情報システム部門はビッグチャンスをつかめCIO、もの申す(1)(1/2 ページ)

「ITは経営に必須」「情報システム部門は戦略部門化せよ」などといわれて久しい。掛け声は勇ましいが、実践となると難しさが付きまとう。こうした状況に対して、現役CIOがもの申す。

» 2007年03月26日 12時00分 公開
[佐藤 良彦,@IT]

「ITは経営に欠かせない」はブームか?

 ここ数年、「経営とITの融合」について、さまざまな形で語られるようになっています。ITベンダ/コンサルティングファーム主催の講演会やセミナーはいうに及ばず、IT関連の雑誌のほか、ビジネス系のメディアでもこの分野の記事が頻繁に掲載されるようになっています。書籍に至っては、どれくらいの数が出版されているのか見当もつかないほどです。

 それに比例して、世のビジネスパーソンも「ITは経営に欠かせない」「わが社の経営戦略は、ITを切り離して考えられない」というようになっています。小生の知る限り、経営者層の9割が「ITは重要である」といっています。

 小生ももちろん、ITは経営に必要だと思っています。しかし、われわれITの分野に携わっている人間にとっては、そんなことはもう何十年も昔から認識し、理解していたことです。なぜ、いまさらこんな当然のようなトピックがもてはやされるのか、不思議に感じられないでもありません。

 そのなかでやや気になるのは(特に経営者に多いのですが)、「ITは何だかよく分からない部分も多いけど、とにかく重要なんだ」という表面的な情報が思考にインプットされている、というパターンです。これはおそらく、取引先や競合企業などの経営者の集う勉強会やパーティ、あるいは経営者仲間の飲み会、そしてITベンダからの「ぜひ、一度お話しだけでも……」という丁重なもてなしなどを通じて得た情報かもしれません。

 中には、他社から成功事例(自慢話)を聞かされ、「うちは大丈夫なのか?」「何か手を打たないと、他社に引き離されてしまう」という不安から、中途半端な知識と情報を基に、情報システム部門をせき立てる経営者もいます。あるいはITバスワードや流行の経営手法(経営にも、はやり廃りがあります)を聞きかじった経営者が、社内に大号令が発する場合もあるかもしれません。

 どうですか? これを読んでいる情報システム部門のみなさんのうち、「うん、うん」とうなずいていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

経営者の悩み、システム部門の悩み

 でも、これらの経営者(全員とはいいません)に見られる共通点を迷惑に思い、この状況を悲観する必要はまったくありません。逆にそんなことは決して思ってはいけません。「うちの社長はITの素人なんだから、経営にだけ集中しててくれよ」とか、「まったく何にも分かっていないのに口を出さんでほしいなあ」とか思ってはいけません。時々、飲み屋さんで、酔っ払って声(そして気持ちまで)が大きくなったサラリーマンの宴席から漏れてくる愚痴に、こんな批判はありませんか?

 実のところ、小生も昔は同じように思っていました。飲みながらよく上司や役員の悪口もいいました(これを昔の上司に見られるとしかられるかな?)。ですから、その気持ちはすごくよく分かります。情報システム部門担当者の本音ですよね。

 でも、歳を重ね、時を経て、情報システム部門を離れて経営者側に立って仕事をする機会が増えてくると、逆に経営者側も「うちの情報システム部門は経営的視点が足りない。システムさえ作っていればいいと思っている社員も多いんだよな」とか、「ITって金ばっかり掛かって、本当に効果があるのか? しかし、やらないわけにはいかないし……」という声が聞こえるようになってきました。

 この状況は特定の企業に限った話ではなく、ごく一般的に見られる現象なのだろうと思います。つまり、お互いに悩みを抱え合っているのです。端的にいえば、これはお互いを知ろうとする努力の不足であり、コミュニケーションが同じ目線でされていない結果なのだと思います。この積み重ねが、情報システム部門が他部門から見て「ブラックボックス」と見なされる要因でしょう。

「IT」がまだ「システム」だった時代

 小生がまだ初々しい社会人であった1980年代後半の事業会社(ユーザー企業)では、営業部門などの、文字通りお金を稼いでくる部隊が花形であり、情報システム部門はコストセンターなどと呼ばれ、ちょっと日陰的な存在(位置付け)にあったように記憶しています。例えば、こんなこともありました。当時はゼネラリスト志向が台頭していた時代で、企業は人事ローテーションを意識的に行いました。そのため、花形である営業部門で働いていた社員が、突然、「来週からシステム部に異動だから、頑張ってね!」といわれるような状況も珍しくはありませんでした。異動をいい渡された社員の中には、異動先がシステム部というだけで「俺は左遷されてしまった」的な勘違いをする人さえもあったと思います。それだけ、システム部門は日陰の存在だったのです(異論もあるでしょうが、小生が知る当時の企業はそんな感じでした)。

 当時、普通の事業会社のオフィスではパソコンやLANは一般的なものではなく、フロアにスタンドアロンのマシンが1台あればいい方でした。システム部門はオフコンや大型汎用機を相手にする部署であり、一般社員からすればITは極めて縁遠いものでした(そもそも当時、「IT」という言葉も使われおらず、「情報システム」「システム」といっていました)。ですから、経営者も一般社員も今日のようにシステムの必要性・重要性に気付く機会は、まずなかったといっていいでしょう。当時、システムは「難しいもの」「畑違いのもの」「踏み込みたくない分野」といった位置付けだったのです。

 ITは難しいもの──という点に関しては、依然としてそのように思われていると主張する方もいらっしゃるでしょう。確かにそうかもしれません。しかしながら冒頭にも述べたように、「ITは経営にとって必要不可欠である」という経営者の意識は(弊害もあるにせよ)確実に高まっていますし、人数も増えています。以前はこのような発想を経営者に持ってもらうことすら難しく、せいぜい業務効率化に役立つといった理解、認知度でしかなかったように思います(特にバブル崩壊後、いわゆるリストラ時代に多く見られました)。

 それに比べて最近では、多くの経営者が「ITは経営にとって不可欠である」と、いい始めています。さらには、「ITはビジネスを成長させ、収益をもたらし、変革やイノベーションまでも生み出す!」なんてことをいう経営者さえいます。これはさすがに一概にはYesとはいえませんが、とはいえ何と素晴らしい状況変化、時代の変化でしょう。そう、これこそが情報システム部門にとってのビッグチャンスなのです。経営者の持つ意識変化をうまく利用して、もっとITの必要性や情報システム部門の社内の地位を高め、さらには社会全体でも花形といわれる存在になろうではありませんか!

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