“のりしろ”マインドがIT経営を実現する公開! IT経営実践ノウハウ(1)(1/2 ページ)

『IT経営』とは、経済産業省の定義だと「ITの高度な利活用によって経営戦略を遂行し、企業の生産性を高めて競争力の強化を図ること」となっている。これに取り組むとき、多くの企業で障害となっているのが“人材難”だ。IT経営を推進する人材に必要なスキルとマインドとは何だろうか?

» 2008年02月04日 12時00分 公開
[齋藤 雅宏,@IT]

『IT経営』の導入がうまくいかない理由とは

 近年、情報技術の進歩や業務フローの煩雑化により、『IT経営』の導入難易度が大幅に上がっています。その結果、ITシステムの導入プロジェクトが失敗に終わるケースが急増しています。

 これらの本質的な問題は何でしょうか?

 各種メディアでもさまざまな観点から語られていますが、私は『IT経営』を実践する経営や営業の現場に、『IT経営』の本質がうまく伝わっていないからだと考えています。

 『IT経営』という言葉は新聞などでも嫌というほど目にしますが、J-SOX法内部統制対応、連結経営対応など小難しい話ばかりで、聞いていて途中で疲れてしまいます。『IT経営』の本質はコンセプトや方法論を事細かに説明するだけでは伝わるはずもなく、「また現場を知らないやつが訳の分からないことをいっているよ」と聞き流されるのがオチです。

 経営や営業に携わる人々に伝えるべき『IT経営』の本質には、導入の目的、組織体制、運用方法、評価方法などいろいろあり、これらをいかに分かりやすく伝えるかは確かに重要です。しかし、それ以上に重要なのは現場にうまく伝わらない根本的な原因が何であるかを把握することではないでしょうか?

 私が現場で経験し、さらにいろいろ調べてみた結果、次の事実を発見しました。

『IT経営』の基盤構築を担う“情報技術”は、論理的(ロジカル)思考が大前提である一方、『IT経営』の実践現場では、顧客の購買意欲の向上に寄与する“感性マーケティング”が求められており、これまで以上に感情的(エモーショナル)思考を重視している──。

 過去に私が経験した複数のプロジェクトで、実際に発生した各種の問題をこの観点で分析してみると、なるほどと思うことが多々ありました。そこで、私はこの『IT経営』のベースとなる論理的思考と、受け手の思考回路を構成する感情的思考のギャップこそ、受け手が「小難しくて、何をいっているのか分からない」と感じ、本質がうまく伝わらない根本的な原因と考えるようになったのです。

ALT 一歩踏み込め!

 そこで私は自身が参画した新規プロジェクトで、この考えに基づいた、論理的に検証した内容を顧客志向(感情的)の観点から説明する方法を試みたところ、プロジェクトメンバー間のコミュニケーションが格段に良くなったのです。このことから、この分析は間違いないと確信しました。

 ポイントは、思考回路の違う者同士が1つの方向性を見いだすには、相手に対して「自分の考え方を具体的に伝え、自分で実践し、それを参考に相手にも実践してもらう」ぐらいの心配りをして初めて本質まで理解できるようになることを知ることです。このスタンスをわれわれは“のりしろ”(相手の立場に立って一歩踏み込んで考え、相手が受け入れられるように伝える気遣い)と呼び、とても重視していました。

『IT経営』成功のカギは“のりしろ”と“自主的な実践”

 『IT経営』の成功は、“のりしろ”の使い方と“自主的な実践”の徹底度がカギを握っていると思います。そこで、私の実体験を具体例に、“のりしろ”と“自主的な実践”の重要性について説明したいと思います。

 私は、15年間総合商社に勤務し、珍しいキャリアを積んできました。入社直後、情報システム部門へ配属され、社内基幹システム(業務系、会計系)や業務系システム(企業間データ連携など)の開発・維持管理などに携わり、IT系プロジェクト管理のノウハウを身に付けました。そして入社6年目に事業企画部に異動し、ECサイトの企画・開発、新規事業の企画・開発、事業投資先の経営支援、ベンチャー投資、内部統制機能の構築などにかかわって事業開発やイノベーション実践のノウハウを身に付けました。

 このように商社マンでは珍しいキャリアを積んだ結果、ビジネスの現場に変革をもたらし、顧客に評価される革新的ビジネスモデルが構築できるマインドやノウハウを手に入れることができました。

 その後、私は事業企画部の管理職となりました。当時、流行していた“eビジネス”に関連する新規事業を顧客企業に提案するチームを任されたのです。メンバーは、私の「成功例」を受けて、情報システム部門からやってきた後輩たちでした。

 しかし、彼らは私と違って営業現場の経験はなく、私としては私の持つマインドやノウハウを体系化して効率的に伝える必要性が出てきたのです。最初はベーシックにOJTでの育成を試みたのですが、例えば「私だったらこう解決するが……」と部下に伝えても、「自分の力はそのレベルにありませんので、いきなりいわれても無理です……」といった答えが返ってくるパターンの繰り返しで、なかなか前に進むことができません。

 「どうして私の思いが伝わらないのか?」と考える日々が続き、解決策を求めて諸先輩の意見を聞いて回りました。

 そんなある日、得意先企業の事業本部長の口から「うちの営業部門はビジネスのプロなのに、どうして君のところのビジネスの素人(情報システム部門の出身者)に、ビジネスの仕組み作りまで丸投げしてしまうのか?」という言葉が投げ掛けられたのです。

 このセリフを聞いた瞬間は、正直にいえば「?」という感じだったのですが、やがてその意味が分かってきました。

 情報システム部門出身の部下は、案件に対して「これは○○事業を担当する営業部局のシステム化」というスタンスで臨んでいました。営業部門の担当者からシステム化要件を聞き出し、多面的に積み上げてシステムの仕様を固め、営業部門の責任者の了解を取り付けるという手法です。

 一方、私も情報システム部門出身ですが、そこに属していた期間の半分以上を営業部門で過ごしたので、基本的に「これは自分のビジネス」というスタンスで臨む癖が付いていました。事業戦略に基づきビジネス要件のアウトラインを考え、それを基にシステム化要件を営業部門の責任者と何度も擦り合わせて、システムの仕様を固めていくのです。

 上述の事業本部長の言葉の真意は、われわれIT経営推進部隊が、(1)ビジネスのプロと対等に話ができるスキル&ノウハウ、(2)ビジネスのプロとは異なる視点で提案し、自主性を持って実践するマインドを身に付けてほしいというメッセージだったのではないか──そんなふうに考えました。

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