六本木ヒルズに住むSaaSの雄挑戦者たちの履歴書(50)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回からはセールスフォース・ドットコムの宇陀氏を取り上げている。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年09月08日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 SaaSビジネスの草分け的存在であると同時に、最大の成功例でもある米セールスフォース・ドットコム。その日本法人である株式会社セールスフォース・ドットコムの代表取締役社長を務める宇陀栄次氏に話を聞くために、同社がオフィスを構える六本木ヒルズを訪れた。

 六本木ヒルズといえば、言うまでもなく日本で最も華やかなスポットの1つである。広大な敷地内には高級ショップや外資系高級ホテル、テレビ局の社屋、高級マンションなどが立ち並び、さながらその一画だけが外国であるかのように感じる。筆者のような田舎者がこのような場所を訪れる機会はめったにないのだが、まれに所用で訪れるだびに、その広さと場違いな雰囲気に圧倒されてしまい、必ずと言ってよいほど迷子になってしまう。取材当日も、敷地の中心近くにそびえ立つオフィスビル(森タワー)にたどり着くまでに、周りを散々徘徊する羽目になってしまった。

 ちなみに六本木ヒルズは、ネットベンチャー企業にとっては成功のアイコンだと見なされているようだ。ネットバブル華やかなりしころには、ライブドアや楽天、Yahoo! JAPAN、USEN、コナミグループといった「勝ち組」企業がこぞって六本木ヒルズにオフィスを構え、「ヒルズ族」という言葉がもてはやされたのも記憶に新しい。2010年8月には、Googleの日本支社も移転した。

 セールスフォース・ドットコムも、その素晴らしい業績を考えれば、六本木ヒルズでこうしたネット企業と軒を並べていたとしても何の不思議もないのだが、筆者はどちらかというと「知る人ぞ知るBtoB企業」というイメージを同社に対して抱いていたため、現実とのギャップに少しだけ不安になる。「こんな華やかなノリに、果たして付いていけるだろうか……」

 森タワーの39階にある同社のオフィスに到着して待つこと数分、広く整然とした会議室に通された。窓からは東京のランドスケープが一望できる。「おー、あれが渋谷駅、あれが恵比寿ガーデンプレイス……」などと、まるで初めて東京タワーに上った小学生のようにはしゃぐ筆者。ひとしきり騒いだところで会議室のドアが開き、宇陀氏が現れた。

 あいさつを済ませ、軽く雑談を交わした後に「では、早速本題に」というのがいつもの取材パターンなのだが……。今回は少しばかり勝手が違った。初対面のこちらを気遣ってくれてか、宇陀氏は次々に話題を提供しては楽しく話を展開する。とても初めてお会いしたとは思えないほどのフランクさで、まるで10年来の付き合いのように率直さに語りかけてくれる。そして、何より同氏の陽気なノリが、その場の雰囲気を一気に明るくする。

 筆者と同行した編集者が宇陀氏とご近所同士ということで、ひとしきり地元ネタで盛り上がった後、いよいよ同氏の遍歴について伺うことにすると……、

 「うーん、自分のプライベートの話となると、出生の秘密とかもありますからね。実はある財閥家の落とし種だったりとか(笑)」

 こう冗談を飛ばして笑う同氏だが、その半面、自らについて語ることに対しては、ある種の遠慮深さを見せる。

 「神様みたいな経営者が、現役を退いた後に人生を振り返るのであれば、今とは違う時代の話も聞けて面白いかもしれないけど、僕は現役だし、それにまだまだ何かを成し遂げたわけではないから。例えば、1兆円ぐらいの売り上げを上げて、社会にも大きく貢献することができたら『よくやったな』と言えるかもしれないけどね。僕なんて本当にまだまだですよ、まだまだ!」


 この続きは、9月10日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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