグが見つかったんですよ」

神崎 「バグですか……。深刻なものですか?」

中島 「いや、バグ自体はそんなに問題じゃないんです。おそらく簡単に修正できるんだと思いますよ。問題はですね、御社のSEチームの柏木さんの対応なんですよ」

 神崎は内心、「恐れていた事態がついに来たか」と思った。

 中島係長は、溜めていたものを吐き出すような口ぶりで続けた。

中島 「昨日、柏木さんにバグのことを指摘したら、『そんなはずはない、それはそっちの操作の問題じゃないか』と、バグを認めようとしないんですね。これにはびっくりしましたよ。なので、実際に操作しながらバグを指摘したら、明日には返事をするからちょっと預からせてくれ、というわけですよ。だから今日まで待って、午前中に柏木さんから報告を聞いたんです。ところが、これがまた……」

神崎 「何か、失礼なことをいったのでしょうか…?」

中島 「柏木さんは、『バグは自分のせいではない、大塚さんや神崎さんたちのコンサルチームの詳細設計に誤りがあると思われる、でなければ、神崎さんから自分たちSEチームへの伝達が悪かったのだろう』という感じで、あくまでも自分のせいではないということを主張するだけなんですね。ほんとに、どういうお人なんでしょうかネェ……」

神崎 「何とも、誠に申し訳ありません……」

中島 「私どもには、御社の内部事情はどうでもいいんですよ。必要なのは、とにかくバグを修正してテスト運用を完了させて、期日までに最終化することなんです。ところが、柏木さんは、何とかバグが自分のせいではないことを証明しようとするばかりなんですよ。これじゃあ、私たちも困るんですよね!」

神崎 「ごもっともです! すぐに対応させていただきます、はい。バグの修正はもちろん、いまのテスト運用フェイズの推進体制も根本的に見直しさせていただきます。誠に申し訳ございません!」

ALT 神崎 亮太
ALT 中島 郁夫

 神埼はそういいながら、平謝りするしかなかった。

 幸いなことにバグは深刻なものではなく、その修正は困難ではない。現場のSEチームから詳細を聞いて正確な指示を出せば、すぐに対応できるだろう。

 それよりも、問題は柏木だった。神崎にとって、柏木は背中の手の届かない部分にできた腫れ物のような存在だった。

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