CIOと情報システム部が担うべき機能と役割進化するCIO像(4)(2/2 ページ)

» 2008年11月13日 12時00分 公開
[碓井誠(フューチャーアーキテクト),@IT]
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外部パートナーとの強固な連携が成功の秘訣

 一方、外部パートナーとの連携体制も情報システム部門の大きな特徴の1つだ。情報システム部門は、セブン-イレブンの中でも外部パートナーとの連携が深く、継続性が最も強い体制を築いてきた。情報システム部門がサポーターとコラボレーター、イノベーターの役割をバランスよく実行できたのは、開発・運用を全面的にアウトソースできる、専門性と技術力に長けたパートナーの支えによるところが大きい。

 第5次総合情報システム開発と、前述したeコマースサイト、店舗ネットビジネスなどの新規事業開発が重なった1998〜2000年ごろには、情報システム部門は120名を超え、パートナーはその10倍を数える規模となった。店舗については、ハードウェアもオリジナル開発を行い、全体の開発はアーキテクチャ・ミドルウェア部隊、アプリケーション部隊、導入・運用支援部隊など、総勢1200〜1300人が3年間、活動をともにしたことになる。

 大規模開発が終了すると、セブン-イレブン側は70〜80人規模、パートナー側も400〜500人規模に戻ったが、前述のeコマース事業、ATM運営会社システム(後のセブン銀行)、セブンミールへは、約30人が出向・転籍した。情報システム部門がプロジェクト立ち上げから新規事業への人材提供まで行うことになった格好だ。こうしたことができたのも、ビジネスとITの双方に強い人材を育成できる環境あってのことだろう。

3つの役割を果たすために、パートナーは不可欠な存在

 また、システムの大規模な再構築には、各サブシステムの順次リリースに3〜4年が費やされる。これに検討、準備期間を加えると5〜6年が再構築の1スパンとなる。技術選定の最適化のタイミング、つまり「使いたい技術・アーキテクチャ体系を、どのタイミングで備えられるか」を検討し、必須技術の開発準備をスタートさせておくことを考えると、もっと以前から次への準備が始まっている。

 例えばバーコード・スキャナ付きのハンディターミナルやGOT(発注用売り場PC)は、実稼働の3年前に外部パートナーにイメージを伝えたが、それ以前から、その実現を踏まえた業務プロセスのデザインやアプリケーションイメージの検討を行っていた(ちなみに、その際は「こういうものができれば、こんなことが可能になる」というイメージ力が重要である)。

 このように再構築に費やす5〜7年の期間を考えると、CIOは大規模構築が完了してしばらくしたら、すぐに次の再構築の準備・検討に入る必要がある。当然、業務システム改善などを行う“コラボレーター”や、現行システムのメンテナンス、システム活用の支援、教育を行う“サポーター”も常時担うべき役割である。こうした3つの役割をバランスよくこなすという意味でも、外部パートナーとの連携が極めて重要なのである。

経営と現場のコンセンサスを取りつつ、改革を推進する

 さて、最後にもう1つ重要なポイントについて述べたい。情報システム部門が、イノベーター、サポーター、コラボレーターという役割を果たすためには、常に自己革新を図り、ソリューション力を高めることが必要である。図4の中央には、改革を推進する情報システム部門が持つべき能力を列挙している。それぞれ具体的にどういうものなのか、順に解説していこう。

情報システム部門は戦略・方針と現場の状況を考えて、イノベーションに還元すべき 図4 情報システム部門は、自社の戦略・方針と現場の状況を考え合わせ、図版中央、水色の囲み部分に示した5つの能力をもって、イノベーションやソリューションを提供・実現していくべきである

 まず「方針とコンセプト」とは、第3回で詳しく述べた「戦略的視座を持つ」ことである。「ビジネスプロセスと現場重視」は、ビジネスプロセスの改善・改革と、システム革新を同時並行で行う姿勢を貫くことである。現場重視とは、現場に入ることは当然として、「現場以上に現場を知らなければ改革はできない」と考えるべきことを表している。

 この言葉は、セブングループの鈴木敏文会長より折に触れて指示されていたものである。私自身は『現場に対して客観的、全体最適の視点で評価を行い、業務改革のアイデアと、その実現をサポートするITの効果的活用を組み込み、かつ人間の心理および人間系業務と、システム系業務の連携の最適なバランスを考えること』の重要性を指摘したものと受け止めている。

 一方、「情報技術活用力」とは、当然のことではあるが、単に技術を寄せ集めるのではなく、1つ1つの技術をものにするという意味である。「システム構築手法」と「パートナーシップ」については後日あらためて詳しく言及するが、「システム構築のための論理的・網羅的な思考や、パートナーとの連携力は、組織横断型の横グシ的最適化とレバレッジ効果(能力拡大効果)を生むうえで不可欠である」といったことを表している。


これら改革・改善を進めるための能力は、情報システム部門が本来保有しているはずのものであり、最も得意とする領域であるはずだ。そこで情報システム部門のメンバーは各部門との連携を深めつつ、リーダーシップを持ってイノベーションに望むべきである。そして、その展開において、イノベーションの落とし所をうまく提案することが重要になる。図4右端に示すように、経営の目標と現状には往々にして大きなギャップがある。目標ありきでは現場がついてこられない。そうかといって現状是認の改善では改革は進まない。

碓井誠氏

 従って、CIOは戦略の落とし所を十分に検討したうえで、段階を踏んで目標を達成するためのシステムシナリオを準備して、経営と現場のコンセンサスを取ることが重要である。

 その際の重要なポイントは、システムありきではなく、ユーザー部門のオーナーシップを引き出し、具体的な説明を心掛けつつ、業務とシステムの両面から改革を進めることである。それが成功の秘訣といえる。

 教科書のように整理されたシナリオに聞こえるとは思うが、当然、力不足による紆余曲折もあり、各部の理解やオーナーシップの形成には時間も苦労も要するものだ。その成功や失敗から学んだ経験的ノウハウも、今後は伝えていきたい。

著者紹介

碓井 誠(うすい まこと)

1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。業務プロセスの組立てと一体となったシステム構築に携わり、SCM、DCMの全体領域の一体改革を推進した。同時に、米セブン-イレブンの再建やATM事業、eコマース事業などを手掛けた経験も持つ。2000年、常務取締役システム本部長に就任。その後、2004年にフューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)取締役副社長に就任し、現在に至る。実務家として、幅広い業界にソリューションを提案し、その推進を支援しているほか、産官学が連携した、サービス産業における生産性向上の活動にも参画。さらに各種CIO団体での活動支援、社会保険庁の改革委員会など、IT活用による業務革新とCIOのあり方をメインテーマに、多方面で活動を行っている。


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