ERPパッケージの不思議あれこれ情マネ流マーフィーの法則(7)

今回は、ERPパッケージ導入についての法則を紹介する。

» 2008年03月26日 12時00分 公開
[木暮 仁,@IT]

 いまとなってはERPパッケージは過去の話題となった。しかし、大型商品の普及戦略を検討するには、ERPパッケージは適切な題材であり、多くの教訓を残している。古い話で恐縮だが、温故知新でもある。ERPパッケージの初期ブームのころを振り返ってみよう。

情マネ流マーフィーの法則その32

ERPパッケージの普及とともに、キャッチフレーズはトーンダウンする


 ERPパッケージが日本に上陸した当初は、「ERPパッケージはベストプラクティスだ。ERPパッケージに合わせて業務を変えることが、BPR(Business Process Re-engineering)実現への秘訣(ひけつ)である」がキャッチフレーズだった。

 ところが日本には、製番管理や価格事後調整などの慣習がある。それを「グローバル時代だ。日本独自の因習を捨てて、国際標準に合わせよ」とはねつけた。

 しかし、国内メーカーがそれらの機能を持つパッケージを提供し始めると、海外パッケージも一転して「日本企業にマッチした?」をうたい文句にするようになった。さらに、「ベストプラクティス」を調べてみると、自社のコアコンピタンスの分野では、長年かけて改良してきた自社システムの方が優れていることが判明した。すると、いつのまにかキャッチフレーズから「ベストプラクティス」がなくなった。

 「環境変化、競争激化の時代ではスピードが重要だ。ERPパッケージで短期間に稼働できる」とも宣伝した。ところが、実際には自社仕様で開発するよりも時間がかかることが分かり、「スピード」もいわなくなった。

 「縦割り個別システムから全社統合システムへ」についても、後述のように怪しくなった。それで現在では、「多くの言語・通貨が使える」と「海外の減価償却法が組み込まれている」が主要なキャッチフレーズになっている。

情マネ流マーフィーの法則その33

自社では使うな。他社に売れ


 これは初期の話。如才ない企業では、ERPパッケージの機能ではなく、将来の市場を考えた。それで、その市場に進出するための手段としてERPパッケージを導入した。ねずみ講と同じで、早期にこの戦略を採用した企業は成功したが、出遅れた企業は外部進出ができず、仕方なく自社業務に利用することになった。

情マネ流マーフィーの法則その34

小さく産んで小さく育てる


 「縦割りの個別システムでは、全社最適化は図れない。ERPパッケージによって、全分野の統合を図れ」という。それならば、全業務を対象にしてビッグバンを導入するべきだと思う。個別業務を逐次拡大するのでは、既存システムとのインターフェイスシステムが必要になるので不適切である。

 ところが、ベンダは会計分野しか業務を知らないので「小さく産んで」として会計システムに絞って適用した。ところが、会計だけで大変な作業になってしまい、ユーザーは疲れてしまった。ベンダはパッケージを売るという初期の目的は達成したし、他業務への拡大はリスクを伴うことが分かった。それで、いつになっても大きく育てないのである。

情マネ流マーフィーの法則その35

ユーザーニーズを抑え込むには経営者を担ぎ出せ


 ERPパッケージでの成功の秘訣は、アドオンをしないことだという。それでは、実際に業務をしている利用部門は困る。ベンダは、そのような利用部門の口を封じるために、「経営者が中心になって、経営の観点から」ERPパッケージを運営するべきだという手段を編み出した。

 利用部門の趣味的ニーズを抑えることができたならば、現行のシステムも複雑怪奇にならなかったし縦割りシステムにもならなかったのだが、IT部門はあまりにも無力であった。ERPパッケージは、経営者を「オーナー」として引き入れることにより、これを見事に解決したのである。

 もっとも、この工作は長続きしない。経営者が関心を失うと同時に、ユーザーニーズが目を覚ます。そして、気付いてみればアドオンの山になっており、バージョンアップ時に大騒ぎになる。

情マネ流マーフィーの法則その36

昼と夜とでERPパッケージへの評価は逆転する


 講演会では多数の導入企業の担当者がERPパッケージ礼賛論を展開する。ところが、彼らとの酒席では、全員が2度とやりたくないという。

情マネ流マーフィーの法則その37

ある部分に苦労すると、その部分の達成だけが全体の目的になる


 システム構築で苦労しているうちに、ともかく稼働させることが唯一の目標になる。それには、機能を大幅に無視する必要があるし、情報システム以外の対応は無視される。そして、情報システムが稼働したことにより、ERPパッケージ導入プロジェクトが成功したとして、プロジェクトは解散する。もはや、BPRうんぬんを思い出す者は誰もいない。

情マネ流マーフィーの法則その38

アーミーナイフ(注)だけで仕事をするのは難しい


 カスタマイズ(アドオン)をしないことがERPパッケージ成功の秘訣だといわれる。

 しかし、ユーザーニーズは多様であり、それを無視することはできない。ユーザーニーズの多くは、データ入力や情報出力に関するものが多い。それらのすべての機能をERPパッケージに求めるとカスタマイズが増大するのだ。その部分をワークフロー管理システムや情報検索系システム(データウェアハウス)に回し、ERPパッケージは中核の機能だけに絞るべきである。

 ERPパッケージ導入時には、あれもこれもできることを宣伝したがるし、導入後はせっかく導入したのだからといって、なんでもERPパッケージにやらせようとする。その結果、ERPパッケージが複雑になり、バージョンアップで苦労する。

(注)アーミーナイフとは、ヤスリやドライバーなど多様な機能を1つにまとめた多機能ナイフのこと。

情マネ流マーフィーの法則その39

PCソフトがERPパッケージならば、トカゲもミミズも恐竜のうち


 ERPパッケージの価格は年商の1%未満が限度だという。それで、従来は大企業が対象であったが、飽和状態に達したので、中小企業を対象にした低価格のERPパッケージの開発・売り込み競争が激化している。

 ところが、PCの会計ソフトや給与計算ソフトもERPパッケージを名乗っている。それで、アンケートによると、中小企業の大部分がすでにERPパッケージを導入していることになっている。

情マネ流マーフィーの法則その40

セット販売がだめなら、バラ売りをせよ


 すでにERPパッケージは陳腐化した。ERPパッケージでは全機能を統合していることが売り物だったが、今後はいかにERPパッケージ離れをさせるかが戦略になる。それで「統合」をチョン切って、「個別」に提供することを思いついた。それがSOAあるいはSaaSである。

著者紹介

▼著者名 木暮 仁(こぐれ ひとし)

東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している


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