ITリーダーはデータ活用の新たな可能性を模索せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(3)(1/3 ページ)

Hadoopをはじめとするデータ並列分散処理技術や、インメモリデータベース技術の実用化を受けて、今、BI分野の話題が活性化している。ただ、企業にとっては新しいテクノロジをどう収益に結び付けていくかが大きな課題。そこで今回は、昨今注目されている新しいデータ活用の概念「ビッグデータ」をキーワードに、これからのデータ活用の在り方を掘り下げていく。

» 2011年08月24日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

今、最も技術革新が進んでいる分野、BI

 ここ数年、注目を集め続けてきた分野といえば、やはりBI(ビジネス・インテリジェンス)やDWH(データウェアハウス)であろう。ガートナーではそれ以前から「企業における重点的なIT投資分野」としてBIを挙げていたが、近年、その予測を裏付けるようにBIベンダの合従連衡が急速に進み、ユーザー企業の導入事例もかなり増えている。

 同時にこの分野は、いま、技術革新が最も進んでいる分野でもある。特にHadoopをはじめとするデータ並列分散処理技術や、インメモリデータベース技術が実用化されてきたことで、「ビッグデータ」という新たなデータ活用の考え方も、メディアなどで取り上げられるようになってきた。

 今回はガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏と、@IT担当編集長 三木泉が、以上のような最新のトレンドも含め、企業におけるデータ活用の在り方を掘り下げる。

データ活用の成功体験が、企業におけるBIの位置付けを変える

三木 昨今、大量データを分析して経営に生かそうといった概念「ビッグデータ」をはじめBI分野の話題が活性化しています。ただ、そうした最新のトレンドについてお伺いする前に、まずはこれまでのBIの経緯について復習しておきたいと思います。そもそも日本ではこれまで、BIのソリューションはどのような目的により、どのような形で導入されてきたのでしょうか。

堀内氏 これまで各BIベンダからは、BIツールの高度な活用方法がさまざまに提案されてきました。しかしユーザー企業においては、一貫して「過去の実績を確認するための手段」としてBIが導入されてきました。昔で言うところの「帳票」を新しいツールに置き換えたようなイメージです。

堀内秀明氏
ガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ マネージング バイス プレジデント

三木 かつてもてはやされたEUC(End User Computing)によって「経営データを集計して、経営戦略の策定に役立てる」という考え方とほとんど変わらないわけですね。

堀内氏 はい。ただEUCでは、基幹系データベースからデータを切り出してきて、PC上でMicrosoft Office ExcelやMicrosoft Accessを使って分析を行うわけですが、全社レベルで見た場合には、それではデータの整合性に問題が出てきます。そこで分析対象データをDWHやデータマートに集約して、サーバアプリケーションで一元的に処理するBIツールへと発展してきたのです。ただし、BIツールはEUCほどエンドユーザーにとっての自由度はありませんから、その点に不満を持つ現場ユーザーは少なくないようです。

三木 ということは、各部門が独自にデータを保持して、現場が柔軟に集計や分析を行えるようなBIソリューションが日本企業には適しているということでしょうか?

堀内氏 そうした形の方が、現場では受け入れられやすいのは確かだと思います。実際、IT部門では運用管理やセキュリティ、機能の豊富さといった観点から、本格的なBIスイート製品を歓迎しがちですが、その一方で、部門レベルでは手軽に使える軽量なBIツールが注目を集めているんです。例えば、最近導入例が増えているインメモリ型のBIツール「QlikView」などはその一例です。

三木泉
アイティメディア @IT担当編集長

三木 ちなみに、BIの導入で日本より先行していると言われている欧米企業の状況は、いかがでしょうか?

堀内氏 私が見聞きする範囲では、日本の状況と大差ないという印象が強いですね。ただ強いて言えば、利用形態が若干異なります。日本企業では営業の担当者やマネージャが営業実績データを分析するためにBIツールを活用するケースが多いのに対して、欧米企業では経営層が財務KPIを基に、現場の状況をより早く、正確に知るために活用しているケースが多いようです。ただし、この違いが日本と欧米の企業文化の相違から生じているものなのか、あるいは、日本企業でのBIの活用が遅れている表れなのかは、冷静に評価する必要があると思います。

三木 なるほど。ただ、やはり日本において、BIは経営戦略に直結する「攻め」の用途より、「事後的な報告や確認」といった用途で使われることの方が多かった、とは言えるでしょうね。

堀内氏 もっと言えば、企業のIT部門において、BIがあまり前向きに受け止められてこなかったのではないかと思います。本来、BIのゴールは、実績データを集計して予実を分析することで、「経営リソースの最適な配置を行い、適切なアクションを起こすこと」にあります。

 しかしIT部門はどうしても、データの可視化やリポーティングツールの提供さえ実現すれば、それで「お役ご免」だと考えがちです。従って、IT部門がBIの本来の目的を明確に意識すれば、日本企業におけるBIの位置付けも大きく変わってくるのではないかと思いますね。

三木 そうした変化は、いったいどんなことをきっかけに起きるものだとお考えですか。

堀内氏 データを活用することで「こんなことが起きた」「こんなことが変わった」という成功体験が、変化への大きなきっかけになると思います。ただそのためには、まず初めにCIOなりIT部門なりが「やってみましょう!」と声を挙げる必要があります。あるいは、すでに現場レベルでそういう声が挙がっているとしたら、IT部門が積極的に現場に入ってそれらを吸い上げていくべきでしょうね。

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