経団連の提言から情報化人材育成を考える〜経団連が語る「情報化人材育成強化」の提言は現実的か?ユーザー企業から見た「ITSS」(5)(1/3 ページ)

本連載では、これまでITスキル標準の概要を説明してきたが、今回は番外編として、2005年6月に経団連が行った提言を取り上げ、本当に現実的で意味のある情報化人材育成を考えてみる。

» 2006年04月14日 12時00分 公開
[島本 栄光,@IT]

 昨年(2005年)6月に、社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連)が、「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」という、提言を発表しています。

◆経団連提言:『産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて』

 ITスキル標準とは、直接的なつながりはないのですが、産学官共同での「情報化人材育成」の共同成果という意味で話題に上ることも多く、今後無関係というわけにはいかないでしょう。

 ただし、この提言の中身について表層的にしかとらえていなかったり、あるいは、そもそもこの提言自体をきちんと読まずに、「経団連がこのような提言を出した」という事実しか認識していなかったりで、せっかくの提言が正しく理解されていないように感じています。また、私がそれ以上に懸念しているのが、この提言の中身自体にもいろいろ誤解を生む要素があって、その点を注意して読まなければ、大きく判断を誤ってしまいかねないと感じているのです。

 今回は、この経団連の提言を取り上げ、本当に現実的で意味のある情報化人材育成を考えてみたいと思います。

 以下では、まず、この提言でいわれていることを簡単に要約し、その後で、この提言の中身における懸念点を指摘します。そのうえで、では今後どのように対処していけばよいかについて解説できればと考えています。

提言の構成と要約

 提言の構成は以下のとおりです。

  1. はじめに
  2. 情報サービス産業と人材育成の現状
  3. 企業が新卒者に求める理想と現実のギャップ
  4. 求められる高度情報通信人材の姿と産学官連携による育成
  5. 大学・大学院における高度情報化人材育成に向けたアクションプラン
  6. おわりに

1.はじめに

 国家レベルの政策として、ITの利活用の推進を通じ、国民生活の質の向上や産業競争力を強化していくために、高度情報化人材の育成が求められていることが前提とされています。

 さらに、情報サービス産業が、わが国全体の国際競争力に大きな影響力を及ぼしており、情報サービス産業が人的資源に大きく依存している以上、そこにいる人材の育成が大きな鍵を握っているとしています。これを受けて、この提言においては、主に「ソフトウェアの開発・利用に携わる産業」を中心に、産業界からの人材育成の見解という形で取りまとめたと、全体の流れを説明しています。

2.情報サービス産業と人材育成の現状

 「ソフトウェア開発に携わる情報サービス産業」は、市場規模としては10兆円、雇用も30万人と、かなり大きな規模の市場に成長しています。ところが、日本のソフトウェア開発ビジネスの国際競争力は極めて低く、大幅な輸入超過という事実があります。

 そこで、国際市場に通用する競争力を身に付けなければならないというのが、ここでの主張です。米国や中国、インド、韓国といったアジアの各国の施策を紹介し、翻って日本では、高度情報化人材育成の国家戦略がこれまでいかに欠如していたか、また、大学・大学院や企業など、国全体で一貫性を持たせた育成のための体制や取り組みがないことを指摘しています。

3.企業が新卒者に求める理想と現実のギャップ

 ここでは、もう一歩踏み込んで、大学・大学院教育と企業ニーズとのギャップの現実を指摘しています。一言でいえば、即戦力を求める企業と、現実に即戦力を養成できない大学・大学院教育という構図が、そのギャップの原因ということです。

 その結果として、企業は新卒者のスキルに期待することはせず、入社後の研修で自社にマッチした人材を育て、即戦力が必要な場合には中途入社や外国人技術者の採用に向かっています。ただし、企業内での研修による人材育成は時間とコストの掛かるもので、徐々に対応し切れないことが問題になりつつある状況も指摘しています。

4.求められる高度情報通信人材の姿と産学官連携による育成

 結論から先にいうと、前章で指摘した問題を断ち切るためには、大学・大学院教育と企業の連携・協力の強化が必須であるということです。大学・大学院側では、実践的な教育機能を充実させ、また企業の求める人材がどういうものなのかを常に意識するということが重要なのです。

 提言の中でも、大学・大学院教育に求める具体的なスキル・知識も例を挙げて示すとともに、高度専門教育を実施できる拠点の立ち上げも求めています。一方で企業も、大学側と積極的に対話し、連携する姿勢を見せていかなければならないと指摘しています。

5.大学・大学院における高度情報化人材育成に向けたアクションプラン

 前章の指摘に対するアクションプランとなっています。

ステップ1:産学官の対話に基づく先進的実践教育拠点の整備

ステップ2:先進的実践教育拠点における取り組み

ステップ3:評価とフィードバック

 以上3つのステップで、企業/大学/政府それぞれの役割を説明しています。

6.おわりに

 今回の提言を基に、経団連としても、産学官連携による取り組みを進めていきたいという決意を表明し、締めくくられています。

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