プリンティングガバナンスとは何か?ネットワーク時代のプリンティングガバナンス(1)(1/2 ページ)

内部統制対策として、IT全般統制に取り組んでいる企業は多いだろう。だが、企業の情報メディアとして重要なコンポーネントである「紙」に関するガバナンスは考慮されているだろうか? ここでプリンティングガバナンスについて考察する

» 2008年03月05日 12時00分 公開
[向井 俊一,@IT]

 ご承知のようにこの4月より、上場企業に内部統制報告を義務付ける日本版SOX法の適用が開始されます。多くの企業がそれに合わせてコーポレートガバナンスの観点から、IT統制の見直しを行っています。皆さんの会社でもそのような作業が進んでいるかもしれません。ところで、皆さんの会社で考えられているコーポレートガバナンスに“プリンティングガバナンス”(プリンティング統治)は含まれているでしょうか? データベースや認証システム、ローカルPCについてのセキュリティやガバナンスは考えているものの、プリンティングに関しては未着手の方々も多いのではないでしょうか。

 多くの企業で、「プリンティング」は注目すべき先端テクノロジだとは認識されず、IT統制の枠の外に置かれているのではないでしょうか。あるいはオフィスではMFP(複合機)化が進むなか、「コピー機」と見なされ、システム担当者の守備範囲に含まれていないかもしれません。しかし私は、「プリンティングガバナンス」がデータベースやPCのガバナンスと同等に重要であり、注目すべき課題だと思っています。なぜなら、いまや企業におけるプリンティングこそが、最も野放しでガバナンスの及ばない危機的状況にあると考えているからです。

 プリンティングガバナンスについて論じる前に、まずはプリンティングの重要性をあらためて見直すことから始めてみましょう。

紙はなぜ使われ続けるか

 「ペーパーレス」という言葉は、1970〜1980年代によく使われた流行語でした。当時、多くの未来学者やエンジニアが電子機器やマイクロエレクトロニクスの進化・発展によって、紙なしでも情報が瞬時にやり取りできる“明るい未来”が到来することを予測していたのです。

 ただしこの明るい未来は、プリンタ・メーカーにとっては市場縮小という危機を意味するものでした。乾式複写機市場で支配的な地位にあった米国ゼロックスが、「パーソナルコンピュータ」「GUI」「マウス」「LAN」などのアイデアを創造したパロアルト研究所(PARC)を設立したのは、将来のペーパーレス化に備えてのことだったといいます。

 この未来予測をなぞるように1980年代にはOA化が、1990年代にはIT化が大きく進展しました。ところが皮肉なことにOA/IT機器が生み出す印刷物の絶対量は現在に至るまで、減少するどころかむしろ増大しています。

 実際のところ、紙──ここでは紙への印刷物という意味ですが──は非常に優れた情報メディアです。その優秀性を見直してみましょう。

(1)携帯性 人間がじかに扱える程度の情報量を持ち歩こうとするとき、紙は最もポピュラーな媒体です。最近の携帯電話機には100g以下のものもありますが、長文を読むということだけを考えれば、紙の方が軽くて便利です。膨大な情報を格納できるという点でノートPCも有益ですが、実際に通勤電車の中で“読む”行為をしている人のほとんどは紙(商業印刷物が多い)を利用しています。

(2)情報アクセスの容易さ 紙に印刷した文書を読むときには、冒頭から順を追っていくだけではなく、不要な個所を読み飛ばしたり、前に戻って見直したりすることが容易です。マーカーや付せん紙を使って、重要個所に印やメモを書き込むことも簡単です。特別な訓練はいりません。同じようなことをPCのビューアで行おうすると、けっこう面倒な操作が必要です。紙の文書の方がはるかに簡単だと思うのは私だけでしょうか?

(3)普遍性 われわれ、情報産業にかかわる者たちは、パソコンは万人が使えるものと錯覚しています。日本国内でも世帯別PCの保有率は7割を超えていますが、日常の仕事でPCを多用している人たちはむしろ少数派です。PCは持っていてもPCを使いこなせない人が多数派なのです。それに対して紙の印刷物はほとんどの人にとって平等です。誰でも同じレベルでアクセスし、利用し、共有することができます。

 紙メディアは15世紀のグーテンベルクの印刷機以来、いや紀元前の羊皮紙以来の長い歴史を持った情報メディアであり、極めて完成度の高い使いこなしノウハウが培われてきました。一方、「コンピュータ+ネットワーク」も大変便利な情報メディアです。われわれ情報産業にかかわる者は、デジタル技術が紙メディアの至らない点を補完できることをよく知っています。それだけに“デジタルの方が便利”と単純に思い込んでいる場合が少なくありません。

 しかし、ユーザーが本当に求めているのは情報メディアではありません。“情報そのもの”です。情報を伝達・蓄積するのに、その容器として媒体=メディアを使っているだけですから、利用場面に応じて便利なものを選ぶことになります。紙メディアとデジタルメディアの双方がそれぞれに便利ならば、良いところを組み合わせて使いたいと考えるでしょう。

 実際、情報産業はそうしたユーザーニーズを受けてソリューションを生み出してきました。プリンティングテクノロジは、コンピュータ+プリンタ(紙)のハイブリッド技術であり、当面はなくならないでしょう。

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