いまでも心に残る“2000年問題と白ワイン”挑戦者たちの履歴書(90)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、ジュニパーネットワークス社長の細井洋一氏がサンでサーバ製品販売を担当するまでを取り上げた。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2011年02月25日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 1997年以降、サン・マイクロシステムズ(以下、サン)の日本法人でサーバビジネスを率いてきた細井氏。その間、サンはサーバ製品の売り上げを急速に伸ばし、企業規模を大きく拡大していったが、細井氏は非常に強く印象に残っていることとして次の2つを挙げる。

 1つ目は「2000年問題」だ。多くの読者の方々も、1999年末から2000年にかけての年越しを、自分が担当するアプリケーションやシステムが無事に年を越せるかどうか、ハラハラしながら過ごしたのではないだろうか? 実は細井氏はこの間、サン日本法人における2000年問題の責任者を務めている。

 「2000年問題の対応というと、通常は技術部門やサポート部門が担当するものなんですけどね。たまたま、奥さんの実家のあるコロンビアに里帰りしていた間に、欠席裁判で勝手に責任者に決められてしまったんです!」

 何とも気の毒な話だが……。しかし、細井氏いわく「どうせやるなら、お祭り騒ぎにしちゃえと思った!」。いかにも同氏らしい、前向きな発想である。各部署からお祭りイベントが好きそうなメンバーを集めて、12月24日から翌年1月3日まで、連日泊り込みで対応した。

 「対応業務自体は本当に大変でしたが、皆で会社に泊まりこんでわいわいとにぎやかにやりました。また、パートナー企業の方々ともこれを機に、より親交を深めることができましたね」

 万全の体制を敷いて対応に当たった甲斐あって、結局大きな問題はほとんど起こることなく、無事2000年を迎えることができた。細井氏ら幹部は、早速祝杯を上げることにした。

 「『そういえば、役員室の冷蔵庫に冷えた白ワインがあったから、それで祝杯を上げよう。細井君、ちょっと持ってきてくれないかな?』。社長がそう言うので、早速取ってきて、皆で乾杯しました。その白ワインが、本当に美味しかったんですよね」

 ところが翌日、会長から役員全員に宛てて、以下のようなメールが届く。

 「私が大事にしていた白ワインを飲んだのは、一体誰なのでしょうか?」

 何と、役員室の冷蔵庫に保管されていた白ワインは、会長が就任祝いで富士ゼロックスの小林陽太郎氏から直々に贈られた、貴重な贈答品だったのだ!

 「確かによく見ると、小林陽太郎さんの名前が入ってたんですよね! あれには焦ったなあ。今でも2000年問題と聞くと、あの白ワインのことを思い出しますね!」

 もう1つ、当時の経験の中で細井氏の印象に強く残っているのが、トラブル対応だという。バイテル・ジャパンでも数々のトラブル対応を経験していた同氏だが、サンほどの企業ともなると、取引先は名うての大企業ばかりだ。当然、トラブル対応もシビアなものとなる。

 「顧客先に謝りに出向いたり、現場の若い技術者や営業マンと対応に奔走しましたが、それと並行して、よりスムーズにトラブルに対処できるようにと、米国本社の製品担当者とのコネクションを築くことに腐心しました」

 当時のサン本社の製品担当者には、名だたるエンジニアが顔をそろえていた。中でも、当時サーバ製品を担当していたデビッド・イェン氏には、随分と助けられたという。ちなみにイェン氏はサンのサーバ製品を設計した人物で、後には同社のマイクロエレクトロニクス部門の執行副社長の座まで登りつめている。

 「彼には、数々のトラブル対応で本当に助けてもらった。ほかにも、本社のいろんなキーパーソンと親交を結ぶことができたし、現場の担当者とも仲を深めることができました。確かにお客さんに怒られるのは辛かったけど、いろいろ貴重な経験ができて楽しかったですね」

 トラブル対応を「楽しかった」と振り返ることができるとは、いかにも前向き志向な細井氏らしい言葉だ。ちなみに、この当時親交を深めたデビッド・イェン氏とは、後に再び運命的な出会いを果たすことになるのだが、そのことは追って後の回で紹介する。


 この続きは、2月28日(月)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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