最先端コンサル企業を率いる漆原氏の場合挑戦者たちの履歴書(1)

編集部から:「あの人はどのような経緯で現在の地位にいるのだろう?」。そんな素朴な疑問を持ったことはないでしょうか? 例えば、同じベンチャー企業の創業社長であっても、苦労に苦労を重ねて会社を大きくした人物もいれば、奇抜なアイデアを武器に、大企業へ急成長させた人物もいます。両者にはどのような違いや共通点があるのでしょうか? 本連載では業界のキーマンを取り上げ、その生い立ちから現在までの生き様や信条を聞くことで、ある種の共通点やうんちくを引き出すことを目指して掲載していきます。各回は短く小説風に構成していますので、仕事の合間にでも気軽に読んでいただければ幸いです。

» 2010年05月12日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「IT業界で働いている」=「まじめでお堅い技術者」「コンピュータオタク」

 かつてはそんな色眼鏡でIT業界を見る人も少なくなかったが、それはもう大昔の話だ。いまや経済全体をけん引する一大産業となり、それでもなお新たなイノベーションが生まれ続けているIT業界。そこには、大志を抱き自らの才能に賭ける技術者や、新たなビジネスチャンスを追い求め続ける野心的なビジネスマンなど、魅力的なプレーヤーが数多く存在する 。

 本連載ではこうした、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られた「人と生(な)り」を数回に分けて紹介していく。その人物の生き様や信条を通して、今後のIT業界人、あるいは社会人として生きていくうえでの指針を学ぶもよし。あるいは、仕事のちょっとした息抜きとして読むもよし。読者各人、自由な楽しみ方を見付けてお付き合いいただければ幸いである。

 まず1人目に取り上げるのは、現在ウルシステムズ株式会社の代表取締役社長を務める漆原茂氏である。

 ソフトウェア開発に携わる方であれば、「ウルシステムズ」という一風変わった社名を一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。筆者が同社の名前を初めて聞いたのは、恐らく2001年ごろではなかったかと記憶している。その当時、某ソフトウェアベンダでエンジニアとして働いていた筆者は、オブジェクト指向モデリング技術についてリサーチする任に当たっていた際、同社のことを初めて知った。当時、日本ではまだ目新しかったUMLをいち早く取り入れている、数少ない企業の中の1社だったのだ。

ALT ウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂氏

 ちょうどネットバブルが弾けたばかりの当時、ソフトウェア業界全体が停滞ムードに落ち込む中、同社はJavaによる基幹業務システムの開発業務を軸に、着実に業績を重ねていった。個人的には「コアなエンジニア集団」というイメージを抱いていたのだが、近年ではいつの間にかコンサルティング企業として知られるようになっている。

 ただのSIerではない。かといって、流行に浮かれたネットベンチャーというわけでもない。

 最先端の技術を積極的に取り入れるコアなエンジニア集団であると同時に、しっかりと地に足が着いた業務システムのプロ集団。そんな独自路線をひた走る同社を率いているのが、創業者であり代表取締役社長の漆原氏だ。かねてから、同氏が一体どんな人物なのか、大変興味があった。

 今回、本稿の取材のためにウルシステムズのオフィスを訪れ、同氏に直接お会いする機会に恵まれた。お会いする前、同社に対して抱いていたイメージから「押しが強くて、エッジの立った人物」という漆原氏のイメージを勝手に思い描いていたのだが、実際に顔を合わせると、のっけからはぐらかされることになった。

 「いやあ、どうも! このたびはお声掛けいただきありがとうございます!」

 とにかく快活な人物、というのが第一印象だ。

 声のトーンは明るく、そしてよく響く。見た目も実に若く見える。体の線は少し細いが、身のこなしは大きく、キビキビしている。年齢は40代半ばのはずだが、どう見ても30代にしか見えない。実際に会話を交わしてみると、実にユーモアのセンスに優れ、サービス精神旺盛な人物であることもすぐ見て取れた。IT業界において自他ともに認めるキーマンであるにもかかわらず、むしろこちらに気を遣いながら話す態度に、何となく恐縮してしまう。

 しかし、実際にインタビューを開始すると、「明るい」や「快活」だけではない一面もすぐに見て取れた。とにかく、頭の回転が驚くほど速い。こちらが一言二言話すだけで、瞬時に質問の意図をくみ取り、ほぼ同時にその答えを頭の中で組み立てている様子だ。さらに、その内容を論理的に組み立てて話す能力、そして筆者の乏しい理解能力を瞬時に察知し、そのレベルに合わせて平易に説明する言語能力。やはりさすが、である。

 さて、こうした漆原氏のキャラクターは、ど のようにして形成されてきたのであろうか? 早速、同氏の生い立ちについて聞いてみた。

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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