「情報マネジメント」を実現する4つの施策“情報洪水”時代の情報流通戦略論(3)(1/3 ページ)

企業内にあふれる情報をマネジメントすることで、組織としての情報活用能力を高めるというコンセプト「情報マネジメント」──。今回はその実践施策について解説する。

» 2006年04月01日 12時00分 公開
[吉田 健一(リアルコム株式会社),@IT]

本稿は、リアルコムが発行するPR誌「VISION」に掲載された記事「情報マネジメントがもたらす個と組織の能力向上」に加筆・修正を加えたものを、許可を得て転載したものです。


 前回の『三菱東京UFJ銀行に見る「情報マネジメント」の実践例』で、情報マネジメントの具体的イメージをつかんでいただけたと思う。今回は、具体的に「情報マネジメント」を実施する際に重要となる4つの施策について紹介していきたい。

受け手本位の情報リストラクチャリング

 情報マネジメントでまず重要な視点は、「受け手本位」という考え方である。情報というものは出し手の理論で提供されることが多い。ケースの三菱東京UJF銀行でも、情報の出し手である本店の理論で情報が提供されたため、情報の受け手の現場は情報の洪水におぼれてしまった。そこで、情報の流れを受け手の視点から抜本的にリストラクチャリングする必要がある。受け手本位の情報流通を設計する際に有効な考え方に、「情報の取引市場=情報マーケット」がある(図10)。

 第2世代の「情報共有」時代において、情報共有といえば「データベース」というイメージが強い。「データベース」は無論、情報を保存・蓄積するには適したものだが、データベースの構造や運用を正しく設計しないと、個々の出し手の都合で使えないデータベースが社内に乱立することになりかねない。本来、データを見つけやすくするはずのデータベースであるにもかかわらず、受け手は膨大なデータベースの森の中を探し回らねばならず、結果的に必要な情報にアクセスできないという喜悲劇が現実に起っている。

 そこで受け手本位に発想を転換し、「受け手に取りに来させる」のではなく「受け手に見ていただく」ために、受け手が情報を容易に手に入れることができる情報の取引市場=「情報マーケット」を創設する。「情報マーケット」は出し手と受け手の需給がマッチングする場所である。受け手は情報が欲しいときには「情報マーケット」を訪れればどんな必要な情報にもアクセスできる。出し手は受け手に情報を「見ていただく」ために、情報マーケットに情報を出品し、品ぞろえを整えるのである。三菱東京UFJ銀行の「コミュニティ」はこの「情報マーケット」のイメージである。

図10 受け手本意の情報リストラクチャリング(クリック >> 図版拡大)

 この「情報マーケット」は、受け手の「顔」に応じて何種類かが作られることが多い(図11)。例えば、「A銀行リテール本部B支店長」という1人の人も、「A銀行の銀行員」「リテール本部員」「B支店長」というさまざまな顔を持っており、それぞれの顔ごとに必要な情報は異なる。そこで、A銀行全社員向けには「A銀行全社員向けマーケット」、リテール部門に対しては「リテール部門向けマーケット」、支店長に対しては「支店長向けマーケット」という形で、受け手の「顔」に合わせて最適な「情報マーケット」にアクセスする。出し手は、誰に情報を提供したいかに応じて、どの「情報マーケット」に情報を出品するのかを考えるわけである。

図11 情報マーケットの設置(クリック >> 図版拡大)

 しかし、こうすると各個人は複数の「情報マーケット」を訪れる必要が出てくる。そこで有効なのが「情報の玄関=ポータル」である。「ポータル」と聞くと「ああ、2000年くらいにブームになって成果が出ないまま下火となったあれか」と思われる方も多いかもしれない。確かに、当時のポータルブームは表層的な「玄関」の話に注目が集まってしまったが故に失敗してしまった。しかし、そのポータルが再び注目を集めている。情報がやりとりされる「母屋」すなわち「情報マーケット」の改革を行い、それを束ねる「玄関」として「ポータル」を見直すことで、成果を出している企業が出始めたからである。「ポータル」と「情報マーケット」の組み合わせにより、受け手にとって最適な情報流通が実現できる。

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