もう1度、ITガバナンスの基本をおさらいしてみようITガバナンスの正体(6)(1/3 ページ)

本稿は、ITガバナンスを各企業で確立していくために、ITマネージャが「考える・分かる・応える・使える・変わる・変える」ことを目指した連載です。これまで5回にわたって「IT戦略」「IT組織力」「活用・展開力」「IT運営力」を紹介してきましたが、前回から大分時間がたったこともあり、ここで一休みして、もう1度「ITガバナンスの何たるか?」をおさらいしたいと思います。

» 2006年02月16日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]

ショートストーリー 山の手精工株式会社物語

<前回までのあらすじ>社員2000人の製造業「山の手精工株式会社」では、上野社長の指揮の下、CIOの神田取締役と情報システム部門長・池袋マネージャがITガバナンスの確立に取り組んでいる。役員との議論や理解活動に奔走している池袋マネージャは、仕事に追われ、先日まで日参していた神田取締役の部屋へすっかり足が遠のいていた。心配した神田取締役は、逆に池袋マネージャのところへやって来た――。

神田取締役:最近どうしてたんだ? 何か問題が発生したのかね? 先日のメールシステムのダウンは解決したんだろう? 大事に至らなくて良かったな。でも、何名か外部の方と一緒に徹夜作業したらしいね。ほかのシステムは大丈夫なのかね?


池袋マネージャ: (宿題がまだできていないから、行こうにも行けなかったのだが……)すみません。目先の問題解決に手いっぱいになってしまっていて、なかなか相談に行けませんでした。ほかのシステムも含め、リスクを整理しているところです。業務部門からの不平不満も整理できていません。開発や人事からの要望も強いですが、特に営業からの不満が……。


神田取締役:確かに、営業に導入したSFAは相変わらずあまり使われていないようだな。パッケージの導入は、いつもながら難しい。パッケージに業務を合わせるなどといっても、よほど現場の声に注意しながら進めないと使ってもらえないものだ。それは営業に限らない。
どうだ、みんなの気分転換のためにも、ランチオンでみんなのいろんな話を聞いて、私の話でもしてみるか。



神田取締役の経歴の片りんと度量の大きさを垣間見て、池袋マネージャは神田取締役の部屋にこの10日間足が向かなかったことを悔やんだ。

神田取締役が部屋に戻ってから、早速池袋マネージャはシステム部門のみんなにランチオンを打診してみた……。


秋葉原さん(運用担当):なるほどぉ。いいですねぇ。なかなかこんな機会ないものなぁ。もっと気さくに話に行ったりしていいのかな。人事の新橋課長から相談されたIT研修のことも聞きたいな。ひとまず方向性は決めたけど……。


大崎さん(企画・業務部門サポート担当): そうね。これまでもいろいろお聞きしたけど、こちらから相談する機会はあまりなかったものね。SFAのことどうしたらいいのか、営業の日暮里さんと一緒に悩んでるんだ。あまりにも使われないので、仕切り直した方がいいのかもしれない……。


巣鴨リーダー(課長職): 相談すると解決に向けたアドバイスをちゃんとしてくれる人と、相談しているのに仕事が増える人がいるよね。神田取締役はどちらだろう。開発の代々木課長は、課題が出てこないことが課題だ、みたいなこといってたけど、そんなことも聞いてみていいのかなぁ。


池袋マネージャ:(なるほどぉ、でも)おいおい、欲張るなよ。ちゃんと自分たちの考えを整理しておいてくれよ。何でもかんでも聞いてもらえる時間はないぞ。(神田取締役とのランチオンはうまくいきそうだ。少しみんなの目線が変わってくれると良いが……)。



ITと経営、そして「ITガバナンス」

 この1年で、個人情報漏えい対策や基幹システムダウンによる企業の社会的責任日本版SOX法への対応といった情報システムにかかわるコンプライアンス系の話題が巷間で取りざたされる量は、2年前の数倍に増加した。ここに来て、ITガバナンスの重要性、あるいは実効性が認識されるようになってきたといえるだろう。

 「ITガバナンス」の5領域の4番目「運営力」のうち、戦略投資の考え方/策定方法とモニタリング方法を解説する前に、これまでの復習を兼ねて、ITガバナンスの意味を再確認しておきたい。

 「ガバナンス」というと「支配する」といった、しかつめらしい言葉や、大上段に振りかざした言葉に見えるが、言い換えると、「内容(中身)を熟知し、どこに手を入れるとどうなるかが分かっていること」となる。

 翻って、「ITガバナンス」とは、「情報システムにかかわるすべての要素=人(の意識)・制度・業務と、情報システムそのものの整合性を確保し、求めるビジネスの姿を追及する活動」ととらえてよい。要は、情報や情報システムの視点から、経営(ビジネス)における費用対効果・品質を高めていく活動と思ってよい。

 この意味で、これまで「情報システムの導入」(図の「1」の矢印方向)にきゅうきゅうとしてきた企業や情報システム部門はITガバナンス(図の「2」の矢印方向)に覚醒してほしい。

図 「ITガバナンス力」と「情報システム力」

 「2」の矢印方向の施策をおざなりにしている企業や情報システム部門は、経営トップ層や利活用部門からの不満の声にさらされているはずだ。上出したように、「ITガバナンス」では、全体整合性を重要視している。情報システムだけを構築してはダメで、人(の意識)・制度・業務にも目を配りながら、どのようにすれば経営に貢献できる仕組みの利活用、そしてその先の「効果を生み出すことができるのか?」まで、ITマネージャは考えられるようになりたい。

 情報や情報システムの視点から、全社のほぼすべての人・制度・業務を網羅しなくては、ITマネージャ、情報システム部門における全体整合性を考えながらの活動は遂行できない。そう考えると、ITマネージャや情報システム部門のメンバーは、まさに経営の根幹を握っているといっても過言ではない。そのような責任ある部署にいるという使命感とともに、日々の業務の中に経営に携わっているという楽しみを見いだしてほしい。「やらされ感」があるのでは、「ITガバナンス」どころか、情報システム導入や日々の保守運用もうまくいくはずもない。

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▼連載:ITガバナンスの正体(1)ITマネージャの叫び「なぜIT化は失敗するのか」(@IT情報マネジメント)


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