下請けいじめでストレス発散は犯罪?読めば分かるコンプライアンス(21)(1/4 ページ)

今回神崎は、クライアントの要望で初めてマンガを取り入れたマニュアル作りをすることに。慣れない仕事に戸惑いながらも知り合いのツテでイラストレーターを見つけ出し、仕事を開始。しかし、初心者とプロの意識の違いが大きな意識のズレを生むことに……。

» 2009年09月08日 12時00分 公開
[鈴木 瑞穂,@IT]

いやぁな仕事を受注

今回の主な登場人物

神崎 亮太

グランドブレーカー シニアコンサルタント



藤堂 流星

フリーイラストレーター


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 神崎はワールド商事との打合せを終えて、涼しい会議室から屋外に出た。

神崎 「暑い!」

 遅れていた梅雨明け宣言が出されたとたん、いきなりの真夏日である。太陽に焼かれたアスファルトから陽炎が立ち昇り、都会でもこんなにいるのかと驚くほどの蝉の鳴き声が降り注いでくる。神崎は吹き出る汗をぬぐいながら、いましがたの打ち合わせでワールド商事の等々力課長からいわれた要請を思い返して、思わずため息をついた。やれやれ、とんだ仕事を請け負ったもんだ。

 グランドブレーカーは、6カ月前にワールド商事の経理システムの構築を受注した。神崎はプロジェクトマネージャとしてそのジョブを担当しており、いま最終段階に差し掛かっている。

 クライアント側の担当責任者である等々力課長は、常にエネルギッシュで「質の良い仕事」を座右の銘としているやり手である。

 クライアントが行うべき情報提供や要件定義などを、卒なくテキパキと進めてくれるのは助かるが、ときどき何かの拍子でユニークなアイデアを思い付き、「こんなことはできないかな」と無邪気な顔で相談してくるところが困りものであった。神崎は、その都度、そのアイデアが技術的、マンパワー的に実現可能かどうか、また契約内容に含まれるかどうかを検討し、「実現可能だが契約内容には含まれない」と判断したときは、別途契約として発注してもらうように交渉しなければならなかった。

 そんな等々力課長が、今日も新しいアイデアをぶつけてきた。

等々力課長 「おかげさまで経理システムもほとんど完成して、後1週間もすればテスト運用という段取りですね。それで、ちょっと思いついたんですけどね。本格的な運用マニュアルを作ってもらえませんかね? ウチの経理部は人の入れ替わりが多いから、人が変わってもパフォーマンスを同じように保つには、ちゃんとしたマニュアルが必要なんですよ。で、それをデータで納めてほしいんです。そうすれば、要件変更が発生しても経理部だけでメンテナンスできるし。ただね、本格的なマニュアルといっても、見た目はなるべく軽くて分かりやすいものにしたいんですよ。システム屋さんが書くマニュアルって専門用語が多いし、あちこちに飛んだりして、すごく分かりづらいでしょう? そうじゃなくて、例えばマンガチックに……。そう、マンガがいいな……。うん、そうしよう! なんかこう、ウチ用のキャラクターを作ってさ、そのキャラクターがシステムの作動方法を分かりやすく解説するわけ。よし。この線でいきましょう!」

ALT 等々力 静

 神崎は「これは明らかに別途契約となる案件だ」と思ったので、そのようなマニュアルを作るためには、別料金で発注してもらわなければならないと伝えた。「だったらやめるよ」という等々力課長の反応を期待してのことだったが、意外にも等々力課長は、「いいですよ。見積もりを出してください。妥当な金額なら発注しますから」と応じたのだった。

 そこまでいわれては、いまさらそれはできませんともいえず、神崎としては見積書の提出を約束せざるを得なかった。そして、いままでの等々力課長の言動から、彼がかなり潤沢な予算を持っていることが分かっていたので、見積もりが法外な金額でない限り、「質の良い仕事」のために等々力課長がマニュアル作成を発注することは、ほぼ確実だった。

神崎 「まいったなぁ。マンガチックなマニュアルかぁ。マニュアルはいままでにも書いたことはあるけど、キャラクターを使ったマニュアルなんてのは作ったことがないしなぁ。さて、どうしたものか……」

頼れるのは顔の広い友達

 オフィスに戻った神崎は、大学の同級生でいまは大手の広告代理店に勤めている松田剛に電話を掛けた。仕事柄、マンガ家あるいはイラストレーターの1人や2人は知っているのではなかろうかと期待してのことだった。

松田 「ああ、それなら1人、藤堂っていうイラストレーターを紹介できると思うよ。以前クライアントの社内報の仕事で使ったことがあるんだ。まだ駆け出しの若手で、そんなに実績はないけど、そこそこのイラストは描けると思う」

神崎 「それでオッケー。そこそこで十分だよ。マニュアル作成にはあまり時間をかけたくないんだ。その藤堂って人にお願いするよ。詳しい仕事内容を説明したいから、アポをとってくれないかな。オレの方は、ここ1週間は毎日3時以降が空いているから、いつでもいいよ」

 松田は早速連絡をとって、折り返し電話を掛けてきてくれた。藤堂とのアポが取れて、明後日の午後3時、藤堂が自作のイラスト数点を持参して、グランドブレーカーに神崎を訪ねて行くと伝えてきた。

神崎 「サンキュー。世話になったな。それにしても、おまえは顔が広いよなぁ」

松田 「神崎くん、社会人になったらネットワークは財産だよ、カッカッカッ! 貸しはいつか返してもらうからね!」

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