クラウドを日本に広めた第一人者挑戦者たちの履歴書(49)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回まではサイボウズの青野氏を取り上げた。今回からはセールスフォース・ドットコムの宇陀氏を取り上げていく。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年09月06日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「ドットコムブーム」という言葉を覚えているだろうか? 1990年代末から2000年代初めにかけて、Webサービスをはじめとした新しいインターネット技術や、ASP(アプリケーションサービスプロバイダー)などの新しいビジネスモデルの台頭を背景に、「ドットコム企業」と呼ばれる新興企業が次々と設立されて躍進を遂げた。

 このブームの震源地は米国シリコンバレーだったが、日本にも飛び火して「ネットバブル」と呼ばれる一時的な好景気をもたらした。

 「ああ、ネットバブルね。あのころは、わけも分からず景気良かったなあ」。当時IT業界で働いていた方であれば、そう述懐するかもしれない。日本においても楽天やライブドアなど、その後大躍進することになる新興ネット企業がこの時期に設立され、大きな注目を集めた。しかし、2001年ころにネットバブルは崩壊。その後長く続いた不況の影響もあり、ごく一部の成功例を除いては、当時注目を集めた新興ネット企業が今日では姿を消している。

 こうした状況は、本家本元の米国でもほぼ同じだ。ドットコムブームに乗った新興企業の多くは、同ブームが去った後に市場から姿を消している。そんな中、数少ない成功例の1つとして、そして最大の成功例として、今なお成長を続けるのが「セールスフォース・ドットコム」だ。

 いまさら説明の必要もないかもしれないが、同社はCRMを中心としたビジネスアプリケーションをWeb経由のサービスとして提供する、現在のSaaSやクラウドコンピューティングの先駆けとなるビジネスモデルを、いち早く確立した企業だ。

 社名に大胆にも「ドットコム」の一語を配した同社は、1999年に米国サンフランシスコのとあるマンションの一室で産声を上げた。その後ドットコムブームが去り、ASPがSaaSと名を変え、Web 2.0がもてはやされ、そしてやがて忘れ去られても、順調に成長を続けており、2010年7月末時点では全世界で8万2400社、200万人以上のユーザーを抱えるまでに至った。

 さらに同社のビジネスで特徴的なのが、日本で極めて大規模にビジネスを展開し、ワールドワイドにビジネスを展開している同社において、日本市場がかなり大きな存在感を示している点だ。

 中央省庁や地方自治体、大企業でも、大規模に採用されてきている。さらに、多くの中小企業でも採用されており、効果を上げている事例が紹介されている。従来型のITでは、ひとしきり業務のIT化がを完了し、IT市場が飽和状態の日本において、今なおシェアを大きく伸ばし続ける同社は、異例の存在といってもいいだろう。

 特に2007年、旧日本郵政公社における大規模導入事例が発表された際には、驚かれた方も多いのではないだろうか? 「セールスフォース」と聞くと、いまだにこの事例のことを真っ先に思い起こす方も多いかもしれない。何を隠そう筆者も、それまではSaaSというと「何だか怪しいバズワード」という程度にしか思っていなかったのだが、この導入事例の発表を聞き、企業ITの世界に本格的にSaaS時代が到来しつつあることを初めて認識させられた。

ALT セールスフォース・ドットコム 代表取締役社長 宇陀栄次氏

 そんなセールスフォース・ドットコムの日本におけるビジネスをけん引するのが、同社日本法人「株式会社セールスフォース・ドットコム」の代表取締役社長を務める宇陀栄次氏だ。2004年から同社を率いる宇陀氏は、米セールスフォース・ドットコムの上級副社長も兼任している。

 先述したように、日本におけるIT需要は頭打ちの状態が続いている。これまで日本市場で売り上げを伸ばし続けてきた大手外資系ベンダの多くも、近年は苦戦を強いられている。そうした状況を尻目に、独自のビジネスモデルで日本市場での成長を続けるセールスフォース・ドットコム。そのキーマンである宇陀氏は、どのようなビジネス哲学を持っているのだろうか?

 これまで国内ベンチャー企業の経営者を取り上げてきた「挑戦者たちの履歴書」だが、次回からは外資系ベンダの日本法人を率いる宇陀氏が語る自身の遍歴とビジネス哲学を、複数回に分けて紹介していく。読者の方々も同氏の生き方から、逆風の今を生き抜くための何らかのヒントを見いだしていただければ幸いだ。


 この続きは、9月8日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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