「ノーツ対シェアポイント」の投資対効果を見える化する“見える化”によるグループウェア再生術(4)(1/3 ページ)

情報共有/ナレッジマネジメント系のソリューションは導入効果が見えにくく、ROIを算出しにくい。今回は、そのROIに対する考え方について解説する。

» 2007年03月23日 12時00分 公開
[砂金 信一郎(リアルコム株式会社),@IT]

 情報投資にROIの話はつきものである。特に、われわれが得意としているナレッジマネジメント・プロジェクトは、コスト削減やシステム導入による業務の効率化といった効果が見えにくく、常にROI算出の苦しみと隣り合わせである。

 今回は、厳しい分野で経験を積んできたからこそノウハウを蓄積できたわれわれが、「Notesを今後どうすべきか?」という課題に直面した顧客に対して、どのようなアプローチをご提案しているか、紹介したい。

情報系に対するROIの実際

 いうまでもないが、共通の定義・解釈に基づいた唯一無二のROIなどというものは存在しない。ROIを算出するということは、その算定根拠となるKPIの因果関係を工夫して組み合わせる──大雑把にいってしまえば、ロジックをこねくり回す作業である。ただ、その論理展開の中で押さえておくべきツボ、ないしは一般的なプロセスや流儀を理解しておかないと「なぜそのように考えたのか?」というツッコミに耐えられない貧弱なロジックになってしまうことがある。

 ROIというのはその名の示すとおり、投資に対する効果(利益)だが、実は投資も効果も測定が困難なものである。「投資額は明確に分かるではないか?」という声もあろうが、少し考えれば正しく測定するのは難しいことに気付く。例えば、「向こう3年間のROI」を考えた場合、情報共有のためにエンドユーザーが文書作成や投稿作業に費やした時間や、保守運用のために掛かった工数も、厳密にはコスト項目として考慮すべきである。実際の算出ロジックに組み入れるかどうかは議論の分かれるところだが、イニシャルのハードウェアコスト、ソフトウェアライセンスコスト、導入コストがすべてではないことを理解しておいていただきたい。

 次に効果だが、こちらはさらに難しい。実際の効果が「キャッシュインの増加」あるいは「キャッシュアウトの減少」として、全体の売上や費用から取り出すことができなければ、得られた効果を金額に「換算」するしかない。しかも、生産性向上、コンプライアンス向上、情報漏えい対策強化などの問題は、どこまで達成すれば効果があったとされるのか、世の中一般で共通かつ明確な基準は存在しない。

 従って通常は、自社で達成すべき水準を設定し、それを測定可能な評価指標を導き出して、その因果関係をつなぎ合わせていく作業をディスカッションを通して地道にやっていくしかないのである。しかし、現状を見ると、徹底した議論がなされぬまま、「他社ではどうやっているんですか? 他社と同じようにお願いします」という会社が少なくない。

 このような状況にもかかわらず、IT担当者は投資承認に際して「ROIを出せ」という役員会の壁を突破しなくてはならない。このとき担当者に持ってほしいのは、ROIで本質的に求められているのは正確な数値ではなく、その算出ロジックであるという強い認識だ。ROIには何らかの不確実性、あるいはロジックのあいまいさが残る。未来の出来事は、リスクに満ちているのだ。

 しかし、意思決定という仕事は、いい換えればリスクテイク──取るべきリスクを取ることだ。筆者は以前、あるCIOから「一番利益が出るのは、コケるギリギリ手前までリスクを取った判断。崖の内側に余裕を持って柵を作っているようなCIOは、自分の仕事を放棄しているのと同じだ」というコメントをいただいたことがある。まさに至言である。もし、誰にも共通で明確なROIが算出できるのであれば、投資意志決定者というポストは不要なはずだ。

Notesユーザー板挟みの構図

 さて、本連載のテーマであるNotesのユーザー企業において最もホットなイシューは、「Notes基盤を、今後どうしていくべきか?」である。よく見掛ける構図は図1のような、2方向からの誘いを受けて、まさに板挟みで身動きの取れない状態である。どちらに転ぼうにも、ROIをうまく導き出せないのである。

図1 Notesユーザーの板挟み(クリック >> 図版拡大)

■Notesユーザーへの甘い誘惑

 マイクロソフトの広告を見るたびに「SharePointにマイグレーションすれば、Notesの問題がすべて解決できるのではないか」と、考えたことのあるNotesユーザーは少なくないだろう。「社員力を、経営力に。」というフレーズでまとめられたキャンペーンは十分魅力的に出来上がっている。目指している世界観は“人中心のコラボレーション”という面でリアルコムと非常に近く、共感できる面もある。

 ただ、ROIという観点ではクールな見方が必要だ。確かに、目指す理想の世界が実現できれば、生産性を向上できるかもしれないが、それがユーザー当たり数万円のライセンス費用と膨大なデータ移行、アプリ再開発コストを投じてまで実現すべきかどうか、じっくりと検討する必要があるだろう。


 NotesユーザーがSharePointに移行する場合、分子 R の測定が難しいこともさることながら、その投資金額の大きさや作業見積もりの不確実性により、分母 I の精度を上げることが重要である。分母 I は買い直しになるライセンス費用と移行コストで、Notesを使い込んでいる企業ほど移行コストは膨れ上がる傾向がある。仕様の不明確なものを含む数百ものNotes DBを移行する作業を含むプロジェクトとなるため、請け負う業者にとってもリスクヘッジした見積もりを出さざるを得ない。結果、分母が数億〜数十億円というオーダーになる場合もあり、それに見合った業務変革の価値をひねり出せといわれても、ゼロの数が合わないという企業も多いだろう。いかに改善余地の大きいホワイトカラーの生産性とはいえ、50億円に相当するほどの無駄な作業をしている会社がいくつもあるとは考えにくい。

■Notesユーザーの厳しい現実

 一方、他社ソリューションに移行せず、Notesを使い続けるためにバージョンアップすれば、高いROIを示すことができるだろうか? 確かに、蓄積された情報資産は若干の改変で使い続けることができるため、投資コストとしては小さいのだが、バージョンアップだけで目覚ましい変化を実現するのは容易ではない。計算式でいうと、分母 I は小さいが、分子 R はほぼゼロということにもなりかねない。われわれが見てきた企業でも、バージョンアップのROIだけで投資を正当化することは難しいようだ。

 これを切り抜けるための1つの解は、IT企画から経営企画への視点の切り替えである。例えば、グループ経営に対応して本社とグループ会社間の情報連携を密にすることを目的に、Notes文書をキラーコンテンツにしたグループポータルを企画することで、結果的にNotesのバージョンアップを果たした企業もある。ツールから論じれば、Notesのバージョンアップに併せて、企業ポータルエンタープライズサーチなどを導入することになる。多少 I が増加しても、R をいかに確保するかという問題を解決しない限り、物事は先に進まないのである。

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