日本のITは面白い仕事なのか日本のIT再検証(1)

国内の企業や組織におけるIT利用は、うまくいっているとはいい難い。これを他人事のように思っていないだろうか? 日本のITを再検証する連載コラムの第1回として、企業や組織における情報システム担当者に問題を提起する。

» 2007年11月29日 12時00分 公開
[角田 好志,@IT]

 いま、日本でIT業界において企業や組織の情報システムを担っている人たちは、現在の仕事が面白いと思っているのだろうか? 以前からやっていた情報システムの構築や保守を、会社が存続または拡大していくために、あまり仕事の楽しさなどを考えることなく漫然と推進しているだけではないだろうか?

 ここ数年、それまでの経済停滞で抑えられてきた情報化投資が復活し、郵貯オンラインをはじめとする大規模開発案件もあり、情報システム開発の仕事は多い。ただし、情報システムが企業の基盤となってしまった現在では、安定稼働が最優先で最新技術へのトライなどまったく眼中になく、数年前の不景気のころに叫ばれていた「情報化投資削減」のための廉価なシステムへの移行チャレンジなども影をひそめてしまった。

 このような状態から、ここ2?3年の日本におけるITは「進化なき拡大の時代」に入ったと言える。

 もちろん、日々の小さな改善が進んでいることは間違いないが、いまや新しい技術に心躍らせるものはほとんどなくなってきている。日本の情報システム部門向けでは最大の情報誌である日経コンピュータの最近の特集タイトルを見ていると、契約だとか障害と復旧だとか、はたまた無理やり作ったような3文字略語などが目立ち、技術革新のテーマが完全に枯渇しているようだ。 たしかに米国においても企業向けIT技術の進歩は以前ほどダイナミックなものでなくなってきた。しかし、コンピュータ・サイエンスとしての基礎や人材の維持はそれなりに進展しているように思う。

 そのような環境のもと、日本のITはダーティジョブ化しているのである。

 新技術やエンドユーザーと共に挑戦するといったような、夢や目標がなくなり、ただ漠然と日々のルーチンワークをこなしている。しかも、そこには十分にコミュニケーションができないエンドユーザーがいて、うまく稼働して当たり前、少しでも障害が発生すれば責任を負わされることになる。ミッションクリティカルなシステムにおいては、24時間正常稼働のための臨戦体制を要求され、時としては夜中に電話がかかってくる。

 こんな環境で、技術追求指向が高く、論理思考になれた若いエンジニアたちにモチベーションを維持していけという方が無理である。

 2007年問題が何年も前から叫ばれ、いよいよその2007年も終わろうとしている。団塊世代のエンジニアの定年退職が相次ぐ一方、IT系の専門学校を希望する生徒が急減している。さらに飛行機や電車、銀行など社会のインフラとなっている大規模システムの障害が社会生活に大きく影響を与えはじめている。こうした状況に陥っているいま、われわれのようにIT業界に長い間いた人間たちは何をしていくべきなのか。「日本のIT」を再検証してみることとしたい。

ITを「面白く」しなければならない

 「日本のITを面白くすること」が一番重要なことである。

 最大の課題は、ユーザー企業のスタンスだろう。

 CIO(情報担当役員)をはじめ、情報システム部門の人たちは、自社の情報システムでもっとチャレンジすべきである。

 ちょっとパソコンがいじれてIT雑誌からの知識が豊富だからといって専門家ぶるのではなく、それらの知識をぜひ自社のシステムで実践してみてほしい。もちろん、その専門分野に詳しいベンチャー企業と連携し、一緒に苦しみ新たな仕組みにチャレンジしてほしい。

 大きいメーカーやベンダーは、所詮自社製品を持っているわけだから、彼らのいうことはニュートラルではない。

 情報システムの構築というのは、ユーザー企業が本業で稼いだ貴重な資金を投資して行うものである。ユーザー企業として、いまや企業基盤となった情報システムの方向をどのように位置付けていくのかを、自社で責任をもって考えるべき時である。そのためにCIOがいるのである。大手メーカーやベンダに丸投げして、安定的に動かすだけが、CIOや情報システム部門のミッションではない。

 この本業で稼いだ貴重な資金を、いかに大切に有効に使うかを、真剣に考える必要がある。

 30数年前に、コンピュータのビジネス活用が始まったころには、コンピュータ・メーカーやベンダーにもコンピュータの専門家は少なかった。ユーザー企業の人たちがコンピュータを勉強して自社の情報システムを作ってきたのである。

 Webや雑誌に書かれた情報の知識だけではなく、どうすれば自社の情報システムで活用できるかの仮説を立て、その仮説を実証していくためのパートナーを選定し挑戦してもらいたい。

 こうしたユーザー企業の挑戦が幾つもでてくると、日本のITをダーティジョブから救う第一歩になるような気がする。

 本連載コラムでは、日本のSE、情報システム部門、業界のゼネコン構造化、教育現場、地域間格差などを取り上げ、問題を提起していく予定だ。

著者紹介

▼著者名 角田 好志(かくた こおし)

オープンソース・ジャパン代表取締役社長 兼 PCIホールディングス取締役。

三井銀行(現三井住友銀行)にてシステム開発部や国際部などに在籍。三井銀ソフトウェアサービス(現さくら情報システム)出向時代に、黎明期のPC LAN事業やAI事業などを立ち上げ。その後、さくら銀行(現三井住友銀行)と昭和電線電纜(現昭和電線ホールディングス)、ワールドビジネスセンターとの合弁会社であるネットワークSI企業アクシオを設立し、常務取締役に就任。1997年、大塚商会の支援を受けJavaとLinuxのSI企業テンアートニ(現サイオステクノロジー)を設立し代表取締役社長に。2002年1月より代表取締役会長。2002年12月、ゼンド・オープンソースシステムズを設立し代表取締役社長に就任。2004年9月、ゼンド・オープンソースシステムズはオープンソース・ジャパンに社名変更。その後2007年7月にオープンソース・ジャパンはPCIホールディングス・グループに入り、同ホールディングス取締役を兼務して現在に至る。

著作としては、「ITマネジメントの常識を疑え!」(日経BP社)、共著として「入門NetWare」「入門NetWare 386」(ソフトバンク)がある。


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