“グリーンIT”を真剣に考えるべき3つの理由グリーンITコラム(1)

本連載では、米国で盛り上がり最近では日本でも注目を集め始めた「グリーンIT」をテーマに、オルタナティブブログで人気の栗原潔氏が、グリーンITの最新トレンドを解説する。

» 2007年12月19日 12時00分 公開
[栗原 潔,@IT]

いまが“旬”のグリーンIT

 「グリーンIT」がバズワードとなりつつある。

 あえて説明するまでもないが、グリーンITとは環境問題を考慮したIT基盤を構築しようという考え方である。より具体的にいえば、データセンターにおける電力消費量の削減にフォーカスが当てられることが多い。

 米国の主要IT調査会社がこぞってグリーンITを、今後の重要課題の1つと位置付けている。また、大手ITベンダも、社内でのIT関連電力削減のイニシアティブを推進するとともに、グリーンITソリューションを強力に推進している。

 例えば、IBMは総合的なデータセンター電力削減プロジェクト「Project Big Green」を推進している。日立は、同社の主要IT製品の省電力化を推進する新プロジェクト「Harmonious Green」を発表した。NECは、同様の目標を目指した「REAL IT COOL PROJECT」を発表している。他のベンダも同様のプログラムを実行中だ。

 また、2007年2月には「グリーン・グリッド」と呼ばれる、グリーンITを目指す業界コンソーシアムも設立されている。グリーン・グリッドにはAMD、デル、HP、IBM、インテル、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、VMwareなどがボードメンバとして参画している。グリーンITが、IT業界全体の重要ムーブメントになっている点には異論の余地はないだろう。

 しかし、日本国内の一般的なIT技術者にとっては、グリーンITはまだ差し迫った課題にはなっていない印象がある。例えば、筆者が非公式に行った聞き取り調査では、上記のグリーン・グリッドの認知度は極めて低かった。

 この理由の1つには、データセンターの施設コストが、必ずしもIT部門の管理対象予算となっていないことがあるだろう。苦労をして電力消費量を下げることへのインセンティブがない、故に関心がないという状況である。

ただの流行ではないグリーンIT

 また、正直にいえば、業界全体がエコに向かうこのような動きに対して、多少の心理的反発を覚える人もいるのではないだろうか?

 一般にこの種のムーブメントには、単なる流行ではないか(ブランドもののエコバッグを行列して買い求めるなどはその例だ)、特定の団体や政治家の売名行為に使われているのではないか、盲進的なお説教をされるのには抵抗がある、などの感情を伴うことが多い。

 もちろん、グリーンITにこのような要素がないとはいえない。しかし、ITをビジネスにしている者にとっては、より現実的な視点から考える必要があるだろう。グリーンITを真剣に考えることは、ITベンダそして一般企業にとって明らかなメリットがある。その理由は大きく以下の3点に集約できる。

 第一に、エコ関連に限った話ではないが、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の重要性が増している点が挙げられる。

 企業が単に法律を守り、利益を上げるだけではなく、さらに一歩進んで社会貢献をすべきという考え方だ。CSRは倫理的な観点から重要であるだけではなく、マーケティングの観点からも重要だ。CSRの推進には、企業イメージを向上するという重要、かつ、現実的な効果がある。ITの多くの領域においてテクノロジ的な差別化が困難になるにつれ、企業イメージが重要な差別化要素になっている。

 そして、良い企業イメージの構築には、長い期間をかけた地道な作業が欠かせない。グリーンITにおいても、精神的・倫理的な観点以上に、企業イメージの向上という実利的なメリットがあることを忘れてはならないだろう。

 第二の重要な理由は、データセンターにおける空調容量の限界が問題となっているケースが増えているということだ。ブレードサーバなどの高密度実装型のサーバ基盤は設置スペースという点では有利だが、熱密度という点では不利だ。結果的に、空調容量の問題により、十分なサーバが設置できないというケースが増えている。このような企業にとっては、「グリーンIT」はより切迫した課題となっている。

 いま現在は大丈夫という企業でも、短期的に処理容量の要求が一気に増大し、サーバ購買の予算はあるのだが、データセンターの空調が足りないがために、要求に応えられないというリスクがないとはいえないところが多いだろう。電力消費量の削減は、機器の発熱量を削減し、空調容量の要求を削減することに直接的につながる。

グリーンITには仮想化やサーバ統合が有効

 最後の理由は、電力効率を最適化したシステムは、そのほかの面でも効率性が高いことが多いということだ。詳しくは今後の記事で書いていきたいが、電力効率性を向上するためには消費電力が小さい部品(典型的にはCPU)を使用することも重要ではあるが、より効果的な戦略はハードウェアをできるだけ集約し、利用率を向上することにある。

 すなわち、仮想化やサーバ統合が、ITのグリーン化(地球温暖化抑止)に大きく貢献するのである。

 そして、このように集約された基盤は、利用率向上によるハードウェアコストの削減、運用管理負荷の削減、サービスレベルの向上といった点でも有利だ。「サーバ統合がメリットをもたらすことは分かっているのだが、なかなか踏み切れない」という企業にとっては、グリーンITが最後の一押しになる可能性もあるだろう。

 上記の理由により、グリーンITには単なる「お題目」以上の実利的メリットがあることがお分かりいただけたと思う。

 次回からは、より具体的なグリーンIT実現の方策について書いていく予定だ。

【関連用語】
▼グリーンIT(情報マネジメント用語事典)
▼グリーンコンピューティング(情報マネジメント用語事典)
▼仮想化(情報マネジメント用語事典)

Profile

栗原 潔(くりはら きよし)

株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職。ITと知財に関するコンサルティングと弁理士業務を並行して行う。専門分野は、ITインフラストラクチャ全般、ソフトウェア特許、データ・マネジメントなど。

東京大学工学部卒、米MIT計算機科学科修士課程修了。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ