“王者IE”に挑み続けた反骨の母挑戦者たちの履歴書(121)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。今回からは、Mozilla Japanの代表理事を務める瀧田佐登子氏を取り上げる。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年11月07日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「Webブラウザ」と聞いて、真っ先にどんな製品のことを思い浮かべるだろうか? つい最近まで、Webブラウザといえばマイクロソフトの「Internet Explorer」(IE)が圧倒的なシェアを誇っていた。しかしこの状況は、ここ数年間で一変した。Firefoxを筆頭としてOpera、Chromeなどといったブラウザ製品が順調にシェアを伸ばし続け、IEの牙城を脅かしつつある。

 もちろん現在でも、過去のバージョンまで合算したシェアでは、IEが依然トップシェアを誇る。しかし、ここ最近リリースされたバージョンだけに限って言えば、「Firefox 4」のダウンロード数が「IE 9」のそれを上回ったとの調査結果もある(StatCounter調べ)。さらにChromeとOperaもシェアを確実に伸ばし続けており、Firefoxの後を猛追しつつある。

 こうした現在のブラウザ市場の状況を指して、「第2次ブラウザ戦争」と表現する人がいる。それぞれの製品が互いにしのぎを削りながら、少しでも他製品のシェアを奪おうと機能強化にまい進し、次々と新バージョンが市場に投入される。

 これは、群雄割拠のまさに戦国時代である。しかも、IEを追撃する新興勢力の多くは“オープン”と“フリー”を旗印に、コミュニティを中心としたオープンソース開発と、その成果のユーザーへの無償提供をポリシーに掲げている。ブラウザを実際に利用するエンドユーザーにとっては、複数の製品の中から気に入ったものを選ぶことができ、しかもそれらを無償で利用できるわけだから、歓迎すべき状況だと言えよう。

 ところで、先ほどブラウザ市場の現状を「第2次ブラウザ戦争」と表現した。ここで「第2次」とあえて表現しているということは、「第1次ブラウザ戦争」が過去にあったのだろうか? 若い読者はご存じないかもしれないが、IEが現在の地位を築く以前にも、熾烈なブラウザシェア合戦が過去に繰り広げられていたのである。

 古くからインターネットに親しんでいた方であれば、よく覚えていることだろう。1990年代のインターネット黎明期、ブラウザといえば「Netscape Navigator」が主役だったのだ。日本では「ネスケ」の略称で呼ばれたこの製品、1990年代中ごろに起こったインターネットブームの際には、ブラウザ製品のデファクトスタンダードとして市場を席巻した。そしてこれに対して挑戦状を叩き付けたのが、マイクロソフトのIEだったのである。

 “王者”Netscape Navigatorに対する、“挑戦者”IEという構図で繰り広げられたこの第1次ブラウザ戦争は、2000年ごろにはIEの圧勝という形で幕を閉じた。しかし因果なことに、現在繰り広げられている第2次戦争においてIE追撃の急先鋒であるFirefoxは、かつて敗れ去ったNetscape Navigatorの系譜を汲む製品なのだ。従って、現在のシェア合戦はある意味弔い合戦の様相をも呈していると言えよう。

ALT Mozilla Japan 代表理事 瀧田佐登子氏

 そしてこの第1次、第2次戦争を、対IE陣営の中心人物として戦い抜いた日本人がいる。それが、現在Mozilla Japanの代表理事を務める瀧田佐登子氏だ。

 Mozilla Japanは、Firefoxをはじめとする、Mozillaの製品および関連技術の普及啓蒙活動を目的とする非営利団体である。同団体を率いる瀧田氏は、かつてはNetscape Navigatorの開発と日本における普及活動に、そして現在ではFirefoxの普及に尽力している。彼女のことを「ブラウザの母」と呼ぶ人もいる。

 本連載ではこれから数回に渡り、瀧田氏の半生を追っていきたいと思う。1990年代の第1次ブラウザ戦争にいったんは敗れ去りながらも、粘り強くインターネットとオープンソースコミュニティの可能性を信じ、Firefoxのシェアを現状にまで伸ばすに至るまでには、さまざまな苦労があったようだ。またこうした同氏の半生を追うことで、ブラウザの歴史をあらためておさらいすることもできるかもしれない。次回から早速、同氏の生い立ちを辿っていくことにしよう。


 この続きは、11月9日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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