驚異的な好成績を残す新人営業挑戦者たちの履歴書(58)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、宇陀氏がIBMに入社するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年10月08日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 日本IBMに入社後、野洲工場の人事部門で社会人1、2年目を過ごした宇陀氏。ここで当時の本社人事部門のトップの目に留まり、3年目からは大阪事業所の営業部門で働くことになる。

 宇陀氏の営業への配置替えを決めた人事部門の目に、狂いはなかったようだ。同氏は大阪での営業マン時代、早々にビジネスパースンとしての才覚を表すことになる。

 「配属された課は製造業の営業部隊で、1年目はまだよく分からずやってた部分があったけど、その後は成績自体は良かったですね。一時は、メンバー6人の課の売り上げの半分を、自分1人で上げていたこともありましたから」

 それはまたすごい……。一体どうしたら、そんな数字を上げることができるのか?

 「僕は、ほかの人とは違う発想で営業していたと思う」

 通常、営業の売り上げ目標は、前年度に比べて10%増、前期比で何%増といったような積み上げ型の考え方で決めていく。また、お客さまに何らかの提案をする際も、これまでの実績や提案内容を踏まえたうえで、それに価値を積み重ねていくような考え方が基本になる。しかし宇陀氏は、そうした発想では、いわゆる「木を見て森を見ず」の状況に陥りがちだと指摘する。

 「そういう考え方ではなくて、『そもそも、お客さまにとってベストは何か? 自分たちがターゲットにしている市場は、本来どれだけの規模があるのか』という発想で考えると、手付かずのビジネスチャンスはいくらでも転がっていることが分かるんです」

 このクライアントには今年こういうソリューションを提案して、来年はそれを踏まえてこうして、その次の年は……。通常はこのように、順を追って徐々に積み重ねていくのが正攻法だろう。しかし、宇陀氏はこうした型には決してはまらなかった。

 「徐々に積み上げていく方法も、もちろん正しいのだけど、僕があるお客さまに提案したのは、3つのシステムを最新の最上位機種にいっぺんに統合するというものだった。積み重ねていく発想ではこういう提案はできないけど、でも実際にそうした方が、お客さんにとってはトータルで安く上がるし、IBMの売り上げも上がるんだから、良いに決まってますよね」

 ちなみに、この商談では一気に約40億円を売り上げたという。

 「でも、徹夜で提案資料を作った時にワープロを打ち間違えて、20億円ぐらい安く提示しちゃったんだよね!」

 幸いにして親切なクライアントからの指摘を受けて、ワープロの打ち間違えで20億円の損失は出さずに済んだそうだが……。しかし、別の意味でもこの商談のことは強く印象に残っていると同氏は言う。

 「ある日の夕方にそのお客さんとミーティングをして要望をヒアリングしたので、『分かりました。では、少しだけ時間をください』と言って会社に戻って、早速その晩徹夜して提案書を作った。で翌朝そのまま、無精ヒゲを生やしてその提案を持っていったんだよね」

 そのときの先方の担当者の反応を、宇陀氏は今でも鮮明に覚えているという。

 「最初は、昨日夕方に話したばかりで、なんで翌日の朝にまた来るんだと、不快感があったみたいだけれど、その後、『君は寝ずにこれを作ったのか!』と気付かれて、随分驚かれたんだよね。でも僕はあのとき、決してわざとそういうことをしたんじゃなくて、お客さんがこちらを信頼してくれて、提案に耳を傾けていただいている。じゃあ、それに対しては全力で応えなくてはいけないと、自然に思っただけなんだよね」

 信頼してくれる気持ちに対しては、全力で応えなければいけない。当時も今も、ビジネスへのモチベーションの源泉は、突き詰めるとその1点にあると同氏は言う。

 「IT業界にはいろいろと理屈をこねたがる人が多いけど、結局は“人”が一番大事なんですよ」


 この続きは、10月13日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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