PMのノウハウでは成功しない案件とは?失敗しない戦略実現術、プログラムマネジメント(1)(1/2 ページ)

ソフトウェア開発など、ゴールが明快な案件にはPMBOKなどのプロジェクトマネジメントの方法論が効果を発揮する。では事業の立ち上げなど、ゴールの規模が大きく、売上成長や事業再構築など多様なゴールを目指す複雑な案件の場合、どのような方法論が有効なのだろう? 現場で起こりがちなストーリーを通じて、プログラムマネジメントの秘けつを共に学んでいこう。

» 2012年02月23日 12時00分 公開
[清水幸弥, 遠山文規, 林宏典,PMI日本支部 ポートフォリオ/プログラム研究会]

その事業はプロジェクト? プログラム?

 「深沢さん、僕、会社が発表したクラウド事業の推進担当に抜擢されました!」

 深沢の自室にノックもなく駆け込んできたのは速水学だった。CRM(Customer Relationship Management)専業の中堅ソフトウェアベンダ、A社でサービス本部長を務める深沢と、ソフトウェア開発の中堅である速水とは、速水が新人として配属されて以来の付き合い。速水は、共にいくつものプロジェクトを経験した深沢を慕い、普段から公私にわたり相談を持ちかけていた。

 深沢は速水を落ち着かせて話を聞くと、「最近社内で発表があったクラウド事業のために、新たに設置される立ち上げチームへの参加を打診された」とのことだった。

 A社はこれまでパッケージソフトのライセンス販売を主軸としてきたが、クラウド化の潮流に遅れを取らないため、インターネット経由の利用に対し月額課金を行う、つまりSaaS(Software as a Service)型での提供を決めたのである。速水は立ち上げチームの中で、実質的に事業プランを立案、リードする立場を期待されているとのことだった。


深沢 「そうか、おめでとう!CRMの世界には、クラウドでの提供を前提としてきた強力なライバルもいるが、挑戦のし甲斐がある仕事だね。さて、クラウド事業の立ち上げにあたり、当面君は何をやるつもりだい?」

速水 「はい。クラウドでの提供を実現するために、追加の開発が必要です。また、インターネット経由が前提ですから、ストレスがない応答スピードを実現するためのサービス基盤の検討も必要ですね。製品投入のターゲットである来年10月に向けて、必要な人員、リソースを算定して役員へ確保を依頼する予定です」

深沢 「サービスの基盤は自社内で準備するの? それとも他社のデータセンターを借りるのかい?」

速水 「拡張性を考慮すると、やはりデータセンター事業者のインフラを借りるのが現実的ですね」

深沢 「……しかし君がやらなければいけないのは、ソフトウェアのクラウド化対応だけかい?

速水 「いいえ、クラウド事業全体の推進です。今の深沢さんのご指摘で、ソフトウェアだけでなく、ハードウェア基盤の調達方法もチームの検討範囲であることに気付きました」

深沢 「うん。確かにその2つがそろえばSaaSでのソフトウェア利用環境は整備できる。ただ、事業として伸ばすためにはそれで十分かな? ライセンス販売のビジネスが今後も主流で、クラウド提供は代替案扱いならばそれでいいが」

速水 「いえ……。相沢社長は、クラウド事業が今後3年でライセンス販売を超える『事業の柱』となることを期待しています。確かにおっしゃる通り、ソフトウェア利用環境の整備以外にも、営業活動や導入サービスの開発など、必要な要素はありそうですね。この事業を所管する田村本部長に相談して、検討範囲を見直してみます」


 さて、いきなりストーリーから始めてみたわけだが、皆さんは二人の対話の中にある速水君の事業リーダー視点での課題を見抜くことはできただろうか?

 本連載では、プログラムマネジメントについて掘り下げていく。プログラムマネジメントとは、分かりやすく言うと「共通の目標を持つさまざまな取り組みを統合管理することで、組織の戦略的目標の達成を図るマネジメント手法」である。プログラムマネジメントは、上記のストーリーのような新規事業開発をはじめ、組織・業務改革、地域開発、企業合併といった“多様な活動が相互に連携することで大きな成果につながる取り組み”の中で生み出された知見である。

 本連載では、その中で特に新規事業開発の例、つまりソフトウェアベンダにおけるクラウド事業立ち上げを通じて、PMI(R)のPGM標準の枠組みから、プログラムマネジメントのポイントを解説していく。ただ、標準にある学術的な定義や説明だけでは具体的な適用のイメージがわきにくい。そのため、PMI(R)標準を金科玉条とするのではなく、研究会メンバーの実際の成功・失敗経験を入れ込むことで、プログラムマネジメントの重要性やノウハウを実感していただけるような展開を目指していく。

 市場競争が激化し、ビジネスの展開スピードも加速している今、なぜプログラムマネジメントが企業が勝ち残るための鍵となるのか?――では次のページから、さっそく本論に入ろう。

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