多様化と市場縮小がSI企業を襲う日本のIT再検証(4)

企業の情報システム市場は近年、多様化が進む一方、市場規模の縮小の大きな波が押し寄せてきている。この閉塞状況を打破するには、統合型SI企業から専門型SI企業へのシフトが必要だ。

» 2008年03月27日 12時00分 公開
[角田 好志,@IT]

 これからのIT産業においては、多様化と市場規模縮小が進展していくと考えている。前回までは、ユーザー企業の責任と対応について説明してきたが、今回はSIベンダの今後の方向性を検討してみたい。

 まず「多様化」について考えてみる。現在では、一言で「情報システム」と表現できないくらいの多様なシステムが存在している。かつてはビジネス関係でのシステムを「基幹系」と「情報系」に分類し、それぞれのシステムの特性に合わせて管理していくのが、情報システム部門の役割であり、それを提供するSIベンダの役割でもあった。「基幹系」とはトランザクションを中心とした処理であり、「情報系」はヒストリカルなデータ分析を中心としたものである。

 最近では基幹も含むWeb化、周辺機器へのCPUやデータベースの組み込み、データのAI(人工知能)的アプローチの一般化などなど、一概に「基幹系」と「情報系」とはいえない状況になっている。

 さらにIT技術を本業のビジネスに取り入れ、従来の事務の省力化や合理化ではなく、事業の拡大につなぐ仕組みや、そのシステム自体をその企業の事業そのものとするケースも増加してきている。

 このように多様化してくると、SIベンダ側も単純に基幹系が得意とか、情報系の人材は多いなどといっていられない状況となり、システム全体をコーディネートしていくのは難しくなってくる。この環境の変化で、ユーザーは安心のために大手SIベンダに仕事を集中させることになり、従来から問題であったゼネコン構造をさらに浸透させ、中堅・中小のSIベンダの下請け体質を深刻化させていった。

 ところが、元請けとなっている大手SIベンダも、急速に進展する多様化の波には十分に追従できておらず、特に基幹系をベースとした多様化の流れには、ユーザー企業の情報システム部門も含めて開発トラブルの発生などを解決できていないのが現状である。

情報システム市場は縮小していく

 さらに大きな問題として、情報システム市場規模が飽和状態になってきている。

 今後は、メガバンクも次期システムに数百億円を投じるようなばかなことはしないだろうし、中堅中小企業も多大な費用を掛けて従来のような「基幹系」システムを作ることはないだろう。

 これからは市場縮小の時代なのだ。

 大手SIベンダが入居している立派なビルの家賃などを含む販管費は、莫大な間接費用と化しており、日本のユーザー企業の現在の情報システム開発および維持費用では支えることはできなくなるだろう。それだけの負担を強いれば日本企業の本業での国際競争力低下につながってしまう。大手SIベンダは淘汰(とうた)の時代へと入っていくと考える。

 私が日本のIT業界について、6?7年前から、いろいろなところで講演したり執筆したりしているなかに、以下のような問題提起がある。

 「米国にはメインフレームを持つ総合コンピュータ・ベンダはIBMだけになってしまったのに、日本にはIBMのほかに3社も現存している」

 そして、これらの問題はいまだに解消していないばかりか、大手SIベンダが複数社存在しているなかで、ハードウェアベンダも大規模SI案件にビジネスのシフトを進めた結果、経済成長が停滞している日本では供給過剰の状況となってきているのである。

システム・インテグレーションは専門分業型へ

 これらの環境変化に対して、いかに対応していくのか? 安い費用でシステム構築を実現することしか生き残りの道はないだろう。だからオフショアという意見が多いのだろうが、大規模システムをどのように分業化するかの仕組みがまだ確立されていない。

 市場が小さくなった時のプレーヤーは身軽である必要がある。統合型SI企業から専門型SI企業へのシフトが、最も有効な対策だと思う。大手SIベンダは間接費用の削減を迫られ、事業遂行メリットを維持していくのが難しくなるのではないか。そこで得意の専門分野を持ったベンチャーや中小SI企業が優位になるように思う。

 ただ、ユーザー企業とこれら専門SI企業の間をコーディネートする役割は必要であり、身軽になった大手SIベンダがブランドを使ってこの役割につくのが自然だろう。

 従来の下請け階層型受注からコーディネート/専門分業型受注への変化の推進こそが、今後の日本のIT業界にとって重要な改革なのではないだろうか。

著者紹介

▼著者名 角田 好志(かくた こおし)

オープンソース・ジャパン代表取締役社長 兼 PCIホールディングス取締役。

三井銀行(現三井住友銀行)にてシステム開発部や国際部などに在籍。三井銀ソフトウェアサービス(現さくら情報システム)出向時代に、黎明期のPC LAN事業やAI事業などを立ち上げ。その後、さくら銀行(現三井住友銀行)と昭和電線電纜(現昭和電線ホールディングス)、ワールドビジネスセンターとの合弁会社であるネットワークSI企業アクシオを設立し、常務取締役に就任。1997年、大塚商会の支援を受けJavaとLinuxのSI企業テンアートニ(現サイオステクノロジー)を設立し代表取締役社長に。2002年1月より代表取締役会長。2002年12月、ゼンド・オープンソースシステムズを設立し代表取締役社長に就任。2004年9月、ゼンド・オープンソースシステムズはオープンソース・ジャパンに社名変更。その後2007年7月にオープンソース・ジャパンはPCIホールディングス・グループに入り、同ホールディングス取締役を兼務して現在に至る。

著作としては、「ITマネジメントの常識を疑え!」(日経BP社)、共著として「入門NetWare」「入門NetWare 386」(ソフトバンク)がある。


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