第二次ブラウザ戦争の先にあるものとは挑戦者たちの履歴書(143)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。今回は、瀧田氏のMozilla Foundation立ち上げ後を取り上げる。初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2012年01月23日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 Firefoxは2004年のバージョン1.0のリリース後、順調にシェアを伸ばし続けた。それまで長い間、IEがブラウザのシェアを独占し続けてきた状況に風穴を開けたのである。これに刺激を受けたのが、マイクロソフトだ。Firefoxの後を追うように、セキュリティやWeb標準への準拠を強化したIE7、IE8を順次リリースし、2011年3月には対Firefoxの最終兵器ともいえる強力な製品、IE9を投入している。

 こうした現在のブラウザ市場の状況は、かつて1990年代にNetscape NavigatorとIEの間で繰り広げられたシェア合戦「ブラウザ戦争」になぞらえて、「第二次ブラウザ戦争」と呼ばれる。しかし、現在繰り広げられているブラウザ戦争は、かつてのものと比べて2つの点で大きく異なっている。1つ目は、このシェア合戦に実に多くのプレイヤーが参加している点だ。2011年12月現在、IEのシェアは約52%、Firefoxのシェアは約22%となっているが、残りをChrome、Safari、Operaといった製品が占めており、それぞれ順調にシェアを伸ばしている。

 瀧田氏は、現在繰り広げられているこうしたシェア獲得合戦を、どのようにとらえているのだろうか?

 「Mozillaの活動は企業の営利活動とは違いますから、シェアを伸ばすことが最終目的ではありません。でも、20%ほどのシェアがあると、かつてIE一色だったころには振り向いてもくれなかった人たちが、オープンなWebの世界を目指す私たちの意見を、ちゃんと聞いてくれるようになるんです。ですから、20%というシェアは、できればキープしていきたいと考えています」

 実はもう1点、第二次ブラウザ戦争がかつてのブラウザ戦争と異なる点がある。

 かつて、Netscape NavigatorとIEの間で繰り広げられたシェア合戦は、言い換えればネットスケープとマイクロソフトというベンダが、「互いのプロプライエタリな技術にいかにユーザーを囲い込むか?」という競争でもあった。しかし、現在繰り広げられている競争は、これとはまったく逆のベクトルを向いている。つまり、「いかに、Webの標準規格に準拠するか」を巡る競争が繰り広げられているのだ。

 「ベンダ独自の実装に依存せず、“標準”に準拠することのメリットが、ようやくユーザーや企業の間に浸透してきたように思います。事実、かつてIE6用に構築したWebアプリケーションの扱いをどうするかが、今多くの企業で問題になってきています。IE6の提供元であるマイクロソフトも、IE6がネックとなってWindows OSのバージョンアップが停滞しては困りますから、やはり標準化への取り組みは今後も進めていくはずです」

 ユーザーにとっても、各ベンダの製品が全て標準規格に則ってくれれば、多くの選択肢の中から好きなものを自由に選べるようになるため、ありがたい限りだ。今後も第二次ブラウザ戦争は、Web標準への準拠を軸に各製品間の競争が繰り広げられることになるだろう。

 一方で瀧田氏は、そろそろ「ブラウザの次に来るべきもの」を考えるべき時期ではないかとも言う。

 「私は、そろそろブラウザという言葉はなくなるんじゃないかと思ってるんです。現に今の若い人たちは、インターネットにアクセスすることを『ブラウザを使う』とは言わずに、単に『ネットを使って○○』と言うじゃないですか。将来的には、現在のPCやスマートフォンのようなデバイスを使わなくても、インターネットにアクセスできるような時代が来ると思います。そのとき、もはやブラウザは空気のような存在になっていて、今とはまったく別の姿になっていることでしょう」

 Firefoxも、こうしたWebの発展過程の中で生まれたサンプルの1つに過ぎないと瀧田氏は言う。

 「Firefoxはゴールではなくて、あくまでも『今ある技術でブラウザを作ったら、こんなものができました』という位置付けのものです。従って、これはあくまでも途中経過であって、これからはこれを基に、さらに次の世代のWeb技術が違った形で生まれてくるはずですし、ぜひそうあってほしいと願っています」


 この続きは、1月25日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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